振り返るとハリーが呪文をかけたと全く同時にロンとハーマイオニーもスネイプ先生に武装解除の呪文をぶつけたようでした。

私は呻くシリウスや、縄目を解こうとしていたリーマスさんの事さえも忘れて、スネイプ先生に駆け寄りました。
流れる血を恐る恐る触れました。手が赤く染まります。

恐怖にさらに泣きそうになった私は助けを求めるようにリーマスさんに振り返りました。
シリウスに縄を解かれたリーマスさんは腕あたりを摩りながら、苦笑を向けました。

「呪文は『エピスキー(癒えよ)』だ。使ってごらん」
「エピスキー(癒えよ)!」

私はすぐさま杖を取り出してスネイプ先生にかけました。初めて使う呪文でしたが、なんとか血は止まったようです。
私は息を長く吐きます。止まりかけた心臓が再び戻るようでした。

憎々しげな表情をしていたシリウスに、リーマスさんが何かを囁きました。シリウスの表情はさらに酷いものになりました。
私は涙を拭ってから、首を傾げます。

気絶しているスネイプ先生を横にし、またリーマスさんとシリウスの側に寄ると、シリウスはロンに手を伸ばしました。

「君達に証拠を見せるときがきた。
 君、ピーターを渡してくれ」

ですがロンはその手から逃れるようにスキャバースを強く抱きしめました。

「冗談はやめてくれ。スキャバースなんかに手を下すためにアズカバンを脱獄したっていうのかい?
 それに、アズカバンに閉じ込められていたらどのネズミが自分の探しているネズミかなんてどうやったらわかるっているんだい?」
「そうだ。シリウス。もっともな疑問だ。
 あいつの居場所を、どうやって見つけだしたんだ?」

リーマスさんも少し眉根を寄せシリウスに向きました。シリウスは私に聞きます。

「リク、今、持ってきているか?」
「はい。あります」

私は鞄に手を入れ、目的の物を見付けました。

それはほぼ1年前の『日刊予言者新聞』の切り抜きでした。
S・Bと走り書きがされたそれにはロンと家族と、スキャバースも載っていました。

シリウスはここからスキャバースを見つけだしたのでした。

それとスキャバースには指が1本ありません。
ピーター・ペディグリューの残骸では1番大きかったのは指だっただとされています。

シリウスが疑われるように道行く人に聞こえるように叫んだピーター・ペディグリューは、そのあと自分で指を切り、そして、通りの人間を皆殺しにしたのです。
最後にはネズミが沢山いる下水道に逃れて、今まで逃げていたのです。

「そろそろリクちゃんとの関係を聞いてもいいかい、シリウス?」

そこでリーマスさんは静かに、シリウスに向きました。
怒っているようなリーマスさんを横に、これ以上待たせる事は出来そうにないと、私は静かに話し出しました。

「シリウスと会ったのはここ1年では無くて、もっと前、私がホグワーツに入学した時です」
「でもその時はまだシリウスはアズカバンにいるはずだ」
「はい。私達はアズカバンで会いました」

不思議そうにしたリーマスさんやハリー達に私は、私が夜に幽体離脱のような経験をしていた事を話しました。

ここ数年、殆ど毎晩シリウスに会っていたことをいうと顔をしかめるリーマスさん。
少し慌てた様子のシリウスが弁解をしてくれました。

「最初は俺がリクに頼んだんだ。
 リクがいたお陰でアズカバンでも吸魂鬼の影響を全て受けなかったと言っても過言ではない」
「…いや、この話は後でもう1回しよう。
 もしかしたらスネイプ先生に新しく魔法薬を作って貰わないと行けないかもしれない」
「え?」

新しく魔法薬を。とはどういうことでしょうか。何かこれは悪い症状なのでしょうか。

深く黙り込んだリーマスさんが私の手をぎゅうと握りました。
そして呟くように私に言います。

「それでシリウスと知り合ったんだね?
 シリウスの手助けもその力で?」
「はい。脱獄の最初の打ち合わせなどは夜にしていました。
 ホグワーツに来るまでのお手伝いも。
 着いてからはご飯持っていったり、ですよね」
「あぁ。リクと、フェインやクルックシャンクスも俺を助けてくれた。
 そして、ピーターは事の成り行きを察知して死んだふりをした」

ピーター・ペディグリューは自分で血の跡を残し、クルックシャンクスの仕業に見せかけたのです。

今までリーマスさんやハリー達はシリウスが『秘密の守人』だと思っていました。
『秘密の守人』であるシリウスがヴォルデモードに情報を売ったのだと。

ですが、実際はシリウスが直前になってピーター・ペディグリューを守人にするよう勧め、そして『秘密の守人』になったのです。

「話はもう十分だ」


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