「リーマスさん!」
「わっ、と、リクちゃん」
やっぱり、リーマスさんでした。私はリーマスさんをぎゅうと抱きしめたまま、にっこりと笑いました。
「あの小部屋にいなかったから、今日は来てくださらないのかと……」
「実はもう少し前には着いていたんだけど…、ごめんね」
リーマスさんもぎゅうと抱きしめ返してくれたあと、困ったような表情でフードを引いて顔を隠しました。
気が付いた私が、表情を歪めてリーマスさんの頬に触れます。
「今日の朝刊、読まれましたか?」
「――うん。ここに来る途中でね。リクちゃんは大丈夫?」
「もちろんです。ハリーもロンもハーマイオニーもいますから」
リーマスさんは狼人間です。
今日はディゴリー先輩の両親や、他にもダームストラング校や、ボーバトン校の生徒もいます。
リーマスさんが、狼人間だと知られる訳にはいかないのです。
ホグワーツの生徒には既にリーマスさんが狼人間と知られてしまっているのですけど。
第3の課題まで時間はあります。
それまで私達は自由に校内を散歩出来るみたいです。
私はフェインを肩に乗せ、さらにリーマスさんと手を繋ぎながら大広間から出ました。
「図書館にでも行きます? 今は授業中なので、あそこなら人も来ませんし」
「それもいいけれど、お茶出来る所にしようか」
「グリフィンドール寮? それとも必要の部屋?」
リーマスさんはにっこりと微笑みました。
「きっとリクちゃんも楽しい所」
†††
「わぁ、ハニーデュークスのお菓子! しかも新作じゃないですか!」
「よかった。喜んで貰えて」
「リーマスさん、大好きです」
「私もリクちゃんが好きだよ」
リーマスさんのお膝に座りながら、甘いお菓子を頬張り、私は殺気に気が付かないふりを繰り返しました。
「……グリフィンドール、20点減て」
「待ってよ、セブルス。久しぶりに親子が再会したんだから」
「他の場所でやりたまえ」
ここは普段生徒が近寄り難い、地下牢教室。の少し奥の部屋。
私もあまり入らないお部屋のソファに私とリーマスさん、そしてスネイプ先生が座っていました。
終わったらしき試験の片付けやレポートをまとめているスネイプ先生の前で、私とリーマスさんは呑気にお茶会を楽しんでいます。
もちろんスネイプ先生の殺気は半端ありません。
それをもろともしないリーマスさんも素敵ですが、私はビクビクとリーマスさんのカーディガンを引っ張りました。
「……リーマスさん、やっぱり他の場所の方が」
「ほら、リクちゃん、綿飴羽ペンは食べる?」
「わぁ、美味しそうです!」
「………」
スネイプ先生が苛々としています。それは、それはわかっているんですけどね!
でもリーマスさんといるとなんていうか…不可抗力です。
リーマスさんの膝の上に座った私はあぁ、もう、幸せ。甘いお菓子に手を伸ばしながら、美味しい紅茶を飲んで。
これから試合じゃなければ最高なんですが。
「………これから試合…なんですよね…」
優勝杯を目指して。ハリー達と争わなくてはいけません。
リーマスさんが私の表情を伺いました。
「緊張してる?」
「それはもう。でもリーマスさんに会えたので少し安心もしています。
フェインもいますしね」
お菓子に隠れているフェインに微笑み、リーマスさんにも満面の笑みを送ると、リーマスさんは楽しそうに笑い返してくれました。
「それはよかった」
ふわふわと髪を撫でてくれるリーマスさんに頬を緩ませながら、だんだんと瞼が重くなって来てしまいました。
私のその様子に気が付いたリーマスさんは、私を抱きかかえるように膝の上に乗せなおし、再び優しく頭を撫でてくれます。
「起こしてあげるから、休むといいよ」
「……甘い…もの食べてすぐ…寝ると…太っちゃいます……」
「大丈夫、大丈夫」
リーマスさんの胸元に私の耳が当たります。トクントクンと規則的な鼓動が聞こえてきます。
それに、私を安心させてくれるいつものチョコレートの甘い香り。
温かい体温に包まれ、うとうとしてしまう私は小さく呟きました。
「おやすみなさい。リクちゃん」
リーマスさんのあたたかいこえがきこえてきました。