「また来たのか、剥がれかけマグル」
「……その呼び方、絶妙ですね、ヴォルデモートさん…」

私はその夜、約束? 通りヴォルデモートさんの元へと夢の中で現れていました。

変わらず衰弱しているヴォルデモートさんの隣に座って、私はにっこり笑いました。

「では、お友達になってくれますか? ヴォルデモートさん」
「断る。
 お前は何で俺様にこだわる? あのタヌキ爺の使いか?」
「違いますってば。ここに私がいるのを知っているのは私とヴォルデモートさんだけです」

疑い深いヴォルデモートさんに頬を膨らまし、私はふと思いついた言葉を言ってみました。

「『変えたいんです』」
「は?」
「『良い方に。私の大切な人を守っていけるように』
 2年前に私が『ある人』に言った言葉なんですけど。
 それは今でも変わらなくて、私、出来たらヴォルデモートさんのことも助けたいと思っているんです」

これは私がリドルくんと初めて会った時に言った言葉です。
ヴォルデモートさんを見ると、驚いているようなその顔は、やっぱりリドルくんとそっくりでした。

ヴォルデモートさんは私を黙って見たあと、口を開きました。

「……闇の帝王を助けたい、守りたいだと? お前は本当に命知らずだな…」

その言葉はリドルくんが返した言葉と全く同じで、私はクスクスと笑ってしまいました。

「ヴォルデモートさん、それは気に入られたとみていいんですか?」
「調子に乗るな」
「ふふ、あはははっ」

ヴォルデモートさんの声音が拗ねたように聞こえてしまった私は笑いながら彼を見つめていました。

明日も、今度は友人としてここに来ようと思いながら。


†††


10月30日。

今日はボーバトンとダームストラングの生徒が来る日でした。
私達はざわめきながら玄関ホールに下り、整列してから他校の方達を待ちました。

全員が「何で現れるのだろう?」と期待しています。

私はそれよりもこのイギリスの10月の寒さが体に堪えていましたが。
ぎゅうとグリフィンドールカラーのマフラーを巻きつけて、空を見上げていました。

やがて6時になり、ダンブルドア校長先生の声で、森側の上空へと視線が集まりました。

現れたのは、大きな、本当に巨大な12体のペガサスの姿でした。

ペガサスはキラキラと輝く鬣をなびかせながら馬車を引いてきます。
着陸し、開いた馬車から大きな(ハグリッドさんくらいに大きな)女の人が現れました。

ダンブルドア校長先生の拍手。私達も一斉に拍手をしました。

「これは、マダム・マキシーム。ようこそホグワーツへ」

マダム・マキシームは校長先生とにこやかに会話を交わします。

彼女の後ろでは寒そうにしているボーバトンの生徒が沢山いました。
男の子も数人いるようですが、女の子が目立つようにも思います。

次に変化が起こったのは湖の水面でした。

水面がいきなり乱れ、付き上がるように帆柱が立ったのです!
ザバッと湖から現れたのは大きな、難破船を思わせるような船でした。

中から生徒達が下りてきて、その1番前を歩いていたダームストラングの校長先生がダンブルドア校長先生に朗らかに声をかけました。

「やぁやぁ、しばらく。元気かね?」
「元気いっぱいじゃよ、カルカロフ校長」

カルカロフ校長先生は微笑みながらも、目だけは笑ってはいません。
その雰囲気は、暖かなダンブルドア校長先生とはすごく対照的でした。

私がカルカロフ校長先生に気を取られていると、ロンに腕を小突かれました。

「リク! あの人! ビクトール・クラムだよ!!」
「え。彼が?」

カルカロフ校長先生のすぐ後ろを歩く生徒に私は視線を向けます。
凛々しい顔立ちをした彼は、確かに日刊予言者新聞に乗っていたクラムさんの顔です。

そういえば、代表選手に立候補するんでしたっけ。

周りを見ると、ロン以外にもクラムさんを見ようと爪先立ちになっている人が沢山います。
その中でハーマイオニーがツンっと呆れた様子で立っていました。

ボーバトン校とダームストラング校が揃ったところで、私達は大広間に向かいました。
暖かな大広間に入り、いつものようにグリフィンドールの席につきます。

他の2校の生徒は戸惑いながらも、4つの寮に自主的に分かれて座っていきました。
噂の渦中であるクラムさんは、ドラコくん達の席に座っていました。ロンの毒づきに私は苦笑。
あとでドラコくんからお話を聞いてみたいですねぇ。

それぞれの校長先生が座ったあと、ダンブルドア校長先生が話しはじめます。

「こんばんは。紳士、淑女、そしてゴーストの皆さん。今夜はとくに客人の皆さん、ホグワーツへのおいでを心から歓迎いたしますぞ。
 三校対抗試合はこの宴が終わると正式に開始される。
 それでは大いに飲み、食い、かつ寛いでくだされ!」

目の前のお皿がいつものように満たされました。前にはこれまで見たことがない外国料理も並んでいます。

「! ジャパニーズフード!!」
「びっ、くりした。リク、どうしたのさ、いきなり」

あるお皿に寿司が並べられているのを見て、私は声を上げました。

他にも天ぷらの盛り合わせがあったり、お刺身が置いてあったりと、久しぶりに見る日本食がだされていました。
ロンの服の裾を引きながら、この感動を伝えます。

「お寿司です! ロン、お寿司ですよ!」
「えぇ…生魚…?」
「食わず嫌いはいけませんよ。とっても美味しいんですから。
 私の故郷の料理なんですよ。あぁ、懐かしいです」

私はマグロの刺身を口に入れ、ご満悦。
ハーマイオニーとハリーは興味津々で寿司に手を伸ばしていましたが、ロンはまだ怪しんでいる様子。

「これ、酸っぱい匂いがしてる」
「はい。ご飯にお酢とお砂糖が混ざっているんです。
 それに魚の刺身を乗せて…、あ、間にわさびが入っていますよ」
「なにその料理。
 酸っぱいの? 甘いの? 辛いの?」
「ふふ。まぁ、食べてみてくださいな」

私がロンのお皿にとったサーモンの寿司と、彼は睨めっこ。


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