私がリドルくんを持っている間は『秘密の部屋』からの怪物さんも生徒を襲うようなことはありませんでした。
クリスマス休暇に入って、人が少ないという事もありましたが。

〈当り前じゃないか。バジリスクは僕の命令を聞いているんだから。
 僕に感謝しなよ、リク〉

確かに、このちょっと俺様なリドルくんのおかげなんですけども。

私はムスとしながらも言葉が消えてしまう前に急いで羽ペンを走らせました。

〈リドルくん、このままバジリスクをホグワーツの外に離しませんか?
 そうしたらホグワーツへの危険はなくなるんですが……〉
〈未来の闇の帝王である僕が危険をなくしてどうするのさ。
 ほら、今日はクリスマスじゃないの? 早くハリー・ポッター達の所にいきなよ〉
〈この日記の中から外の様子は見えるんですか?〉
〈見えない。だから気にしないで早く行ってよ。
 あんまり君が遅いと怪しまれるだろう〉

怒られてしまいました。でもきちんと律儀にお返事を書いてくれるんですよね、リドルくん。

そうです。今日はクリスマスです。
そして、作ってきたポリジュース薬も今日で出来る予定でした。

〈じゃあまた、後で。
 メリークリスマス。リドルくん〉
〈はいはい。メリークリスマス〉

リドルくんの日記を閉じて、鞄の奥底にしまいます。
誰かとぶつかって落としてしまったりしたら、大変な事になりますからね!

夕食を食べようと大広間に掛けていくと、すでにハリーやロン、ハーマイオニーがいました。
途中で擦れ違う先輩方にも「メリークリスマス」と交わしていました。

「これから変身する相手の一部が必要なの」

豪華な夕食を食べた後、ハーマイオニーがこともなげに言いました。
ハリーとロンが苦い顔をする中、私は困ったようにハーマイオニーに視線を向けました。

「ハーマイオニーちゃん、私…」
「どうしたの?」
「今回、ポリジュース薬、飲まないでもいいですか?」

言った後に、ハリーが殆ど反射のように「なんで?」と聞きました。
私は、眉を下げて困り顔。えっと、んっと。

「……………………スネイプ先生に、ポリジュース薬の事がばれてしまって……」
「えぇ!? 大丈夫なの!?」
「はい。大体は大丈夫なんですけど……」

昨日の事でした。

いつものように地下牢教室に降りていくと、いつものようなスネイプ先生がいて、そしていつものように大鍋を洗い始めていました。

そんないつものように行動していた私ですが、突然、スネイプ先生が話しかけてきたことは何時も通りではありませんでした。

「ポリジュース薬はできましたかな」
「………………………………なんのことですか?」

な、なんでばれているんですか!?

内心びくびくしながら真っ直ぐに大鍋だけを見つめて洗っていると、スネイプ先生は私の前まで来て、私の頭を掴みました。こ、怖いですよ!?

「材料が発注分より少なくなっている。毒ヘビツルの皮、二角獣の角。ともにポリジュース薬で必要な物だ。
 何をやらかしている?」
「………………………………なんのことですか?」
「我輩の薬草棚に入れるのは我輩自身と、手伝いをしている君だけだ。
 まだしらばっくれるのかね」

犯罪者の気分です。いや、盗みは悪いことですけども!!
ドキドキしながら、私の頭に手を置いたままのスネイプ先生を見上げました。

この場を回避する素敵な台詞を、今!

「……………あ、頭が痛いです! これ以上お話したら未来が!」
「罰則。今週1週間、新しく発注した分の材料が来る。それの下準備。夕飯を食べてからだ」

あぁー……。罰則を与えられてしまいました。減点よりはよかったんですけども。
あれ、でも。材料の下準備って。

「いつもやっていることと変わりませんよね、その罰則」
「発注ミスで量が多すぎる。昼休みだけでは足りん」
「………昼休みと夕食後もお手伝いですか?」
「またはグリフィンドール50点減点だ。どちらがいい?」
「罰則でお願いいたします」

グリフィンドール全体の点数を減らすなんてことできません。しかも50点も。
もしかしたら、シリウスの所にいくのが遅くなるかもしれません。シリウスに言っておかないといけませんね。

「それにMs.ルーピンはポリジュース薬は飲めませんぞ」
「えぇ? 何でですか?」
「盗みと、ポリジュース薬作成を認めたようですな」
「あ」

ゆ、誘導尋問だなんてずるいですよ、本当!
スネイプ先生から視線を反らし、頬を膨らませます。

でも今の私はそれどころではありません。

「どうして、私は飲んではいけないんでしょうか?」
「君は翻訳の薬も飲んでいるだろう? 飲み合わせが良くない。
 戻れなくなる覚悟があるなら飲んでも構わないが」
「…………わかりました」

思い出して、また頬を膨らませました。

軽い説明をハーマイオニーにすると、ふうと溜め息をついた後、私の頭を撫でてくれました。

「スネイプに酷いことされなくてよかったわ」
「ごめんなさい。ハーマイオニー……」
「ずるいリク。僕らなんか一生ゴイルとくクラッブになるかもしれないのに」
「ハーマイオニーが作ったんですから、それはないですよ」
「じゃあ、リク。ゴイルとクラッブを連れて来てくれる? 私、いいもの作ったの」

そういって大きなチョコレートケーキを取り出したハーマイオニーに私達3人は困ったように顔を見合わせました。

「こんなにしくじりそうなことだらけの計画って、聞いたことあるかい?」

ロンはそう言いましたが、計画は思っていた以上に順調にいきました。

私が呼んできたゴイルくん、クラッブくんは私が渡したケーキを美味しそうに食べ(最悪感がひどかったです)、眠りこんでしまった後、ホールにある物置に押し込まれました。
本当にごめんなさい。今度、何か埋め合わせとして美味しいものを渡しますね…。

髪の毛をとったあと、ハリーとロンはマートルちゃんの所のトイレに戻りました。
そこにはハーマイオニーがいて、すでに準備を進めていました。

「私の方は、洗濯物置き場から着替え用のローブをこっそり調達してきたわ」

その間に私はポリジュース薬を3つに分け、それぞれ髪の毛を入れました。
ハーマイオニーは、この前の決闘の時に手に入れたというブルストロード先輩の髪の毛を入れました。

「効果は丁度1時間の筈です。全て間違いなく作った、と思います」

ポリジュース薬を持ったハリー達はそれぞれに小部屋に入り、声をかけていました。

「いいかい? いち…にの……さん……」

そしてそれぞれの小部屋からうめき声が聞こえてきました。私はおろおろとまっている事しか出来ません。
暫くおろおろを続けていると、声が止まりました。小さく声をかけます。

「皆さん、大丈夫ですか…?」
「あぁ」

帰ってきたのはクラッブくんの声でした。びっくりしながらも私はロンが入って行った小部屋からクラッブくんが出てくるのを見ていました。

「おっどろいたなぁ……」
「急いだ方が良い」

後ろからゴイルくん(中身ハリー)が出て来て、私はまたびっくりしました。
ポリジュース薬ってこんなに精巧に変身させてくれるんですね。

「出てこいよ。行かなくちゃ」

ロンがハーマイオニーが入って行った小部屋を叩いていました。
いつものハーマイオニーとは違う、甲高い声が返ってきました。


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