私の足元で首?を傾げるそのヘビを優しく撫でます。暖かい暖炉の前で私はコロンと寝転がりました。
何回か短く鳴く大きなヘビが私を心配します。ナギニは私の頬に擦り寄りました。
「体調でも悪いのか」
低く冷たい声が無愛想に私を心配しました。
寝返りを打ち、私はソファの上のヴォルデモートさんを見上げます。
んー。と声を零しながら、私はナギニの身体を撫でていました。
「体調が悪い訳ではありませんが、なんだか少し疲れています」
「これから第3の課題だろう」
「大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」
「心配など誰がするか」
ヴォルデモートさんは素直じゃありませんねぇ。
開心術を使われたら一瞬で『磔の呪い』が飛んできそうな事を考えながら、コロコロとやる気なく転がっていました。
「ヴォルデモートさーん、『世界平和』言葉知ってます?」
「なんだいきなり」
「ヴォルデモートさんがダンブルドア校長先生と世界平和を目指したら絶対――」
転がった先でヴォルデモートさんと目があった私はぴたりと動きを止めました。
思わず起き上がって正座。さ、殺気が、殺気が凄いです…!!
「じょ、冗談でーす」
「貴様…、本当に覚えておけ。
くだらぬことばかり、言うな」
そう言いきったヴォルデモートさんは次にナギニに何か言いました。
ナギニは私の身体をすり抜けて(変な感覚です)、部屋を出て行きました。
ヴォルデモートさんと2人でした。
私は困ったようにソファの上の彼を黙って見つめます。
彼は見下すようにソファの上で私を黙って見つめていました。
こんな時に話し出すのはいつも私からでした。
「ヴォルデモートさんはバーテミウス・クラウチの息子を知っていますか?」
「…知っている。だがあの息子は死んだ。アズカバンで」
「死んだのはポリジュース薬を飲んだクラウチさんの奥さんです」
言い切る私をヴォルデモートさんは面白そうに見ていました。
「何故そう思う?」
「何故でしょう?」
聞き返した私にヴォルデモートさんの表情に怒りが滲みました。私は小さく呟きます。
「何故…、私…なんでしょうね」
何故? この世界に来たのは、どうして、私だったのでしょう。
私よりさらに原作を知っている人は沢山いるというのに。
その人だったらもっといい行動の仕方を知っているかもしれないのに。
「貴様は何なんだ? 俺様を知っている。他が知らない情報すら持っている。
そのくせ幼稚で、考えなしだ」
「む。私だっていっぱい考えてますよー」
「利口な奴は俺様に近づかない。
俺様から逃げるか、あるいは媚びるかだ」
闇の帝王を前にして、出来ることは少ないのでしょう。
でもそれは私だって同じです。ヴォルデモートさんの何かを変える事は、私にはとても難しいのです。
「私はヴォルデモートさんのお友達ですよね?」
「くだらん」
返答は絶対的な拒絶の声でした。
†††
朝食を食べながらも私はぼーっとしていました。
思い出すのは昨日のヴォルデモートさん。冷たい彼の視線は私では何も変えられないのでしょうか。
「リク、食べないの?」
不安そうなハーマイオニーが私の顔を覗き込みます。
私の目の前にはコーンスープのみ。両手でそれを持って冷ましながらハーマイオニーにほほ笑みかけました。
「今日は、食欲がなくて」
「風邪? 大丈夫なの?」
「えぇ、大丈夫ですよ。それよりハーマイオニーも、誰からのフクロウ待ちですか?」
何故かそわそわしているハーマイオニーを見ます。ハリーやロンも不思議そうに首を傾げました。
「『日刊予言者新聞』を新しく購読予約したのよ。何もかもスリザリン生から聞くのはうんざり」
「いい考えだ」
ハリーもそう言って、やってきたフクロウの群れを見上げました。
すると、灰色のモリフクロウがハーマイオニーの前へと降りてきました。
ですがそれは新聞ではなく、何か手紙のようでした。
「これって――」
しかし、驚くハーマイオニーをよそに、それから次々と沢山のフクロウがハーマイオニーの前に降り立っていきます。
押し合うようにテーブルに集まるフクロウに目を丸くしていると、フクロウ達から1通受け取ったハーマイオニーが顔を赤くして咳き込みました。
「なにかわかりましたか、ハーマイオニー」
「これ――なんて、ばかな――」
ハーマイオニーは手紙を押しやります。そこには日刊予言者新聞の切り抜きで作られた文章がありました。
おまえは わるい おんなだ ハリー・ポッターは もっと いい子が ふさわしい マグルよ戻れ もと居た ところへ
「みんな同じようなものだわ!」
「ハーマイオニー、落ち着いてください、開けてはいけません!」
悪意や憎悪の篭った手紙の山を開いていくハーマイオニーの手を抑えます。
こんな手紙、何が混入されているのかわかりません。
その時、ハーマイオニーが触れた手紙から石油のような香りのする黄緑色の液体が吹き出しました。
腫れ草の膿です! しかも授業で使うような薄めてあるものではなく、原液のままでした。
それが吹き出し、ハーマイオニーの手にかかります。彼女の手に黄色い腫れ物が膨れ上がり、グローブをはめているかのようになってしまいました。
悲鳴を上げて手を拭うハーマイオニーのその腕を私は引きました。
「ハーマイオニー!! 医務室に行かないと。
ハリー、ロン。ここの処理をお願いしても」
「うん、わかった。スプラウト先生には言っておくから」
「お願いします」
ハーマイオニーを引いて急いで医務室に向かいます。ハーマイオニーはぼろぼろと涙をこぼしたまま手を抑えていました。
「リク…、リクは、かからなかっ、た?」
「…大丈夫ですよ、ハーマイオニー。
ハリーも、ロンも。みなさん大丈夫でしたよ」
しゃっくりをこぼしながらも私を心配してくれるハーマイオニーの髪を撫でながら、医務室の扉を開けました。
「………許しません、リータ・スキーター」
そしてマダム・ポンフリーに治療を受けているハーマイオニーを待つ間、静かに囁く声が私の耳に残りました。
†††
嫌がらせの手紙はそれから一週間、途切れることなくハーマイオニーの元へと届きました。
ハグリッドさんの助言で、ハーマイオニーは届いた手紙を開封することなく暖炉にほ織り込んでいました。
が、中には吼えメールも混ざっていて、ホグワーツの中でハーマイオニーとハリー、クラムさんの三角関係を知らない人はもういませんでした。
「そのうち収まるよ」
ハリーがそう言いました。ハリーも以前、リータ・スキーターにでっち上げの記事を書かれたのです。
「僕達が無視さえしていればね。僕のだってもうみんな飽きてしまったし」
「学校に出入り禁止になっているのに、どうして個人的な会話を立ち聞きできるのか知りたいわ!
それが非合法だったらこっちのものなんだけど」
「お手伝いしますよ、ハーマイオニー」
にっこり笑った私にハリーが少し引きつった笑みを浮かべました。