ハリーはシリウスに、クラウチさんがスネイプ先生の研究室に忍び込んだことや、ムーディ先生とスネイプ先生の会話を、手紙にして伝えました。

図書館で沢山の本に囲まれながら、私達は方法を探し続けていました。

「リクはどうするの?」
「私もまだ方法は知らないんです…。
 でも「ある人」に教えて貰う約束をしたんです」

今晩から。と言葉を続けるとハーマイオニーが私にこっそりと顔を寄せました。

「…それってスネイプ?」
「え!? 違いますよ、違います!」

何でスネイプ先生が出て来るのでしょう!?

ぱたぱたと両手を振ってハーマイオニーの誤解を解きます。ハリーが分厚い本を閉じました。

「その人に僕も一緒に教わっていいかな…?」
「えーっと…」

ヴォルデモートさんがハリーに呪文を教えるなんてこと……ありえませんね…。

「あの…えっと…、その人は…実はスリザリン寮の人で…。
 本当はグリフィンドール寮の人は嫌っているんです…」
「やっぱり、スネイプ?」
「違いますってハーマイオニー!」

ハリーは重々しく溜め息をつきました。

「じゃあ…駄目なんだ…。リクから教わるかな」
「はい。私もハリーのお手伝いをしますね」


†††


「ハリー・ポッターには教えるなよ、リク」
「ヴォルデモートさん、そこを何とかお願いします!!」
「絶対、嫌だ」

私は杖を持ったまま、ぐすんと涙を拭いました。
ヴォルデモートさんは相変わらず、ソファに身体を預けたまま、私に杖を構えるように言いました。

「俺様が教えるのはリクだけだ」
「私からハリーに教えるのは」
「却下だ。俺様の気に障る。ぐだぐだ口答えするな、リク。
 俺様が生身なら「磔の呪文」だぞ」
「………はい…」

そんな脅しに眉根を下げながら、そっと杖を構えました。足元にはのんびりとナギニが這っています。
ヴォルデモートさんの口頭での指導にあくせくしながらも、私は授業を開始しました。


†††


2月24日までの時間はとても早いものでした。

あっという間に試験の日になり、マクゴナガル先生に呼ばれた私はハリーの姿を探します。

ハリーはまだ方法を探しているのでしょうか。試験まであと1時間しかありません。
マクゴナガル先生も一瞬、不安そうな表情を浮かべていました。

ハリーは「エラ昆布」を手に入れることが出来たのでしょうか…。

「Ms.ルーピン」

俯いていた私はそっと視線を上げます。
そこにスネイプ先生が立っていて私は目を丸くさせました。

他の代表選手が集まる中、歩き出したスネイプ先生について、控え室がわりのテントの横につきます。

「どうしました? 先生」
「我輩の研究室にあった『毒ツルヘビの皮』と『エラ昆布』が盗まれた。
 Ms.ではあるまいな?」
「違いますよ! 私は私で方法を見つけましたもん!」
「………」

パッと私は答えます。エラ昆布はきっとハリーの手元に渡ったようですが、このままではスネイプ先生に疑われてしまいます…!

じっと私を見下ろすスネイプ先生を見上げます。
黙って先生を見つめていると、先生は静かに溜め息をつきました。

「……『ヒレわかめ』と連呼していた者には無理か」
「先生、その台詞に悪意が見られます」
「悪意を見せている。馬鹿にしているのだ。馬鹿者」
「酷いです!」

悲鳴を上げていると、スネイプ先生は私を押さえ込むように頭に手をおきました。

「この課題で危ないことをすれば、今度こそルーピンが来ますぞ」
「は、はい。それは重々承知しています…!!
 リーマスさんが本気で怒ったら怖いので…」
「精々、怪我をせぬように」

そういってスネイプ先生は私を代表選手の元に戻るように言いました。
言葉に従い、戻る途中で、私ははたと首を傾げます。

もしかして、今、スネイプ先生に心配されてました?

