午後の最後の授業は2時限続きの魔法薬学でした。

ハリー達と一緒に地下牢教室への階段を降りていると、教室のドアの前でドラコくん、クラッブくんにゴイルくん、パーキンソンちゃんが何かを見ていました。
私達が近づくと、クスクス笑いをしながらパーキンソンちゃんが何かを投げて寄越しました。

『週間魔女』です。

「貴女が関心がありそうな記事が載ってるわよ、グレンジャー!」

私がちらとドラコくんを見るとパーキンソンちゃんを横目で見てから、教室の中へと入っていきました。

ドラコくんはお父さん…マルフォイさんに私と仲良くしてはいけないと言われているのです。
他のスリザリン生がいるときはお話出来ません。

授業が始まり、スネイプ先生が黒板に向かっている隙に雑誌を広げました。

目当ての記事にたどり着いた時、見えたのは『ハリー・ポッターの密やかな胸の痛み』というタイトルでした。

ほかの少年とは違う。そうかもしれない――しかしやはり少年だ。

そう始まるリータ・スキーターの記事は、ハリーがハーマイオニーに恋をしているということ。
それなのにハーマイオニーは代表選手のクラムさんとも恋をしていると。
それは2つの愛情をもて遊んでいるとまでかかれていました。

さらにはそれが『愛の妙薬』での効果ではないか。と。

「だから言ったじゃないか! リータ・スキーターにかまうなって!」
「だけど、せいぜいこの程度なら、リータも衰えたものね。バカバカしいの一言だわ」

皮肉っぽく微笑んだハーマイオニーはさらに記事を数ページめくっていると、それがぱたりと止まり目を丸くさせました。

「リク、これ…!」
「どうしました?」

首を傾げた私は見せられたタイトルを見てほんの少し頬を染めながらとっても驚きました。

『名門校ホグワーツでの禁断の恋』!?

その記事は、あああああ私とスネイプ先生の事が書かれています!!
就寝時間ギリギリまでスネイプ先生の教室にいる事(お手伝いしているだけです!)や、第2の課題の前に2人で会っていた(エラ昆布の話です!)とか、ああああえええ!?

私は口をぱくぱくとさせたあと、ハーマイオニー達と顔を見合わせました。

無言が私達を包んだあと、ハリーが小さな声で「これもリータ・スキーターのでっちあげだよね?」と呟きました。コクコクと何度も首を縦に振ります。

「…で、でも何故スキーターさんがスネイプ先生の事を知っているのでしょう…?」
「えぇ。…ビクトールの事もよ」
「えーっ?」
「本当の事なの!?」

驚くロンに私とハーマイオニーは口ごもります。
記事に書かれていたことは、実際に第2の課題にスキーターさんが来ていなければ知らないようなことばかりでした。

ムスと不機嫌になるロンをよそにハーマイオニーは赤い頬のまま呟きます。

「あの人、本当に透明マントを持っているのかしら…。第2の課題を見るのにこっそり忍び込んだのかも知れない」
「…あの、ハーマイオニー…?」

「何?」と私を見るハーマイオニーの影から、私はちょこんと後ろを見つめました。さっと3人が振り返るとそこには。

「我輩の授業では、そういう話はご遠慮願いたいですな。グリフィンドール、10点減点」

氷のような声と共にいつのまにかスネイプ先生が私達のすぐ後ろで立っていました。

「…その上、机の下で雑誌を読んでいたな? グリフィンドール、もう10点減点。
 しかし…、なるほど、ポッターは自分の記事を読むのに忙しいようだな…」

地下室にスリザリン寮生の笑い声が響きました。
ハリーが怒っているのを見ながらスネイプ先生はパラパラとめくって見つけたその記事を音読し始めました。

一文一文区切りながら読む先生をじっと睨みながら、私達は静かにスリザリン寮生の笑い声に耐えていました。

スネイプ先生が全ての記事を読み終わったあと、雑誌を丸めながら鼻先で笑いました。

「さて、4人を別々に座らせたほうがよさそうだ。もつれた恋愛関係より、魔法薬のほうに集中出来るようにな」

先生はそういうと、ロンを今の席に残し、ハーマイオニーをパーキンソンちゃんの隣に、私を教室の出入口付近にいたロングボトムくんの横に、ハリーを先生の机の前のテーブルへと移動させました。

