「今晩はご馳走が出ただけでも運が良かったんですよ」
その時、ハーマイオニーの隣にいた『ほとんど首なしニック』さんがそう言いました。
私達は首を傾げます。ゴブレットに入ったレモンジュースが揺れました。
「どうして? 何かあったの?」
「厨房でビーブスが問題をおこしたのです。
今日の祝宴に参加したいと言っていたのですが、結局『血みどろ男爵』がダメを出したのです。
それで厨房で何もかも引っくり返しての大暴れ。屋敷しもべ妖精がものも言えないほどに怖がって―――」
ガシャン。とハーマイオニーの持っていたゴブレッドがひっくり返されました。
かぼちゃジュースがテーブルクロスに広がりますが、ハーマイオニーはそれどころでは無いようでした。
「屋敷しもべ妖精がここにもいるって言うの? このホグワーツに?」
「さよう。 イギリス中のどの屋敷よりも多くいるでしょう」
「私、1人も見たことがないわ!」
なんだか熱が篭っているハーマイオニーを気にしながら、こそっとロンに寄りました。
「ハーマイオニーに何かあったんですか?」
「うーん…。クィディッチのワールドカップの時に色々あって。
ちょっと屋敷しもべ妖精のことに関して気にしすぎなんだ」
こそこそと話していると、ハーマイオニーがナイフやフォークを置いて皿を遠くに押しやっていました。
私は表情に困惑を浮かべます。
「ハーマイオニー、食べなくてはいけませんよ。
その、ほら、せっかく作って頂いているのですから…」
「いやよ。このご馳走を作ったのがそうなんだわ。奴隷労働!」
彼女はそれだけを言うとあとは私達がどんなにご飯を勧めようと一口も口にしようとはしませんでした。
「さて! みんなよく食べ、よく飲んだことじゃろう」
しばらくして校長先生が再び立ち上がりました。
ハーマイオニーが不機嫌そうに小さく声を零しています。
そして毎年のように学校の禁止事項をいう校長先生。
城内持ち込み禁止の品が増えていたり、禁じられた森はその名のとおり禁じられていて、ホグミズード村も3年生になるまで禁止。
ここまではいつもどおりでした。
ですが、校長先生はおちゃめに微笑むと、なんでもないことのように言葉を続けました。
「あと、寮対抗クィディッチ試合は今年は取りやめじゃ。これを知らせるのはわしの辛い役目での」
「エーッ!?」
全校生徒全員が絶句していました。
ホグワーツで大人気のスポーツ、クィディッチが無いだなんて!
クィディッチチームに所属している人たちは驚きのあまり口をパクパクとさせていました。
ダンブルドア校長先生の言葉が続きます。
「これは、10月に始まり、今学年の終わりまで続くイベントのためじゃ。
わしはこの行事はみんなが大いに楽しむだろうと確信している。
今年ホグワーツで――――」
突然、雷が鳴り響きました。
ビクッと肩をすくませると、大広間の入口から誰かが入って来るのが見えました。
それは男の人でした。
カツカツと義足をうち鳴らし、杖をつくその人。
その左目は普通で、でも右目は四方八方にグルグル動き回る義眼でした。
リーマスさんとはまた違った傷と火傷だらけの怖い顔。
彼の右目の義眼が私の隣、ハリーを見つめているような気がしましたが、…きっと気の性でしょう。
見た目の不気味さに私は肩を震わせ、視線から逃れるように身体を動かしました。
話を中断されてしまったわけですが、校長先生は朗らかに笑いながらその男の人を紹介しました。
「少し遅れてしまったが、新しい防衛術の先生を紹介しよう。
アラスター・ムーディ先生じゃ」
生徒のざわめきが広がります。噂に耳を傾けると、元闇払いだとか、変人だとか。好印象のものは少ないと思えました。
ムーディ先生はそんな声を全て無視して、広間を進んできます。
このまま進めば、私達の席の後ろを通るでしょう。
映画で見たよりも不気味で怖い姿に私は慌てて前を向きました。
カツカツという義足が踏む足音が早まります。早く通り過ぎてくれるのを待ちました。
突然、私の鞄が掴み上げられました。
びっくりして振り返ると、ムーディ先生が私の鞄を取り上げ、中から眠っていたフェインを掴み上げていたのでした。
どうして鞄の中身までわかっているんですかこの人は!! そっか、魔法の義眼でしたっけ!?
