ですが、それは暫くたったあとも痛みには変わりませんでした。
ゆっくり目を開くと、唸り声を上げるドラゴンが私のすぐ目の前で頭を垂れて、私を静かに見つめていました。
ドラゴンは可愛らしい、小さなキューという鳴き声を上げています。
長い長い溜め息とともに私の膝が笑いはじめて、しゃがみ込んでしまいました。
観客やバグマンさんは何が起きたのかさっぱり。といった風でした。
私はしゃがみ込みながら、目の前のドラゴンの口元を撫でます。
ドラゴンは気持ち良さそうに目を細めていました。
「よかったです…。私の動物に好かれる体質がドラゴンにも通じて…」
「……シャー…」
本当にこれは一か八かの賭けでした。
前にロンが「リクならドラゴンにも好かれるよ」と言っていたのを思い出し、本当に作戦ひとつ立てずに挑んでみたのでした。
膝が笑って立てずにいる私よりも、フェインの方がパニックを持続させていました。
私の腕を締め付けすぎて、だんだん私が苦しくなってきます。
彼の身体を優しく撫でて、身体を解いてもらいました。
〈――――はっ、Ms.! 卵を!〉
バグマンさんの声に私もハッと口元を押さえます。
そうです。ドラゴンを大人しくさせただけで合格ではないのです!
私は目の前のドラゴンを撫でながら話し掛けました。
「あの、金色の卵を1つくれませんか? 壊したりはしませんから」
目を細めるドラゴンはもう私に敵意はないらしく、しゃがみ込んでいた私をその鼻先? で押すと、金色の卵の前まで押し出してくれました。
一抱えもある金色の卵を持つと、観客の戸惑うような歓声がゆっくりと爆発しました。
〈信じられないような方法で卵をとりました! 時間はハリーに続き、第2位!〉
肩のフェインが私の頬を舐めたので、私はふふ。と笑みを零しました。
後ろからドラゴンが私の脇元に頭を出そうとしたので、また驚きました。
「くすぐったいですよー。わわっ」
鉤爪で私の身体を持ち上げ、頭の上に乗せたドラゴンに目を丸くします。
クスクスと笑いながらドラゴンの額のあたりを撫でました。
ドラゴンの足元にドラゴン使いが駆け寄って来るのが見えました。
ドラゴンに言って頭から下ろしてもらうと、やってきたドラゴン使いの中にいたチャーリーさんが私の手を両手で握りました。
「君、リク・ルーピンだったよな!? ドラゴン使いにならないか!?」
「え、えっと…」
「これだけドラゴンに好かれるなら卒業まで待てないよ! すぐに就職できるよ!」
「あの…その…」
目を輝かせるチャーリーさんに私は苦笑を返します。
私、まだ4年生ですし、そんな。ドラゴン使いにはなれませんってば。
ですが、他のドラゴン使いさんも依存はないのか、こくこくと頷いています。うーん…困りました。
そこで、ドラゴン使いさん達に連れられた深緑のドラゴンが不機嫌そうに唸り声を上げたので、私は思わず声をかけました。
「大人しくしてなきゃ駄目ですよ」
「……ぐるるる…」
また小さく可愛らしい声を上げてドラゴンが大人しくなります。
去っていくドラゴンにキスをしてから、チャーリーさんに振り返ると、にっこりと微笑んだ彼が目に入りました。
「よし決まり。リク、ドラゴン使いになろう!」
「えぇ!? なりませんって」
「一言でドラゴンを大人しくさせるなんて、本当に天性のものだよ。
ドラゴン使いになるしかない」
「いえいえ駄目ですって」
そのあともチャーリーさんの勧誘をやんわり断りながら、代表選手の控えテントまで向かいました。
ドラゴン使いさん達は諦めきれないのか、何度か私を勧誘し続けていましたが。
テントに向かうと目の前からハーマイオニーが飛びついて来ました。
「貴女ってば、馬鹿! 驚かせないでよ!」
「す、すみません、ハーマイオニー、試合前に言ったら心配させると思って…」
「試合中、心配で倒れるかと思ったわよ!!」
ぽかぽかと私を叩くハーマイオニーに謝っていると、ハーマイオニーの後ろ、ハリーとそしてロンが並んで立っているのが見えました。
私の満面の笑み。
「ハリー、ロン。仲直りしたんですね」
にっこりと笑うとハーマイオニーが私を強く抱きしめてくれました。ハリーとロンは照れ臭そうに笑っていました。
よかった。2人が仲直りしてくれて。私の頬が緩みます。
「そろそろ結果が出るわ」
ハーマイオニーの言葉通り、テントを出ると、審査員の席が見れました。
10点満点で点数がつくようです。
私の点数をつけるのには賛否両論があったようで、なかなか時間がかかったようでした。
それでも高得点は付き、同点1位のハリーとクラムさんと1点差で第3位になりました。
私とハーマイオニーが手を合わせて喜びます。
金の卵の上にうまくバランスをとるフェインが、満足そうに笑っていました。