沈黙が部屋を包みました。

ハリーが呆然と、困ったようにムーディ先生を見つめていました。
カルカロフ校長先生が声を張り上げ、ムーディ先生の被害妄想だと指摘しましたが、ムーディ先生は低く唸りました。

「強力な魔力を持つゴブレットの目を『錯乱呪文』で欺き、4人目と5人目の代表者を選ばせた。
 相当、腕のいい魔法使いだ」

再び沈黙が部屋を包みます。

ダンブルドア校長先生が静かに話し出し、どうしてハリーと私の名前がゴブレットから出てきたのかは、さておき、結果的に私達は三校対抗試合に出場することになりました。

複雑な空気は保ったままクラウチさんが何か羊皮紙を取り出し、読み上げました。

「…最初の課題は君達の勇気を試すものだ。
 ここでは、どういう内容なのかは教えない。
 未知のものに遭遇したときの勇気は、魔法使いにとって非常に重要な資質である」

競技の日付は11月24日。

全生徒、審査員の前で行われて、選手が使うのは杖のみ。教師からの援助は認められません。

第1の課題が終了すると、第2の課題についての情報が得られます。
……情報に関しては私が1番、得をしていますけどね。

説明が終わったあと、ダンブルドア校長先生が微笑みながら寮に戻るように言いました。

「リクは医務室で薬を貰っておいで」
「いいえ。校長先生。私は本当に大丈夫です。
 ただ…出来ればリーマスさんに連絡をお願いしたいんです。
 フクロウだと時間がかかってしまうから…」

私を大切に思ってくれているリーマスさんに、今すぐにでも会いたい気分です。
校長先生は深く頷いて、必ずお話をしてくれると約束していただきました。

私とハリー、ディゴリー先輩は軽く顔を見合わせたあと、部屋を出ました。
部屋を出る直前に、私は先生方にぺこりと頭を下げます。

私達が廊下を歩いていると、ディゴリー先輩が私に向きました。

「そうだ。僕はセドリック・ディゴリー。君は?」

私はハッフルパフのクィディッチ選手としてディゴリー先輩を知っていましたが、先輩が私の事を知っている筈はありません。
また軽く頭を下げて、彼が出した手と握手をしました。

「リク・ルーピンです。
 去年のDADA教師だったリーマス・ルーピンの娘です」
「へぇ、君が! リーマス先生から授業中、話は聞いてたよ」

何故、ディゴリー先輩がリーマスさんの授業中に私の話を聞いているのかは突っ込みませんよ。
授業中、何の話をしていたんですか。

「僕達、お互いに戦うんだね」
「そうだね」
「えぇ」

ハリーと私が短く答えました。

まだ困惑している様子のハリーは、ディゴリー先輩とわかれたあともモヤモヤと考えているようでした。

「リクは、ムーディ先生の言ってたことどう思う?」
「私達を殺すために。という話ですか?」

ゆっくりと治まって来ていた痛みが、警告するようにじわじわ痛みました。
私は頬に指を当てて、素直な疑問をハリーに言います。

「言っちゃ悪いのですが、ハリーにはヴォルデモートさんという宿敵がいますけど…。
 どうして私もなんでしょう」
「…リクはリドルと仲良かったよね」

小さく呟いたハリーの声に私は困ったように苦笑を浮かべました。

「リドルくんは……お友達、だったんです。
 でも、彼は…もういません」
「そうだよね。
 …確かにリドルはいないけど、まだどこかにヴォルデモートがいるからかな」

話ながら、私達はいつの間にかグリフィンドール寮の前にいました。

疲れていました。

私達はもう戻って寝ようと考えていたのですが、寮に入った瞬間、いつの間にか拍手喝采、大歓声、歓迎の口笛に包まれていました。

「なぁ髭も生やさずにどうやったんだ? すっげぇなぁ!」
「僕達、やってない」

ハリーの困惑の声はすぐにグリフィンドール寮生に掻き消されました。

私達は沢山の人に囲まれながら、何処からか持ち出されたグリフィンドール寮の旗にそれぞれ巻き付けられていました。

いろんな方が私にも食べ物を差し出していましたが、騒ぎに苛立ったフェインが私の肩に乗り、睨みを効かすと、自然とハリーの方に人が流れていきました。

「リク! なぁ、本当どうやったんだ?」

フレッド先輩でした。

フェインがまた威嚇の声を上げましたが、フレッド先輩はもう慣れたもので、涼しい顔をしています。
ジョージ先輩が反対側から私の腕をとりました。

「期末テストも免除で優勝すれば1000ガリオンだろ?
 絶対、リクかハリーが優勝しろよ」
「私達、ゴブレットに名前は入れてませんよ」
「「大丈夫、隠すなって」」

フレッド先輩とジョージ先輩の笑顔がチクリと心に痛みを生みます。

ここでは、私とハリーが嘘つきなのです。

それを寂しく思いながら、騒ぎから逃れるように寝室へと向かったのでした。


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