思わずぎゅっと左腕を握ると、スネイプ先生は私の手を静かに払って、大広間を出て行きました。

行ってしまったスネイプ先生を見送って、私はジョージ先輩に駆け寄りました。
ジョージ先輩は驚きの表情のまま、私にバタービールを手渡してくれました。

「わぁ、バタービール! 私、これ好きです」
「そうじゃなくて、男は断われと言っただろ?」
「スネイプ先生の側にいたら男の方が来なかったですよ?」
「俺も近寄れなかったけどな!」

頬を膨らませたジョージ先輩に苦笑を返します。
バタービールを飲みながら、人混みから少し離れたテーブルに座ってジョージ先輩と話していました。

「これはなんです? …きゃっ」
「あははは。『だまし杖』だよ」
「ひよこになってしまいました。これ面白いですねぇ」

だまし杖で遊んでいると、バグマンさんが近くを通るのを見て、ジョージ先輩が立ち上がりました。
驚いてジョージ先輩を見上げます。

「リク、ごめん、待っててくれるか?」
「バグマンさんに何かご用事ですか?」
「そんなとこ! 本当にごめん。待ってて」

ジョージ先輩はバッとバグマンさんに駆け寄っていきました。
気がつけばフレッド先輩も駆け寄っていくのが見えました。

2人でバグマンさんに話しています。何のお話でしょうね?

「素敵なペンダントじゃのぅ」

タタンタルトを食べていた私は視線を上げました。
目の前にはダンブルドア校長先生が。

慌ててパッと立ち上がりますが、校長先生はにっこりと微笑んだまま、ジョージ先輩が座っていた席に座りました。
私もゆっくり座ります。胸元のペンダントをちらりと見ました。

ヴォルデモートさんから、頂いたペンダントです。
私は校長先生に曖昧に微笑みました。

「第2の課題は進んでおるかの?」
「はい。大丈夫です。
 情報量では私が1番有利ですから」

映画の内容はうろ覚えですがわかっています。
困ったように笑うと、ダンブルドア校長先生はにっこりと微笑み続けていました。

「そのペンダントは誰から贈られたのかの?」
「リーマスさんからです。綺麗ですよね」
「グリフィンドール寮にしては珍しい配色じゃのぅ」

ダンブルドア校長先生のキラキラした瞳は私に開心術をかけているようで…。
私はにっこりと微笑み返しました。

「私はスリザリンも好きですよ」
「ほぅ」
「他の寮とも仲良くしていきたいと思いますから」

答えると校長先生は静かに席を立ちました。
ダンブルドア校長先生はまた優しく微笑みました。

「それでは年寄りが邪魔したのぅ」
「全然! 楽しかったです」
「いや。パートナーを困らせてしまった」

前を見るとジョージ先輩が困ったようにこちらを伺っていました。私は苦笑を零します。
立ち上がったダンブルドア校長先生が私を見ていました。

「君はハリーの友人かの?」

私も見上げました。

「もちろんです」

校長先生は微笑みながら、立ち去っていきました。
立ち代わりにジョージ先輩がやってきます。

「リク、校長も駄目だって! 近寄りづらいから!」
「ふふ。ごめんなさい。
 ジョージ先輩が1番ですから」


†††


パーティーが終わり、寝室に上がると、髪が元に戻っているハーマイオニーが着替えもしないでベッドに座っていました。

「おかえり。リク」
「ただいまです、ハーマイオニー。
 表情が優れませんが何かあったのですか?」

聞くと、クラムさんと踊ったということで、ロンが怒ってしまったというのです。
私はハーマイオニーがムスッとしながら口を開くのを見つめていました。

「なんで私がロンにどうこう言われなきゃいけないのよ」
「ハーマイオニーは悪くありませんよ。大丈夫です」

ぎゅっとハーマイオニーの肩を抱きしめます。
ハーマイオニーは悲しげな顔をしつつも、小さく微笑みました。

私はハーマイオニーの顔を覗き込みながらにっこりと笑います。

「それより。クラムさんと仲良く出来ました?
 素敵な方に見えましたが」
「えぇ。まぁね。楽しかったわよ」

恥ずかしそうに顔を赤らめたハーマイオニーに私はきゃっきゃっと喜びます。
ハーマイオニーは私の腕を引いて、隣に座らせました。

2人してお化粧を落としながら会話を弾ませます。

「してたのはお互いの学校の話とか、授業の話ばかりよ。
 リクは? ジョージと仲良く出来た?」
「2人だなんて珍しかったんで少し緊張しました。
 ほら、いつもはフレッド先輩もいますから」

正直にそういうと、ハーマイオニーは私の結い上げた髪を解きはじめました。

「私ね、リクはスネイプと踊るかと思ってた」
「えぇ!? 無いです、無いです!」

全力で首を振っていると、ハーマイオニーは「動かないの」と私の頭を押さえました。
大人しく正面を向きながら、ハーマイオニーに反論します。

「なんでスネイプ先生なんですか?」
「あら。貴方、スネイプのこと大好きじゃない」
「違いますよ!?」

私がスネイプ先生のことが好きだなんて、ありえません!

「ハリーやロンに意地悪する方ですし、リーマスさんにも意地悪なんですよ?」
「それでも地下牢教室に手伝いに行ってるじゃない。
 それに最初「絶対に一緒には行ってくれない人」と言っていたじゃない。
 あれ、スネイプのことでしょ」
「………そんなこと言いましたか?」

知らんぷりをして頬を膨らませていると、ハーマイオニーが私の背中側から優しく抱きしめてくれました。

「リクも素直になりなさい」
「私はいつだって素直です」
「言いたくないけど、きっとスネイプもリクの事を気にしてるわよ」
「ぜっったいそんなことないですからねー」

頬を膨らませながら、少しだけ、ほんの少しだけ左腕を押さえているスネイプ先生を考えました。


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