「……このぐらいの大きさで、足りますね」
「何をしている?」
地下牢教室で、一抱えもある大鍋を前にした私は、スネイプ先生に向かって第1の課題で手に入れた金の卵を突き出しました。
「卵の謎解きです!
シャワールームだと皆さんの注目の的になってしまいますから」
大鍋の淵を軽く杖で叩いて「アグアメンティ(水よ)」と唱えます。
すぐに大鍋は綺麗な水で満たされます。
そしてその中に金の卵を沈めました。
「大体することは知っているのですが、聞いてみたいと思いまして」
「情報が早くて便利ですな」
「これが無いと辛かったです」
答えてから、私は水の中で金の卵を開けました。
水の中からは囁くような声が聞こえます。やった。成功です。
スネイプ先生が私の様子を見ている中、ぎゅっと目をつぶってから、大鍋に顔を突っ込みました。
探しにおいで 声を頼りに
地上じゃ歌は 歌えない
探しながらも 考えよう
われらが捕らえし 大切なもの
探す時間は 一時間
取り返すべし 大切なもの
一時間のその後は――もはや望みはありえない
遅すぎたなら そのものは もはや二度とは戻らない
「ぷはっ」
息が続く限り潜って、顔を上げました。
用意していたタオルで髪を拭きながら、見ていたスネイプ先生ににっこりと微笑みます。
「先生も聞きます?」
「いや、いい」
そうですか? と答えながら水の中で卵を閉めてから卵を取り出します。
大鍋の水を捨てて、卵を前に首を傾げました。
「地上じゃ歌は歌えない…、…探す時間は1時間…。
湖のことでしょうし、ですが最初の問題は水の中での酸素です…」
「教師は手伝わないし、口出しをしない」
「わかってますよー。独り言です」
ぷぅと頬を膨らまして、濡れた髪から滴る水を見つめます。
タオルを肩にかけたまま、地下牢教室にある分厚い本を手にしました。
「学校の教材を濡らさんように」
「気をつけまーす」
作業に戻りはじめるスネイプ先生から厳しい声が飛びます。
私は本を開きながらパラパラと眺めていきます。
「水の中でも息が出来る魔法薬があった気がするのですが…。
水の中…、人魚…、お魚…、えっと…」
映画でハリーは何を使いましたっけ。
何を食べていましたっけ。
お魚と、そして海藻みたいな…?
「…あ、『ヒレわかめ』?」
「ふっ」
パッとスネイプ先生を振り返ると、いつもの無表情でレポートを手にしていました。
じーっと先生を見つめて、口を開きます。
「先生、笑いました?」
「笑っていない。……ヒレわかめか」
「おかしいなら、おかしいと言ってください!」
「教師は口出しをしない」
「意地悪」
ムッと口を尖らせながらスネイプ先生を見ます。本を開いても『ヒレわかめ』は見つかりません。
確かこんな名前だと思っていたのですが…。
「……あぁ、もう、ヒレわかめしか浮かびません…」
「それがわかったとしてもどうやって用意するつもりですかな?」
レポートの丸付けを始めるスネイプ先生が聞きます。
私は笑顔で地下牢教室にある魔法薬草のストックを指差しました。
「作ろうかと」
「許すとでも?」
「お手伝いと雑用しますから!」
「いつもと変わらん」
ばっさり切り捨てられます。
私は抗議するように本をぱたんと閉じて、また別の本を取り出します。
「探しにおいで声を頼りに…。地上じゃ歌は歌えない…」
小さく歌を口ずさみながら、大量の本を積み重ねていきました。
†††
気付いた時、ハッと時計を見つめると就寝時間を大きく過ぎていました。
チラッとレポートの丸付けを続けるスネイプ先生を見てから静かに立ち上がります。
「せ、先生、もう私帰りますね」
「…あぁ。……む。グリフィンドール1点減点」
「き、気付かれました」
どうやらスネイプ先生も時間が過ぎたことに気が付いていなかったようでしたが、残念ながら気付かれてしまいました。
まだ減点されてしまった事に肩を落とす私の横で、先生が黒いカーディガンを羽織って立ち上がりました。
「行きますぞ。この時間、生徒1人では歩かせられない」
「ありがとうございます」
結局、いつものように送ってくださるスネイプ先生に頬を緩めます。
金の卵を抱えて、私もローブを着ました。
歩き出したスネイプ先生について地下牢教室の階段を上がっていきます。
その時、突然、ガンガンと何かが転がる音と、そして泣き叫ぶような声が響き渡りました。
さっと杖を構えるスネイプ先生が回りを見渡します。
私もつい、杖に手を伸ばしていました。
「先生、今のは――」
「わからん。杖を離すな、…!」
スネイプ先生の研究室の松明が灯っていました。
先生の表情が厳しくなります。
私に待っているよう指示した後に、先生は研究室の様子を調べていました。
私もちらりと中を覗くと 戸棚が半開きになり、中の材料が荒らされているのがわかりました。
酷く怒っている様子のスネイプ先生から思わず1歩下がります。
視線を合わせないままに、再び歩き出すスネイプ先生を追いかけます。
「先生、どうするんですか?」
「侵入者を探す。Ms.は我輩についてこい。
まだホグワーツ城内にいるやも知れん」
「わかりました」
誰が先生の研究室に? 首を傾げますが答えは出ません。
杖を握ったまま研究室を通り過ぎ、音がした方へ急ぐと、階段の途中でフィルチさんが立ち止まっているのが目に入りました。
「フィルチか? 何をしている?」
フィルチさんは私の姿を見て、一瞬怪訝そうな顔をしましたが、それよりも。という風に手に持っていた金の卵をスネイプ先生に見せました。
私の卵は自分で今、抱えています。では、あれはハリーの?
スネイプ先生とフィルチさんが話している間、私はキョロキョロと回りを見ていましたが、ハリーの姿は見えません。
透明マントでしたら私には見えませんが。
その時、コツ、コツという特徴的な足音にスネイプ先生とフィルチさんはばったりと話を止めました。
私達が階段下を見つめると、ムーディ先生が足を引きずりながら姿を現しました。
暗い中ただずむムーディ先生がいつも以上に怖くて、私は思わずスネイプ先生のカーディガンを掴みました。
ムーディ先生は私とスネイプ先生の顔を交互に見ます。
「スネイプ。何故、生徒がこの時間に?」
「……罰則が長引いただけだ、ムーディ」
スネイプ先生が素っ気なく答えます。
その横でフィルチさんが事情を説明し始めました。
「スネイプ教授も私も物音を聞き付けたのです。
ポルターガイストのピーブズめが、いつものように物を放り投げていて――それにスネイプ教授は誰かが教授の研究室に押し入ったのを発見して――」
「黙れ!」
スネイプ先生が何故か歯を食いしばったままフィルチさんにいいました。
ムーディ先生の青い義眼がスネイプ先生に向きます。
「今、聞いた事は確かか? 誰かが君の研究室に押し入ったと?」
「…たいしたことではない」
「いいや。たいしたことだ。君の研究室に押し入る動機があるのは誰だ?」
「恐らく、生徒の誰かだ。以前にもこういうことがあった」
冷たく答えるスネイプ先生がちらりと私を見下ろしました。
心当たりがある私は、ふいっとそっぽを向きます。