すると突然。今まで黙っていた水中人達がハリーを取り押さえました。
ハリーをハーマイオニーから引き離そうとしています。

水中人の1人が言葉を発しました。

「自分の人質だけを連れていけ。
 他の者は放っておけ……」
『この子も私の友人なんですよ!』

私はジョージ先輩の腕を抱えながら、水中人にそう叫びました。
水中人達は不気味に笑っています。もがくハリーを助けていると、私達の頭上からディゴリー先輩が泳いで来るのが見えました。

ディゴリー先輩はチャン先輩を助けると、彼女を引っ張り上げて姿を消しました。

次にクラムさんが姿を現しました。
クラムさんの姿はとても不思議で、頭だけにサメの変身を施されていました。

クラムさんもハーマイオニーをすぐに助け出し、湖面に向かって浮上していきます。

ハリーと私だけが呆然とその場に漂っていました。
ロンとジョージ先輩の体力も限界でしょう。早く湖面に上がっていかなくてはいけません。

ですが。ハリーの視線は目の前の知らない女の子に注がれていました。

デラクールさんの人質の女の子です。容姿が似ていることから、彼女の妹でしょう。

私はその女の子に近寄りました。水中人がさっと私を囲み、槍を構えています。
水中人の不気味さに怯えながら、私は咄嗟に杖を構えました。

そこで水中人達の表情が変わりました。
視線は私の杖に注がれています。はっと気がついたハリーが同じく杖を構えて、水中人達に向かって指を3本立てました。

それをゆっくりと折っていきます。
みっつ数えるまでに水中人がどこかにいってくれることを願ったのでしょう。

ハリーの指が2つ折られたところで、水中人達が散り散りになりました。
すかさず私が女の子の縄を叩き切ります。

私だけではジョージ先輩と女の子を引き上げることはできませんでした。
ハリーが女の子を受け取り、湖面に向かって泳ぎ始めました。

水の中で人間を持ち上げる作業は非常に辛く、腕の筋肉が悲鳴を上げはじめていました。

水面まであと3メートル。というところで、エラ昆布の効力が切れかかっているハリーが元の姿に戻ろうとしていました。

光。水のはねる音、そして空気。

私達は湖面から顔を出し、ごほごほと咳き込みました。ハリーがゼイゼイと呼吸を繰り返しています。

ロンにジョージ先輩、そして女の子はゆっくりと目を覚ましました。
私は思わずジョージ先輩に飛びつきます。バシャッと水が跳ねました。

「先輩……!」
「あー、リク。泣くなよー。
 俺は大丈夫だからさ。
 ロニー坊やもずぶ濡れだな、おい」
「あぁ、ビショビショだ。こりゃ」

私達は岸辺に向かって泳ぎました。岸辺には何人かの審査員と、怖い顔をしたマダム・ポンフリーがいました。
審査員の中にいたパーシー先輩が焦った顔をしながら、ジョージ先輩とロンを毛布でくるみました。

「放せよ、パーシー、俺達、なんともないって。それより、リクにも毛布……」

ジョージ先輩は肩に掛けられた毛布を私の頭に被せてくれました。
そのままわしゃわしゃと頭を拭かれます。私は軽い悲鳴を上げました。

「先輩、私は大丈夫ですって!」
「いいから、大人しくしてろって」

隣では涙を流しながらデラクールさんがマダム・マキシームの静止を振り切って女の子を抱きしめていました。
私とジョージ先輩は渡された元気爆発薬を飲み干すと、耳から湯気が飛び出しました。

奥を見るとハーマイオニーの姿が見えました。ハーマイオニーは私達の姿を見つけると、クラムさんを放って、私に飛びつきました。

「ハリー、リク! 貴方達、随分時間がかかったけれど、そんなに長くかかったの…?」
「うーん、一応、ハリーが1番に、私が2番目に見つけられたんですけどね」

私は困ったようにハリーと顔を見合わせます。ハリーも困ったように俯きました。
ジョージ先輩が濡れたままの私の頭をガシガシと撫でてくれました。

「リクのことだから、他の人質が死ぬと思ったんだろ。
 馬鹿だなぁ、ダンブルドアがそんなことさせるはずはないだろう?」
「わ、わかんないじゃないですか…本当に心配したんですからね」

