「そして、ハリー・ポッターが俺様の蘇りのパーティにわざわざご参加くださった」
ヴォルデモートさんの視線が、死喰い人の視線がハリーに集まりました。
墓石に縛られているハリーにヴォルデモートさんの杖先が向けます。
私はその杖を遮るようにハリーとヴォルデモートさんの間に立ちました。
死喰い人の視線がまた驚きに満ちていきます。
ヴォルデモートさんは面倒臭そうに杖を私の前で揺らしました。
「どけ、リク。ハリー・ポッターはもうお前を信用しない」
「わかっています。ですが、信用されないとしてもハリーは私の友人ですから」
ヴォルデモートさんは再び面倒臭そうに私を見ました。
そして次にピーター・ペティグリューへと視線を移しました。
「縄目を解け、ワームテール。そしてこやつの杖を返してやれ。
リクに感謝をしろ。俺様はこやつにチャンスをやろう。戦うことを許そう」
ピーター・ペティグリューよりも先に私がハリーに駆け寄りました。
鞄から出したナイフでハリーを縛る縄目を解きます。ハリーの困惑したような疑惑の瞳が私に注がれていました。
「リク…なんで…」
「ハリー、優勝杯があります、隙を見て彼らから逃げます」
ヴォルデモートさんに隙なんてあるのでしょうか。
そうぼんやりと思いながらも、私はハリーにだけ聞こえるように囁き、ハリーの縄目を解きました。
解いた瞬間に浮遊感。
短い悲鳴を上げながら振り返ると、ヴォルデモートさんが浮遊呪文を使い、私を少し離れた場所へと下ろしました。
「そこにいろ」
「ヴォルデモートさん、驚いたじゃないですか!」
「文句を言うな。俺様とハリー・ポッターの決闘を邪魔されても厄介だ。
ナギニ、リクを見ていろ」
私の足元にまたナギニが這いました。
ナギニを撫でながら、ヴォルデモートさんに声をかけます。
「……ディゴリー先輩の側でもいいですか?」
私達の後ろではディゴリー先輩が横たわったままでした。
ハリーから視線を外さずに頷いたヴォルデモートさんを見てから、私はディゴリー先輩に走り寄りました。
血を流すことなく、彼は倒れています。
私はじっと彼を見つめ、ディゴリー先輩の服の裾を強く掴みました。
今は泣いている場合では、ありません。
私のすぐ後ろには転がった優勝杯を視界の端に捉えて、私は渦巻くナギニをもう1度撫でました。
「ハリー・ポッター、決闘のやり方は学んでいるな?」
フラフラと立ち上がったハリーをヴォルデモートさんや死喰い人達が見ていました。
「互いにお辞儀をするのだ。さぁ、儀式の詳細には従わなければならない…。
死にお辞儀をするのだ、ハリー」
ヴォルデモートさんが軽く腰を折ります。ヴォルデモートさんを睨み続けていたハリーに、ヴォルデモートさんが杖を上げました。
すると、ハリーがなにか巨大な手に押されたかのように、強制的にお辞儀をさせられていました。
死喰い人達が一斉に大笑いする声が耳に触ります。
ムッと表情を歪めて、杖を持ち上げますが、私を止めるかのようにナギニが強く絡まりました。
ゆっくりと杖を下ろすと、ナギニの身体も緩まります。
私はハリーとヴォルデモートさんの姿をじっと見つめました。
再び、ヴォルデモートさんが杖をあげた時、既にハリーも反撃の準備が出来ていました。
「アバタ ケダブラ!」
「エクスペリアームス(武器よ去れ)!」
2人の声が墓場に響きます。
ハリーの杖から赤い閃光が、ヴォルデモートさんの杖から緑の閃光がきらめき、2つの閃光が空中でぶつかりました。
そして突然、2人の杖が振動し始め、赤い閃光と緑の閃光が1つに繋がったのです。
繋がった先行は金色の帯となり、ハリーとヴォルデモートさんの間で揺らめいていました。
私は緊張に息を殺しつつ、その様子を見つめます。
もう少し、もう少しです。ハリーと、ディゴリー先輩とこの場から離れるタイミングはもう少しなのです。
死喰い人達がオロオロと2人を取り囲む中、ハリーの杖先から何か白いものが飛び出しました。
それはやがて人型となり、人型はディゴリー先輩となりました。
他にも年配の男の人や、女の人、そして、ハリーとそっくりな瞳をした女の人、ハリーとそっくりな男の人の姿も…。
白いゴーストのようなその人達はハリーの周りを囲み、何かを囁いているようでした。
「行くぞ!!」
ハリーが突然叫びました。
それと同時に杖を振り上げ、金色の糸が断ち切れました。
私はナギニを振りほどき、立ち上がります。
「ナギニ、ごめんなさい」
私はナギニに向かって杖を振りました。すると彼女に絡むように縄が現れます。
ナギニが怪我をしていないことを一瞬だけ確認してから、こちらに向かってくるハリーを狙う死喰い人に向かって杖を構えます。
「プロテゴ(護れ)! スコージファイ(清めよ)! スコージファイ!!
ハリー!! ディゴリー先輩の側に!」
真っ直ぐ立った私の横を赤い閃光が掠めます。恐怖が私を包みます。
ハリーが駆け込み、ディゴリー先輩の手首を掴んだ瞬間、私は優勝杯に向かって杖を振り下ろしました。
「アクシオ(来い)!」
優勝杯が私の手に触れました。
ヴォルデモートさんの怒りの声が聞こえたと同時に、移動キーが作動するのを身体中で感じました。
移動している間、私はディゴリー先輩の腕を掴んでいました。
冷たくなってしまったディゴリー先輩を。
「変えられなかった………」
呟く声は風にかき消され、私達は再び地面に強く叩きつけられるのを感じました。
ホグワーツへと帰って来たのです。