全生徒の視線が集まります。
寝起きだったフェインは悲鳴をあげて暴れました。私の悲鳴も重なります。
「シャァ!?」
「いつからホグワーツはヘビなんぞを許可したんだ? 潜り混んだのか?」
「きゃー、フェイン!? やーっ、やめてください、意地悪しないでくださいっ、私のフェインです! ヒー イズ マイ ペット!」
「シャアアッ!」
背の高いムーディ先生から振り回されるフェインを取り返し、ぎゅうとフェインを抱きしめます。
ダンブルドア校長先生の執り成して、渋々ながらもムーディ先生は私を睨みつけたあと、フェインを私に返し、離れていきました。
「シャァ…」
「フェイン、大丈夫でしたか」
寝起きにいきなり胴体を捕まれ、振り回されたフェイン。
教職員の席についたムーディ先生を睨みつけながら、ムーディ先生は警戒しなくては。と心に刻みます。
ダンブルドア校長先生が1つ咳払いをしました。
「先程言いかけたのじゃが、これから数ヶ月にわたり我が校では『三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)』を行う」
ダンブルドア校長先生がそういった瞬間に大広間一帯が一瞬静まり、すぐに動揺のざわめきが広がりました。
「ご冗談でしょう!?」
フレッド先輩が立ち上がり叫びました。
三大魔法学校対抗試合は、ホグワーツを含めた3校の魔法学校でさまざまな種目を争い、優勝者を決めます。
親善試合という題目ですが、実際には危険がもちろん伴い、過去には死者すら出ていたそうです。
だからこそ廃止されていたのですが、それが今年度、復活するというのです。
「本当じゃよ、Mr.ウィーズリー」
校長先生は愉快げに微笑むが、生徒は今だざわついたままでした。
「ボーバトンとダークストラングの校長が代表選手候補を連れて10月に来校し、ハロウィンに学校代表者3名を選出する。
優勝杯、学校の栄誉、そして選手個人に与えられる賞金1千ガリオンを賭けて戦うのじゃ」
フレッド先輩、ジョージ先輩の表情が期待に輝くのが見えました。
立候補する気満々で期待の眼差しでダンブルドア校長先生を見ています。
校長先生がさらに話しだしました。
「すべての諸君が熱意に満ちていると承知している。しかし、参加三校の校長、ならびに魔法省は、今年の選手に年齢制限をかけることで合意した。
17歳以上の生徒だけが代表生徒として名乗り上げることを許される」
ガヤガヤ、ざわざわと生徒の不満の声があがりはじめました。
ホグワーツでの17歳以下の生徒といえば、1年生から5年生の誕生日を迎えていない生徒全員です。
危険な競技ということでの配慮でしょうが、厳しい境界線です。
「ボーバトンとダームストラングの代表団は10月に到着し、今年度はほとんどずっと我が校に留まる。
外国からの客人が滞在する間、みんな、礼儀と厚情を尽くすことと信ずる。
さてと、夜も更けた。明日からの授業に備えてゆっくりお休み。就寝! ほれほれ!」
楽しそうな校長先生のお話が終わり、生徒はざわついたまま、自分達の寮へと帰されはじめました。
私はこそこそとしているフレッド先輩とジョージ先輩の方に耳を傾けました。
聞こえて来る声にはどうやって騙そうか。などと物騒な声が聞こえてきます。
たしか、先輩方は4月1日生まれでしたっけ…。
残念ながら、今回の対抗試合には出られません。
私は先輩方の背中に軽く触れました。
「せーんぱい、17歳以下は出場禁止ですよー」
「だって俺達、4月には17歳だぜ? 何で参加できないんだ?」
「俺はエントリーするぞ。止められるもんなら止めてみろ!」
「でも、今まで死人が出てるのよ」
ハーマイオニーが心配そうに言いました。私もそれに賛同します。
「そうですよ、危ないことはしない方が…」
ですが先輩達は出場する気満々のようです。
ハリーやロンは出場する気は無いようですが、先輩方の話には興味津々なようです。
「代表者を決める審査員って誰だろう?」
「だけど、そいつを騙さなきゃ。
『老け薬』を数滴使えばうまくいくかもな」
「でも、ダンブルドアは2人が17歳未満だって知ってるよ」
「あぁ、でも、ダンブルドアが代表選手を決めるわけじゃないだろ?」
「うまくはいかないと思いますが…」
私はクスクスと苦笑を浮かべます。
審査員が誰だか(何だかを)知っている私は、それでもやっぱり決行するんだろうなぁとぼんやり考えていました。