ムスと頬を膨らませて、背の高いジョージ先輩の服の裾を握ります。
デラクールさんが人混みをかき分けてハリーの元にやってきました。

「貴方、妹を助けました。
 貴方の人質ではなかったのに」
「うん」

ハリーは短くそう答えました。
デラクールさんはにっこり微笑むと、お礼にと、ハリーの額にキスをしました。
彼の顔が真っ赤に染まります。

そのまま、ロンの額にもキスをしたデラクールさん。ロンの顔も真っ赤に染まりました。
それを見ていた私とジョージ先輩がニヤっと笑います。

「よかったですね、ロン」
「よかったなぁ、ロン」
「君達、なにさ!」

そこで、バグマンさんが審査結果が出たことをスタンド中に知らせました。
肩からずり落ちそうになった毛布を戻し、審査員席を見つめます。

『まず、Ms.デラクール。素晴らしい『泡頭呪文』を使いましたが、ゴールには辿り着けませんでした。よって得点は25点』

ディゴリー先輩も『泡頭呪文』を使い、1番最初に人質を助けましたが、時間を1分オーバー。47点でした。
クラムさんは変身呪文を使いましたが、中途半端になってしまいました。ですが2番目に人質を助けたので得点は40点。

『Mr.ポッターが使った『鰓昆布』とMs.ルーピンの使った『液体酸素魔法』はかなり効果が大きい。
 戻ってきたのは最後でしたが、水中人の長によると、Mr.ポッターが最初に人質に到着し、Ms.ルーピンは2番目だったとのことです。
 遅れたのは全員を安全に戻らせようと決意したからだそうです。
 ほとんどの審査員がこれこそ道徳的な力を示すものだとの意見でした。
 よって両選手、共に得点は45点』

歓声が上がりました。ロンとハーマイオニーは一瞬きょとんとしたあと、すぐに笑い出して沢山の拍手をしてくれました。
ジョージ先輩が私の頭をぐしゃぐしゃと撫でてくれます。

「やったじゃん、リク!」
「ありがとうございますっ」

バグマンさんの声が続きました。

『最終課題は6月24日の夕暮れに行われます。諸君、代表選手の応援をありがとう』

ぱちぱちと拍手で締め括られ、私達はマダム・ポンフリーの引率で城へと歩きだしました。
キッと怖い顔をするマダム・ポンフリーに逆らう人はいませんでした。


†††


第2の課題は湖の中で行われたため、生徒は何が起きたのかを私達代表選手と、そして人質の方にも誰もが詳しく聞きたがりました。

楽しそうに水底で起こったことを自慢するロンに私とハリーは顔を見合わせて微笑みます。
ハーマイオニーとは言うと、クラムさんの人質がハーマイオニーというのをみなさんがからかうので少し気が立っていました。

「リク。新作のお菓子あげるよ」
「ふふ。先程、うさ耳が生えた方を見つけたので遠慮しておきますね」
「なんだ、バレてたのか。残念」

ジョージ先輩はあれから新作のお菓子を沢山くれるようになりました。
そのついでのように私の頭をよく撫でてくれました。フェインは嫉妬して怒ってますけど。

3月に入ると、まだ冷たい風が吹き荒れていました。
ふくろう便すら遅れる中、シリウスからの手紙が届きました。

それは次の土曜日、ホグズミードで落ち合おうという手紙でした。

「ホグズミードに帰ってきたんですね」
「そんな…捕まったらどうするつもり…」

心配するハリーを落ち着かせるようにフェインがハリーの前で首を傾げていました。
短くシュウシュウと鳴くフェイン。今度は私が首を傾げました。

「フェインはなんと言って?」
「『ホグワーツの抜け道から俺だけ先に会いに行ってるか?』って。
 でもリクが」
「フェインがそう言ってくれるなら、私は大丈夫ですよ。
 フェインがいなくて淋しいのは我慢します」

ぎゅっとフェインを抱きしめると、返してくれるように彼の尻尾が私の腕に絡まりました。

「隻眼の魔女像の前で『ディセンディウム、降下』だよ」
「では、授業間の移動中にこっそり行ってきますね」
「お願い、フェイン」

ハリーの指をチロリと舐めてから、フェインは「シャ」と返事するように短く鳴きました。


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