「きゃ」

短い悲鳴を上げると同時に、私はスネイプ先生に腕を引かれていました。

後ろを振り返ると、薬棚から落ちた『腫れ草』の瓶が割れて床に散らばっていました。

「すみません、スネイプ先生…」
「気をつけたまえ」

いつもの無表情のまま私の手を離した先生は、杖を振るって私が落としてしまった瓶を片付け始めました。
私も慌てて杖を振るおうとしますが、先生に制されてしまいました。

「最近、気が抜けているようだが?」
「そんなことないですよ」
「そうか。いつもだったな」
「それは、わざとですよね? スネイプ先生」

いつものように意地悪なスネイプ先生に頬を膨らませながら、私は使えなくなってしまった瓶の代わりを取りに、奥の部屋へと行きました。

瓶を持って帰ってくると、既に瓶に腫れ草を詰めている先生。
スネイプ先生は首を傾げる私に振り返って、怪訝そうな顔をしました。

「君は魔法というものを忘れたのか」
「あ、『レパロ(直れ)』…」

そうです。新しい瓶は基本的に必要ありませんね!
恥ずかしくなった私はうーと俯いて、瓶を戻しにまた奥の部屋へと走りました。

「待て」

走ろうとする直前で先生にまた腕を引かれました。再び首を傾げる私の額にスネイプ先生の掌が重ねられました。

「発熱は、ない」
「風邪でもありませんよ」

額に重ねられた先生の手を取ります。あぁ、でも冷たくて気持ちいいですね。

「スネイプ先生は低体温なんですね。
 私も冷え症なのに、先生はまだ冷たいです」
「………」

手がかじかんだりしないのでしょうか? 私でも朝夜はとっても辛いのに。
 
「……瓶を戻してきたまえ」
「はい」

小さく呟いたスネイプ先生の言葉に従い、私は手を離して改めて瓶を戻しに走ります。

再び戻って、次の作業をしようとスネイプ先生を見上げた時、先生がサッと左腕を抑えるのが見えました。
私は表情を歪めてスネイプ先生に駆け寄ります。

「先生…?」
「触るな」

左腕に伸ばそうとした私の手を、先生の声が止めました。

スネイプ先生はゆっくりと抑えている手を離して、それから私を見下ろしました。
先生は不安げな表情をする私の頭に右手を乗せました。

「……Ms.ならわかっているだろう。闇の帝王の力が強まっている。気をつけたまえ」
「…………ヴォルデモートさんは復活しますか?」

私の声にスネイプ先生は少しだけ驚いたような顔を見せました。
真っすぐに先生を見上げていると、私の頭に乗せられた手が離れていきました。

無言が空間を占める中、私は小さく微笑みました。

「スネイプ先生。今日はもう帰りますね。課題を片付けなくてはいけないので。
 イースター休暇に向けて先生方が沢山宿題を出したんですよー」

今までの会話を無かったように。私は荷物をまとめて鞄に詰めました。
肩からそれを下げてから私は地下牢教室の扉に向かいます。

向かった途中で先生に声をかけられました。

「追加課題だ。万年万能薬の調合の方法をまとめたレポートを休暇後に提出。次に調合をする」
「………先生、私、他にも宿題が沢山あるんですが」
「聞こえないな」

むー。私は頬を膨らませてから、扉の前でぺこりと頭を下げてから教室を出ました。

普段の授業に、宿題。
あと数ヶ月でくる第3の課題。

リータ・スキーターのこと。

それにヴォルデモートさんのこと。

廊下を1人歩きながら、思考を巡らせます。
私に何が出来るのでしょうか。私に何が出来ますか?

グリフィンドールの談話室に着く頃、『万年万能薬』は6年生で学ぶものだということと、調合が恐ろしく難しいことを同時に思い出してしまいました。

「………先生、イースター休暇後に調合するっていいましたよね…」

どうやら私の問題が1つ追加されたようです。


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