そして見覚えのある後ろ姿を見つけた時、私は叫びました。
「リク! リク・ルーピン!」
暗い森の中、『私』の前に飛び出すと、私と同じ顔が呆けた方に驚いた顔が見えました。
先程はあんなに驚いたドッペルゲンガー的な現象も2回目になれば、焦りの方が先立ちます。
私は素早く脱狼薬を取り出して、数分過去の『私』に差し出しました。
「私は『逆転時計』で来た私です! これをリーマスさんに!」
「それでリーマスさんはどこにいますか!?」
「わ、わかんないですよ!!」
慌てた様子で問われると、そういえば私はリーマスさんの居場所を知らないことに気がつきました。
困った私が言い返すと、あろうことか自分自身に馬鹿にされてしまいました。
「私の馬鹿!」
「貴女も私なんですからね!!」
言い返しあっていると、私達の目の前に大きな姿、狼人間となったリーマスさんが現れました。
ぐるると鳴くリーマスさんの口の端からは牙が覗き、涎が滴っていました。
私達は完全に理性を失っているリーマスさんの瞳を見つめながら、身を寄せ合いました。
「それで、これをどうやってリーマスさんに飲ませましょうか…」
「わかりませんけど………さっき出来たんで今も出来るはずです」
「それは……心強いですね!」
鋭い爪が私達の間を裂きました。爪をかわして、私達はリーマスさんに杖を向けました。
私達の知っている呪文はまだ数少ないです。その中で咄嗟に思いついたものを唱えました。
「「スコージファイ(清めよ)!!」」
あれ! これさっきもやりました私! 本当に頼りない!
先程見た時と同じように、その発生した泡がリーマスさんの顔面にあたり、狼人間は苦しそうに首を振ります。
過去の『私』は顔を覆っていました。
「あぁ、ごめんなさいリーマスさん!!」
「何を言っているんですか、早く薬を!」
私に怒られ、我に返った『私』は暴れるリーマスさんに飛びつき、その獣の口に薬を流し込みました。
暴れ続けていたリーマスさんがゆっくりと落ち着いていきます。
よかった。これでこれ以上リーマスさんが傷ついたりはしないはずです。
獣の身体となってしまっているリーマスさんのお腹辺りに頭を乗せている『私』に声をかけました。
「私はもう戻ります。このままいてください。助けが来ますから」
「わかりました」
急いでハーマイオニー達の所に戻らなくてはなりません。
私が森の中を走っていくとその途中、いつもシリウスが隠れていた洞穴の湖近くでハリー達を見つけました。
「リク! どこに行ってたのよ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ハーマイオニー」
ぱしぱしとハーマイオニーに叩かれ、私は身をすくめます。
後で説明することを約束してから、城の近くまで戻りました。
そこでは気絶していたスネイプ先生が立ち上がり、同じく倒れていたハリー達を魔法で作り出した担架に乗せていくところでした。
「時間がないわ。ダンブルドアが病棟に鍵をかけるまで45分くらいあるわ。
その間にシリウスを助けて、病室にもどらなくちゃ…」
「待ってください。スネイプ先生が戻ってきました」
その声に私達がまた素早く隠れました。スネイプ先生は再び森の中に入って行きます。
そしてほんの数分でまた森の中から出てきました。
「あっ」
「リク、静かに!」
その腕には過去の『私』が抱かれていました。なんとなく今の私の頬が染まります。
私を助けたのがスネイプ先生だったなんて! というかお姫様抱っこですか!
