「違いますよ!! ハーマイオニー!! スネイプ先生は就寝時間が近かったから送ってくださっただけで…!!」
「だからよ! あのスネイプが送ったりするわけないじゃない!
 それに『手伝い』って何?」
「別に魔法薬の下ごしらえとかですよっ、そんな、スネイプ先生と、そんな…ッ」

真っ赤になった頬を抑えてバッチが詰まった箱を持ち上げました。

そんなスネイプ先生と、で…デートなんかするわけないじゃないですか!!

隣のハーマイオニーは「そうよね。それはそうよね」と何度も呟いています。
恥ずかしくなった私はそそくさと談話室への道を急いだのでした。

私が落ち着いて来るころにはグリフィンドール寮への扉が見えて来ていました。
ずっと持っていた箱の中のバッチへと、興味が沸いてきました。

「そういえば、このバッチはどうしたんですか? 50…近くはありますよね」
「えぇ。やっと出来たの! ハリーやロンにも説明したいから談話室入ってからでもいい?」
「はい、もちろんです。
 もしかしてここ最近図書室に篭っていたのはこれですか?」

そうなの。と微笑んだハーマイオニーに私も笑みを返します。

合言葉を告げて中に入ると、談話室にあるテーブルの側でハリーとロンが『占い学』の宿題をこなしているのを見つけました。

どうやら完成しているみたいで、ロンの運勢予言を、ハーマイオニーが引き寄せました。私も覗き込みます。

そこには1ヶ月いっぱい、小さな不幸から大きな不幸まで巻き込まれるロンの運勢が。
隣のハリーの運勢予言も似たような不幸な予言が書き上げられていました。

「素晴らしい1ヶ月とはいかないみたいですこと」
「ふふ。ロン、こことそこ。2回も湖で溺れていますよ」
「え? そうか?」

自分の予言を見つめたロンが舌を巻きました。

「どっちか変えた方がいいな…」
「飛行訓練中に暴れ柳に衝突とかはどうでしょう?」
「おぉ、ナイス!」
「煽らないの、リク! でっち上げだってすぐわかるわよ」

ハーマイオニーの言葉に私はあははと笑い声を上げました。

ハリーの手先を見ると31日、最終日には首を切られて死んでしまう予言が書かれていました。
こんな最悪の1ヶ月を書いても大丈夫なのでしょうか? トレローニ先生の好きそうな展開ですけれども。

「そうです。私も書かなくてはいけませんよね」
「じゃあ提案。
 10月1日、ベッドの角に足をぶつける」
「うわぁ、とっても地味だけどとっても痛いです」
「リクはちゃんとやりなさいよ?」

ハーマイオニーの視線に曖昧に微笑んで、それはそうと。と私はバッチを指差しました。

「ハーマイオニー、これの説明をしてくださいな。気になります。
 S・P・E・Wってなんです?」
「SPEW(反吐)?」
「反吐(spew)じゃないわ! Sは協会(society)、Pは振興(promote)、Eはしもべ妖精(Elfish)、Wは福祉(welfare)。
 しもべ妖精福祉振興協会よ」
「聞いたことないなぁ」
「当然です。私が始めたばかりだもの」

ハーマイオニーは胸を張ってそう言います。ロンが顔をしかめました。

「私、図書室で徹底的に調べたわ。
 小人妖精の奴隷制度は何世紀も前から続いてるの。今まで誰も何もしなかったなんて信じられないわ」
「…ハーマイオニー、耳を覚ませ。
 あいつらは奴隷が、好き。奴隷でいるのが好きなんだ!」

熱く語るハーマイオニーはロンの声が聞こえなかったように、この協会の短期目標を読み上げました。

「屋敷しもべ妖精の正当な報酬と労働条件を確保することである。
 私達の長期的目標は杖の使用禁止に関する法律改正。しもべ妖精代表を1人『魔法生物規制管理部』に参加させること」

ポカンとしたハリーとロンがお互いに顔を見合わせました。
私は苦笑を零してからハーマイオニーへと笑いかけました。

「私はいいと、思いますよ」
「リク! 君、本気なの?」
「さすが、わかってくれたのね!!」

呆気に取られているロンと、可愛らしく満面の笑顔を向けるハーマイオニーが一斉に私に振り返りました。

私は話し出します。

「私は屋敷しもべ妖精さんと深い関わりがあったわけではありませんが、対等な関係とは言えないことは知っています。
 確かに彼らはもう少し高い水準の生活を送るべきです。
 ですが、彼らは望んでお手伝いしてくれているので、彼らのお仕事を奪ってしまうのではなく、その、出来るなら、目に余る体罰や差別を無くせると…、いいと思いますよ」

人種による批判・差別は、リーマスさんのことで身に染みていましたから…。

困ったように首を傾げると、感極まった様子のハーマイオニーが私を抱きしめてくれました。
彼女は少し涙ぐんでいます。私はハーマイオニーの頭を優しく撫でていました。

トントン。

その時、ヘドウィグが窓を嘴で叩きました。

ヘドウィグの足にはシリウスからの手紙が結び付けられています。
ハリーが急いで手紙を解き、読みはじめました。

私もそれを後ろから覗き込みます。シリウスには珍しく走り書きしたような手紙でした


ハリー
すぐに北にむけて飛び発つつもりだ。
また傷が痛むようなことがあれば、すぐにダンブルドアのところへ行きなさい。
またすぐ連絡する。ロンとハーマイオニー、リクによろしく。
ハリー、くれぐれも用心するよう。
シリウス


「北にむけて飛び発つって?」
「シリウス、帰ってくるんですね?」

ハリーの様子を伺っていると、苛々と激しい口調で話していました。

「シリウスに言うべきじゃなかった!
 手紙のせいでシリウスは帰らなくてはいけないと思ったんだ!
 僕が危ないと思って! 僕は何でもないのに!」
「ハリー」

ハーマイオニーが宥めるような声をかけます。
ですが、ハリーは言葉少なめに寝室へと上がって行ってしまいました。

そのには不安げな私達が残されていました。


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