「それはエラ昆布だ、馬鹿者」

ヴォルデモートさんにそう言われ、私はパッと表情を輝かせました。
そうです。エラ昆布! わぁ、すっきりした気分です!

ですが、ニッコリと笑っていた私を落ち込ませる言葉をヴォルデモートさんは呟きました。

「エラ昆布を1から作るには半年はかかる」
「え…、そ、そうなんですか!?」
「ストックがなければ、第2の課題に間に合わないな」

私の表情が青ざめました。第2の課題まではあと2ヶ月しかありません。エラ昆布の作成は間に合いそうにありません。
ストックを見てみるのも手ですが、スネイプ先生は絶対に渡してはくれないでしょうし…。

「どうしましょう…」

しょんぼりと俯いていると、目の前のヴォルデモートさんはくくくと低く笑いました。
ムスと頬を膨らませます。笑い事じゃないんですよ!

「闇の帝王の前でそんなに表情豊かな奴は初めてだ」
「……私、今、褒められてます?」
「褒めていないが、気に入ってはいる」

傍若無人なヴォルデモートさんが、軽く笑いながら私を見下ろしていました。
ムッとした私はそのヴォルデモートさんの頬を指先で突きました。その指先は透き通っていましたが、眉間にシワを寄せるヴォルデモートさん。

「やめろ、馬鹿者」
「今の姿のヴォルデモートさんだったら怖くないんですからねー」
「戻ったら覚えておけ」

今のヴォルデモートさんは衰弱した赤ちゃんな姿です。
初めて会った時よりは些か元気がいいようですが、まだまだ動き回ることは無理でしょう。

ヴォルデモートさんが元の姿に戻るにはハリーの血が必要となります。
ハリーは絶対に傷付けたくないのに、私は何故か、ヴォルデモートさんがこのままの姿でいるのも嫌でした。

複雑な気持ちを抱えながら、私はヴォルデモートさんのすぐ隣に座り込んでいます。

ヴォルデモートさんの弱々しい、枝のような手がひじ掛けの部分から離れ、私の頭に触れました。
さっと顔を上げると、すり抜けてしまったその手が宙をさ迷っていました。

「ヴォルデモートさん?」
「………エラ昆布以外にも方法はある」
「変身術ですか? 残念ながら私、変身術はあまり得意ではなくて……」

眉根を下げて俯くと、ヴォルデモートさんは不敵に微笑んでいました。

「貴様の目の前にいるのは誰だ?」
「? ヴォルデモートさんですね」
「この魔法界で1番の魔法使いだぞ。俺様は」
「???」

きょとんと首を傾げる私。ヴォルデモートさんはそんな私に苛々としながら、鋭い視線を向けました。

「魔法界で1番の魔法使いがいて、1時間、湖の中で生きぬく程度の呪文を知らないとでも?」
「教えてくれるんですか!?」

パッと表情を輝かせた私は、目の前のヴォルデモートさんを両手で抱きしめます。
彼は不機嫌に顔を歪めながら、追い払うように手を振りました。霊体の私の身体はすり抜けましたが。

「『剥がれかけ』でも夢の中で身につけた技術は現実世界でも使える。
 明日からは杖を持って来い」
「はい! お願いします!」

ニッコリと笑って、私はまた懲りずにヴォルデモートさんを抱きしめました。


†††


「卵の謎はもう解いたって言ったじゃない!」
「ちょっと――仕上げが必要なだけなんだから…」

呪文学はヒソヒソとお話するには最適な教科でした。

昨日、卵の謎を知ったハリーと私は、1時間、湖の中で生き延びる方法を探していました。
ハーマイオニーはショックを受けた顔をした私とハリーを見つめます。

ハリーも焦ってはいる様子でしたが、それよりも昨日の夜のこと、スネイプ先生とムーディ先生のことを話したそうにしていました。

「スネイプは、ムーディも研究室を捜索したって言ったのか?」

興味津々な表情をしたロンが囁きます。

「どうなんだろう…。リクは何か知ってる?」
「捜索したかどうかはわかりませんが、入学式の日にムーディ先生が地下牢教室に来ましたよ」

もしかしたらあの日、研究室を捜索していったのでしょうか。
杖を振るって「追い払い呪文」をかけながら悩む私に、ロンが首を傾げながら聞きました。

「でも、なんでリクは昨日の夜、スネイプなんかと一緒にいたんだ?
 罰則受けたとかは言ってなかったよな」
「ロン!」

ハーマイオニーが突然、声を上げました。
その声に担当のフリットウィック先生がびっくりした顔で「どうしました?」と聞きました。

「…い、いえ、何でもありません」
「? では、練習を続けてください。皆さん、クッションを飛ばすんですよ。クッションを」

教室中に飛び回る色んな物を眺めながら、フリットウィック先生は諦めた顔をしていました。
落ち着いたところでロンがハーマイオニーの肩を引きます。

「何だよ、ハーマイオニー」
「貴方って本当……ううん。何でもないわ」
「どうしたの、ハーマイオニー?」

首を傾げるハリーとロンに、ハーマイオニーは深々と溜め息をつきました。
チラッと私を見るハーマイオニーは意味深な表情で微笑んでいました。

「ね、リク」

……別に…昨日はたまたまスネイプ先生と一緒にいただけなんですからね。


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