内心騒いでいた私など構いもせず、私達はスネイプ先生が城の中に戻っていくのを見送ってから、バックビークを引いてその背に乗りました。
「いいかい? 僕に掴まって――」
3人で乗るのには些か無理はありましたが、バックビークは力強く飛び上がりました。
真っ暗闇の中、私達は飛び上がり真っ直ぐにシリウスの元へと向かっていました。
押し殺したハーマイオニーの悲鳴が聞こえる中、ハリーが操るバックビークがうまくシリウスのいる事務所の中へと向かうことができました。
シリウスが驚いた表情で私達を見ています。私はシリウスに飛びついてからすぐさまバックビークへと案内しました。
「ど、どうやって――?」
「乗ってください。時間がないのでまたあとでお話します。
また、夢の中で」
「もう1人の子は、ロンはどうした?」
急き込むシリウスがハリーへと問います。ハリーもハーマイオニーも余裕など全くなくハリーを見つめるシリウスを急かしました。
最後に、シリウスはハリーに向き、言いました。
「君は…本当に、お父さんの子だ、ハリー」
そしてもう1度私の頭を撫でたシリウスがバックビークに跨り、そして暗い空へと飛び立っていきました。
シリウスは行ってしまったのです。
私とハリーが食い入るように空を見つめていると、ハーマイオニーが私達の袖を引っ張りました。
「ダンブルドアが病棟に鍵をかけるまであと10分きっかりしかないわ! 急ぎましょう!」
「わかった…行こう」
事務所を抜け、人気の無い廊下を私達は全力疾走しました。途中、ピーブスに会いそうになり、少しだけタイムロスをしましたが、私達はダンブルドア校長先生の背中に追いつくことができました。
バッと私達はダンブルドア校長先生の前に飛び出しました。
校長先生は顔を上げ、にっこり微笑みました。
「さて?」
「やりました! シリウスは行ってしまいました、バックビークに乗って――」
「ようやった。さて…2人とも出て行ったようじゃ。中にお入り。わしが鍵をかけよう」
ダンブルドア校長先生に促され、私達は病室に戻って来ました。
長い息をつき、鍵のかかる音がする時には私達はベッドに潜り込んでいました。
次の瞬間にはご機嫌斜めなマダム・ポンフリーが事務所から出てきて、私達に大きなチョコレートの塊を差し出しました。
大人しくそのチョコレートを口にしていると、廊下の方から怒り狂う声が聞こえてきたのです。
「なにかしら?」
驚くマダム・ポンフリーの横、ハリーとハーマイオニーと顔を見合わせ合いました。
この声は、この怒鳴り声はスネイプ先生です!
「――きっと『姿くらまし』を使ったのだろう、セブルス――」
「奴は断じて『姿くらまし』をしたのではない!」
ドアをぶち壊すかのような勢いで開きました。
その扉からファッジ魔法省大臣、ダンブルドア校長先生、そしてスネイプ先生が入ってきました。
スネイプ先生は逆上している様子でそのままハリーの方を向くと怒鳴り散らしました。
マダム・ポンフリーや魔法省大臣がスネイプ先生を落ち着かせようとしています。
「白状しろポッター!! 一体何をした!?」
「スネイプ先生! 場所をわきまえていただかないと!」
「ドアには鍵がかかっていた。今見た通りだろう――」
「こいつらが逃亡に手をかしたんだ!!」
「もう十分じゃろう、セブルス」
校長先生の静かな声がスネイプ先生を制しました。
「わしが10分前にこの部屋を出た時からこのドアにはずっと鍵がかかっていたのじゃ。
マダム。この子達はベッドを離れたかね?」
「もちろん離れてませんわ! わたくし、ずっとこの子達と一緒にいました」
「セブルス、聞いての通りじゃ」
落ち着いた声が病室に落ちました。殺気を纏ったままのスネイプ先生はその場に棒立ちになったあと、くるりと背を向けて病室を出て行ってしまいました。
「先生――」
思わず立ち上がった私でしたが、キッと視線を強くしたマダム・ポンフリーに戻されてしまいました。
再びベッドの中に私は入っていきます。ぼんやりと魔法省大臣と校長先生の話を聞いていました。
結局、吸魂鬼はホグワーツから去り、代わりにドラゴンが門の警護をすることになったようです。
ダンブルドア校長先生達がいなくなったあと、ロンが小さな呻きと共に目を覚ましました。
「ハリー? 僕達どうしてここにいるの? シリウスは、ルーピンは?」
顔を見合わせるハリーとハーマイオニーに私が苦笑をこぼしました。
一気に話すには少々、長すぎます。ぐったりとしたハリーが微笑みながら説明をハーマイオニーと私に投げました。