「終わりましたーっ」
生ける屍の水薬を作り終わり、次に二角獣の角を粉末にしていた私は、くたーと机の上に伸びました。
この作業は結構、力が必要で、私は固まった肩をほぐすように、ぱたぱたと手足を振ります。
「はしたないですぞ」
頭の上にコツとスネイプ先生の手の甲が落とされてしまいました。いたい。
身体を起こして足を揃えますが、頬は膨らませたままでした。
「あと下ごしらえするものはありますか?」
「今はない。
ラベルを書き直すぐらいか」
スネイプ先生が角の粉末を透明なビンに詰め、ラベルを持って行った私がビンに張り、書き込みます。
これで今日のお手伝いは終了です。
ビンをそのまま受け取って、材料庫に置きに行きました。
戻ると、スネイプ先生は思い出したように話し出しました。
「確か、代表選手はダンス・パーティーの日、全校生徒の前で前で踊る予定でしたな」
「……思い出させないでください…」
よりにもよって、全校生徒の前でだなんて!
赤くなる頬を両手で押さえると、スネイプ先生は小さく鼻で笑いました。
「普段から随分と鈍いのに踊れますかな?」
「踊れますよ! ちょっとは…」
笑うスネイプ先生に思わずバッと立ち上がります。
教卓の前に出て、パートナーと踊る時のように手を伸ばしました。
クルッとステップを踏みはじめます。
「右足、左足、右足、左足♪」
「右足が出ているが」
「………」
足元を見ると、なるほど右足が出ています。
私は口を尖らせて、もう1度最初からステップを踏みはじめました。
「右足、左足、右足、左足、右足♪」
「それは左足ですな」
「い、いつのまに…!」
…もしかしなくても、私、結構やばいですか…?
練習の時も怪しかったのは確かでしたが、ここまでとは…!
「……これでは…ジョージ先輩の足、踏んでしまいます…」
「ウィーズリーと踊るのか」
「はい。…どうしましょう」
しょぼんと肩を落としていると、スネイプ先生が立ち上がって私の前に立ちます。
長身のスネイプ先生を見上げ、その威圧感に肩を竦めました。
「な、なんですか」
「右手を。左手はここに」
「教えてくれるんですか!?」
「……まずは右足からだ」
はっと表情を輝かす私に、スネイプ先生は何も言わず、静かにステップを踏みはじめました。
私も慌ててステップをはじめます。
スネイプ先生の静かな声が地下牢教室に響きました。
「1、2、1、2…」
「右、左、右、ひだ…っ、!」
「思ったより酷い」
「す、すみません…!!」
スネイプ先生の足を踏んでしまいました。
合わせた右手をぎゅうと握り締めます。足元を見つめていると、スネイプ先生が右手を引っ張り、上を向かせました。
「足元ばかりを見るな。感覚で覚えたまえ」
「そんな…踏んじゃいますよ!?」
「踏むな」
「酷い!」
…スネイプ先生との距離は近いままですし…。
私はふいと横を向いていると、またスネイプ先生が手を引きました。
「足を交互に出すことも出来ないのですかな?」
「か、返す言葉もないです」
プレッシャーが怖いです、スネイプ先生!
捕まれた手と、腰に軽くあてられた手を意識しながら。
何故か突然始まった練習に、私の心臓は煩く鳴り響いていました。
†††
その日の夜。スネイプ先生に教えられたダンスのステップを繰り返していると、駆け込んできたハーマイオニーが深く、長い息を吐きました。
首を傾げてハーマイオニーを見ます。
「どうかしたんですか? ハーマイオニー」
「……今、ダンスパーティーの申し込みをされたの」
顔を真っ赤にしているハーマイオニーに、私は満面の笑顔を返しました。
ぱちぱちと拍手を送りながら、ハーマイオニーの顔を覗きこみます。
「どちらの方に? グリフィンドール寮の方ですか?」
「いいえ。……あの、ビクトール・クラムよ…」
「クラムさん!? 凄いじゃないですか!」
やんわりと問いただせば図書館で1人でいたところ、申し込まれたのだとか。
私はニコニコとハーマイオニーを見つめました。
顔を真っ赤にしてベッドに腰掛けたハーマイオニーの隣に移動します。
「ハーマイオニー、もてもてですね〜」
「私…、ロンとハリーにからかわれるわ。絶対」
「OKしてきたんですか?」
こくんと頷いたハーマイオニーのふわふわとした髪を私は撫でました。
「大丈夫ですよ。
それでもハーマイオニーが嫌なら当日まで内緒にしていましょうよ。
さっさとハーマイオニーを誘わない2人が悪いんです」
ハーマイオニーはこんなに可愛いのに、ロンは意地を張って!
ふふふと笑う私を顔を赤くしたままのハーマイオニーが、照れをごまかすようにぎゅうと抱きしめてくれました。