「やめて!」

私が声を出すより先に、ハリーが駆け出して杖の前に立っていました。

「殺してはだめだ。殺しちゃいけない。
 こいつを城まで連れていこう。僕達の手で吸魂鬼に引き渡して…こいつはアズカバンに行けばいい」

ピーター・ペディグリューが息を呑みました。両腕でハリーの膝を抱きます。

「ハリー! 君は…ありがとう…こんな私に…」
「放せ」

顔を歪ませたハリーによってピーター・ペディグリューの手が払われました。

「お前のために止めたんじゃない。僕の父さんはお前みたいなもののために、殺人者になるのを望まないと思っただけだ」

静寂が私達を包みました。

それから、リーマスさんとシリウスがゆっくり杖を降ろしました。

私はバッとリーマスさんに飛びつきました。体はまだ震えていましたが、私はリーマスさんの体を強く抱きしめます。
呆然としながらも抱きしめ返してくれるリーマスさんに顔を埋めまていました。

「いいだろう。ハリー、脇にどけてくれ。縛り上げるだけだ」

私から片手を離したリーマスさんがピーター・ペディグリューに杖を向け、先程スネイプ先生がかけたような呪文を唱えて、彼を縛り上げました。

「しかし、ピーター、もし変身したらやはり殺す。
 いいね、ハリー?」

ハリーはピーター・ペディグリューにも言えるように頷きました。

「よし。
 ロン、医務室に行くまでの間、包帯で固定しておくのが1番いいだろう。
 マダム・ポンフリーの方がうまく治せるから」

ロンの足に巻き付いていたフェインが合わせたように静かに離れました。
呻くロンの元にすぐさまリーマスさんが呪文を唱えます。

添え木で固定したロンの足に包帯が巻き付きました。
恐る恐る体重をかけるロンでしたが、顔をしかめることはありませんでした。

ロンの足から離れてきたフェインが私の肩まで登ってきました。

抱きしめ、キスをします。そしてチラリとスネイプ先生を見ました。
まだ気絶しているスネイプ先生が起きだしてきたら、面倒なことになるでしょう。

私の視線にリーマスさんが気がつきました。

「このままにしておくのが1番いいだろう」

もう1度唱えた呪文で、スネイプ先生の身体が引っ張り上げられ、立ち上がりました。ちょっと、怖いです。
私は『透明マント』を拾い上げて鞄にしまいました。

「誰か2人こいつと繋がっておかないと」
「私が繋がろう」
「僕も」

リーマスさんとロンが声を出しました。
さらにはフェインがシャーと低く呻きながらピーター・ペディグリューの肩に上りました。

「フェイン。彼がおかしな事をしたら食べていいですからね」
「シャァ」
「『腹壊すから嫌だ』って」
「…正しいですね」

呟く私の前、先頭を行くのは尻尾を振り上げたクルックシャンクスでした。


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