………そんなこと、ありえませんよね。


†††


課題開始まであと10分というところで私達の元にハリーが疾走してきました。

ゼイゼイと息を切らしているハリーをぎゅっと抱きしめました。
抱きしめながらハリーだけに聞こえるように囁きます。

「ハリー、『エラ昆布』は手に入れれましたか?」
「え…? まさかリクがドビーに?」

ドビー。確か、ハリーを慕っている屋敷しもべ妖精です。
私は曖昧に微笑みました。ハリーは表情を輝かせて私の事をぎゅうと抱きしめ返してくれました。

「リク、最高…!
 今度、チョコレート贈るよ」

ハリーがそう言った瞬間、バグマンさんに指定の場所まで連れられてしまいました。
湖の淵に立つと、暗く深い湖が見えました。

これから、ここに沈んでいくのです。そして、私の大切な誰かを助けに…。

私はローブを脱いで足元にまとめました。

水着姿になった私は、刺すような冷たさに涙を堪えながら、バグマンさんが3つ数えるのを待ちました。
そしてホイッスルが鳴り響きます。
 
私はヴォルデモートさんにアドバイスされたように私の身体に『保温呪文』をかけました。
かけた瞬間に外の寒さがなくなり、羽毛に包まれたような暖かさが広がります。

次に自分の喉に向かって、呪文を唱え、バシャっと音を立てて、湖に潜っていきました。

ぐっと息を止めていた私がおずおずと口を開きます。
すると呪文は成功していたようで、水の中でも呼吸ができることに気が付きました。

これは口の中に入った水を瞬時に液体酸素に変え、人間の肺活量でも水から酸素を受け取ることができるようにする。だとか。なんとか…。

暗い湖に恐怖を覚えながら、湖の中心に向かって泳ぎ始めました。

潜っていると、小さく可愛い魚が私の側に寄ってきました。
1匹の魚が私を案内でもするかのように、先を泳いでいきました。

お魚にまで好かれるとは…。魚が食べられなくなりそうです。

『ありがとう』

声は水の中に反響しました。

そしてやがて目の前に水草が広がる場所に出てきました。魚達は水草の中を進んでいきます。

私もついていこうとした瞬間、魚達がバッと慌てたようにいなくなってしまいました。
表情を険しくする私。その時、突然、私の足を何かが掴みました。

声にならない悲鳴が上がります。
足首を見ると、そこには小さな角をもった水魔が尖った歯を剥き出していました。

『びゃっ、は、離してください!!
 スコージファイ(清めよ)!』

水魔の頭が泡で包まれました。パニックになった私は水魔から離れようと水草から離れて湖面の方に上がっていきます。

周りを見回すと、濁った水の向こう、大きな岩が見えました。

『……あっち…でしょうか…?
 …あぁ、フェインも連れて来たかったです!』

連れて来れなかったフェインを思いつつ、私は覚悟を決めて、見えた大きな岩に向かって泳ぎ出しました。

私がそこに向かうと、沢山の水中人が岩の穴から顔を覗かせているのが見えました。
灰色味を帯びた水中人達はとっても不気味で、私は視線を合わせないようにしつつ、中央に向かって泳ぎ続けました。

耳には卵を開けて聞いた綺麗な歌声が聞こえます。
声に近づいていくと、水中人のコーラス隊がお祭りの広場のような場所で歌っていました。

その中心には5人の人間が水中人の銅像に縛り付けられていました。

ハリーの人質であるロンに、クラムさんの人質のハーマイオニー。
ディゴリー先輩の人質であろうチャン先輩に、見たことがない綺麗な女の子。

そして私の人質である、ジョージ先輩!?

『ハリー!!』

よく見ると、ハリーは既に到着していました。

ハリーにはエラ昆布の効力が出ているのか、エラと水かきがついていました。

ハリーは私の姿を見ると、口から大きな泡を出しました。何か私に声をかけたようです。

私もさっと近寄り、寮からもってきたナイフを腰につけたポーチから取り出します。
ジョージ先輩の側に寄って、彼を縛り付けている頑丈な縄に振り下ろします。

中々切れない縄に焦りを感じながらも、縄を切り落としました。

ハリーは私の隣、ロンの前で何かギザギザした岩で縄を叩き切っていたので、私はすぐにナイフを手渡しました。

解放されたロンとジョージ先輩。ですが、他の代表選手達が来る様子は見られません。
困った顔をしたハリーはすぐさまハーマイオニーを縛り付けている縄を切り始めました。


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