しょんぼりとしながら移動を済まし、私はロングボトムくんの作業を見つめて、彼が根生姜を刻みすぎないように止めていました。

雑誌はスネイプ先生の教卓の上に乗っています。

先生も、あの記事は目に入ったのでしょうか。
先生は、どう想うのでしょうか。

その時、教室の戸をノックする音がして、カルカロフ校長先生が入ってきました。
みんなが驚く中、カルカロフ校長先生はスネイプ先生に何かを話そうとして、スネイプ先生に遮られていました。

そのままチャイムが鳴ってもカルカロフ校長先生はスネイプ先生とお話しようと残っていたので、私はゆっくりと鍋の片付けをしました。
前の方の席でハリーがアルマジロの胆汁を拭き取るのにしゃがみ込んでいました。

私の所からではスネイプ先生達の声は聞こえません。
ですが、カルカロフ校長先生が机の影に隠しながら腕を捲るのが見えました。

サッと教室を見回したスネイプ先生の目が私の姿を一瞬捕らえました。
が、その視線はすぐに外され、変わりにハリーを見つけてしまいました。

「ポッター! 何をしているんだ?」
「アルマジロの胆汁を拭き取っています、先生」

ハリーは何事もなかったように立ち上がって教科書を纏めました。
カルカロフ校長先生も教室を出ていき、ハリーはかけるように私の横まで来ました。

「リク。行こう」
「ハリー、待って下さ」
「Ms.ルーピンは残りたまえ」

スネイプ先生の声が地下牢教室に響きました。

困惑した顔を見せるハリーに軽く頭を下げて、私はハリーの背中を軽く押しました。

「ごめんなさい。ハリー、またあとで」
「……うん。あとでね」

ハリーが渋々と立ち去り、教室の扉が閉められて、教室には私とスネイプ先生の2人になってしまいました。

私は教室の出入口付近から動かずにスネイプ先生の姿を静かに見ていました。

ゆっくりと口を開きます。

「先生。カルカロフ校長先生の腕にも『印』があるんですか?」

腕を捲って見せたのはその『闇の印』を見せるため?
カルカロフ校長先生もかつてはヴォルデモートさんの手下だったのでしょうか。

頭の端が警告するかのように小さな痛みを生みましたが、私はそれを無視します。

ですがスネイプ先生は私の質問に答えることなく、変わらず黙ったまま、睨むように私を見ていました。

何も言わない先生に、私は机に鞄を置いて、スネイプ先生の教卓の前まで行きました。
先生は強く左腕を、闇の印の跡を押さえています。私は困惑顔のまま先生を見上げました。

「先生?」
「ルーピンに伝えたまえ」
「え?」
「『我輩の机を燃やすな』と」

スネイプ先生の言葉に首を傾げて、教卓を見ます。
そういえば所々、焦げたようなあとがあるような無いような…?

「あ、あのリーマスさんが何か…?」
「無言の吠えメールを送ってきた」
「えぇ!?」
「しかも複数通。おかげで我輩の机が火事一歩手前だ」
「え、あの、す、すみません!
 でも、なんでリーマスさんが…」

スネイプの視線が教卓に置かれた『週間魔女』に移りました。
「あ」と小さく声をこぼしたあと、私の顔が真っ赤に染まりました。

私とスネイプ先生の記事があったんでしたっけ!?

慌てたように、ぱたぱたと腕を振るいます。

「あの、先生、これは、その、違いますよね!?」
「そんなのはわかっておる」

断言され、何故か胸の辺りが一瞬チクリとしました。…?

内心首を傾げた私の隣、溜め息をついたスネイプ先生。

「誰も彼もこのような記事など信用しないというのに、あの親バカは――。
 ……Ms.?」

静かになった私を見下ろすスネイプ先生を見上げ、私は小さくニコリと笑いました。

「いいえ。なんでもありません」


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