9と4分の3番線の中に入ると、もう沢山の生徒や見送りの保護者が集まっていました。

はぐれないようにリーマスさんと強く手を繋いでいると、リーマスさんの姿を知っている生徒が手を振ります。
笑顔で手を振り返すリーマスさんでしたが、その横で顔をしかめる生徒もいました。

去年、狼人間だと知れ渡ってしまったリーマスさん。

優しかったリーマスさんを肯定する人と、それでも否定する人と。
私は寂しくなってリーマスさんの手を強く握りました。

「リク! ルービン先生!」

後ろから突然声がかけられました。

振り返るとそこにハリー、ロン、ハーマイオニー。それにロンのお母さん――モリーさんと、ロンのお兄さん? がお2人いました。
周りにはジニーちゃんやフレッド先輩、ジョージ先輩の姿も見えます。

私はリーマスさんと手を繋いだまま、ハリー達に駆け寄りました。

ハリー、ロン、ハーマイオニーとそれぞれハグしたあと、モリーさんにぺこりと頭を下げました。
モリーさんも私にハグしてくれました。ふふ。くすぐったいです。

リーマスさんは微笑みながら、モリーさんに握手のため手を差し出しました。
モリーさんも笑顔で手を握り返します。保護者さん達のご対面。

モリーさんもリーマスさんが狼人間だということを知っているはずですが、そんなことを感じさせない笑顔でした。私も嬉しくなります。

「モリー・ウィーズリーよ」
「リーマス・ルーピンです。リクちゃんがロンくんにとてもお世話になってます」
「リーマス・ルーピン? あの悪戯仕掛人の?」

長めの赤髪をポニーテールにした男の人がひょいと顔を覗かせました。
とってもかっこいい男の人です。私が驚きつつも見つめていると、彼はにっこり笑いました。

「僕はビル。
 悪戯仕掛人の噂はホグワーツにいる間、聞きました。
 悪戯仕掛人は長年、教師に語り継がれていたから」

ビルさんはリーマスさんが卒業した2年後にホグワーツに入学したそうです。
そのビルさんにも悪戯仕掛人の噂が届いているだなんて。

「学校で何をしていたんですか、リーマスさん?」
「あはははは。ちょっとしたヤンチャだよ」
「『ちょっと』したヤンチャで語り継がれたりはしませんから!」

誤魔化すように私の頭を撫でるリーマスさんに、半信半疑の瞳を向けます。

ビルさんの隣にいたのはチャーリーさんで、ロンの2番目のお兄さんだそうです。
ルーマニアでドラゴンの研究をしている方で、握手をしたその手には沢山の傷が残されていました。

チャーリーさんはジニーちゃんをぎゅうと抱きしめてからニッコリと微笑みました。

「みんなが考えているより早く、また会えるかもしれないよ」
「どうして?」
「いまにわかるよ」

フレッド先輩の疑問に、チャーリーさんは微笑むだけでした。
私はリーマスさんを見上げますが、リーマスさんも首を傾げています。

「まだ『魔法省が解禁するまで機密情報』なんだ」
「あぁ、僕もなんだか、今年はホグワーツに戻りたい気分だ」

何だかみんなで内緒ごとがあるみたいですね。

その時、汽笛が鳴り、私達は汽車のデッキに押しやられました。私はリーマスさんに声をかけます。

「リーマスさん、またたくさんお手紙書きますから! お返事くださいね!」
「何があるのか教えてね」
「もちろんです」

横に流れていくリーマスさんに思いっきり手を振ります。
あぁ、もう寂しいだなんて。絶対に誰にも内緒です。

コンパートメントに戻るハリーたちについていきます。
私はクィディッチの決勝戦で起こったことを聞きたくてうずうずしていました。

「皆さんに怪我が無くてよかったです…。
 新聞で見てびっくりしたんですよ」
「ごめんごめん、僕たちは大丈夫だったから、ね?
 でも、フクロウくらい送れば良かったかな。
 ごめんね、まだシリウスの所からヘドウィグがまだ帰ってなくて…」
「ふふ。わかりました。
 とにかく、悪い話はいいとして、クィディッチは楽しかったですか?」
「もちろん!!」
  それからクィディッチの話を聞いて私はキラキラと瞳を輝かせていました。

私は家で作ったお菓子を広げながらその話を聞いていました。
ロンがビクトール・クラムの話をする時は私も観客の1人になったみたいにワクワクと瞳を輝かせていました。。

空を箒で駆け回るその姿はとっても格好良かったんですって。

そのうち、ホグワーツ特急がスピードを落とし始めました。
汽車の外では雨が激しく叩きつけるように降っています。

鞄の中に入っていたフェインが隠れるように私のローブの中へ滑り込みました。
この叩きつけるような雨はやっぱり堪えますよね…。

輝くホグワーツ城が見えてきて、私は雨に打たれながらも呆然と城を見つめました。

「…………綺麗ですね」

ほかの生徒は雨でそれどころではなかったようですが、私はその幻想的なホグワーツの城をハーマイオニーがしびれを切らすまで見つめていました。

雨に窓からの光が反射して、キラキラと輝いて見えていました。

4年目にしてホグワーツの美しさが本当にわかったようでした。

リドルくんがこのお城にこだわった理由がほんの少しだけわかったような気がします。


†††


大広間に着くと教職員の席に空席が目立つのに気がつきました。

マクゴナガル先生は先程、ピーブスくんが水風船を生徒に投げつけていたのを叱りに行っていましたし、ハグリッドさんは未だ新入生の引率でしょう。
きょろきょろと見つめていると、スネイプ先生の姿が見えました。その隣の空席。

「DADA(闇の魔術に対する防衛術)の新しい先生はどこかしら?」

同じく教職員の席を見つめていたハーマイオニーが不安そうに聞きますが、それらしき姿は見えません。
じいとスネイプ先生を見つめていると、先生がこちらを向いた気がしたので私は慌てて俯きました。

「あぁ、早くしてくれ。僕、今ならヒッポグリフだって食っちゃう気分」
「ふふ、そんな大げさな」

ロンの言葉にくすくすと笑っていると、大広間の扉が開き新入生が入ってきました。

私達もビシャビシャなままでしたが、新入生はもっと濡れていて、それはまるで泳いで来たかのようでした。

新入生はほとんど全員ショックを受けたような顔をしています。
土砂降りの中、船に乗せられて、もう絶対に忘れられない入学式ですよね、これ。

やってきたマクゴナガル先生が三本足の椅子を用意して、その上に組み分け帽子を置きました。
懐かしくも思える光景に私は頬を緩ませます。

いつものように帽子の歌が大広間に広がり、そして組み分け帽子が歌い終わった瞬間、大広間は沢山の拍手で包まれました。

始まった組み分けに私達は拍手を繰り返します。

キョロキョロとしていると、スリザリンの席にドラコくんの姿が見えました。
彼も私も気付いたようで、ニヤリと笑ったので私も笑みを返しました。

新入生の組み分けは案外あっさりと終わり、ダンブルドア校長先生が立ち上がりました。

「皆にいう言葉は2つだけじゃ。
 思いっきり、掻っ込め」
「いいぞいいぞ!」

はやし立てるハリーとロン。いつの間にか目の前に沢山の料理が目に入りました。
私も笑いながら料理を皿に盛ります。この賑やかさがホグワーツ!という気がします。


prev  next

- 85 / 281 -
back