ダンブルドア校長先生はちらりとスネイプ先生と大人しくしていた黒い大きな犬を見ました。
「さて、そこでじゃ。お互いに真の姿で認め合う時が来た。……シリウス、普通の姿に戻ってくれぬか」
黒い大きな犬は一瞬で男の姿へと戻りました。
「シリウス・ブラック!!」
モリーさんの叫び声。それに、スネイプ先生が嫌悪の声を上げる音が重なりました。
「やつがなんでここにいるんだ」
「わしが招待したのじゃ。
わしは2人とも信頼しておる。そろそろ2人とも昔のいざこざは水に流し、お互いに信頼しあうべきじゃ」
シリウスとスネイプ先生は睨み合ったまま動こうとはしませんでした。
リーマスさんは私を抱きしめたまま、2人の同期を見つめていました。
「妥協するしよう」
ダンブルドア校長先生の声は少し苛々としていました。
「あからさまな敵意を暫く棚上げするということでも良い。握手するのじゃ」
2人はまだ動こうとはしませんでしたが、ゆっくりと歩み寄って睨み合いながら握手をしてあっというまに手を離しました。
「当座はそれで十分じゃ。
それぞれに、そしてリーマスにもやってもらいたいことがある。
シリウスとリーマスは昔の仲間に警戒態勢を取るように伝えてくれ。シリウスは暫くリーマスのところに潜伏しているのじゃ」
「ですが」
ハリーとリーマスさんの声が重なりました。
ハリーはシリウスに側にいて欲しかったのです。
リーマスさんも私のことを心配してくれていました。
私はリーマスさんの頬に触れました。
「私は大丈夫です、リーマスさん。お仕事、気をつけてください」
「………何かあればすぐに言うんだよ。絶対に、絶対にもう夢を使っちゃ駄目だよ」
「…えぇ。わかりました……」
「ちゃんと薬も飲むんだよ。2種類、きちんと」
「飲んでいなかったのか」
スネイプ先生の言葉が聞こえました。
顔をしかめるスネイプ先生に私は困惑顔をします。心配そうに私を見たリーマスさん。
「リーマスさん、そのお話もあとで詳しくしますね」
不安げなリーマスさんは私をぎゅうと抱きしめると、犬の姿となったシリウスのと一緒に医務室を出ていきました。
次にダンブルドア校長先生はスネイプ先生を見ました。スネイプ先生はいつもよりも青い表情をしているようでした。
「君に何を頼まねばならぬが、もうわかっておろう」
スネイプ先生は軽く頷きました。リーマスさんと同じく扉を出て行く先生。
はっと思い出した私は立ち上がって出て行ったスネイプ先生を追いかけました。
「君はまだ寝ていなくては」
「すぐ戻りますから!」
私は医務室を飛び出します。途中で私のローブを肩にかけて走りましす。
「先生、先生待ってください」
階段を急ぐスネイプ先生の背中を追い掛け、声に振り返ったスネイプ先生の隣に寄りました。
「これから闇の陣営の元に行くんですよね?」
「………」
無言で私を見下ろす先生。私は鞄から手紙を取り出しました。
「ヴォルデモートさんにこれを渡してくれますか?」
「……闇の帝王に?」
「はい。ハリーを連れて逃げてきて何もお話が出来なかったので。
昨日のうちに書いてあったものです」
この手紙にはハリーを連れて逃げたことへの謝罪と、これからもハリーの友人は止める気はないことと。
ヴォルデモートさんが復活したことにささやかなお祝いの言葉とが書いてあります。
今度いつ会うかなんてわかりません。もう夢で会う訳にもいけませんしね。
スネイプ先生は封筒に入れられたその手紙を受け取ろうとはしません。
私はじっと先生を見上げ、先生は手紙を見つめ続けていました。
「闇の帝王との交流を続ける気か」
「友人との交流を続けてはいけませんか?」
「友人は選びたまえ。ルーピンに言われなかったのか?」
「ヴォルデモートさんは私には優しいですから」
そう言い切るとスネイプ先生の手に手紙を押し付けるように渡しました。
ぎゅうとスネイプ先生の手を両手で握ってそれを祈るように額に合わせました。
「……気をつけて下さい」
数瞬。スネイプ先生は私を見つめたあと、振りほどくように手を離してまた再び歩き出しました。
先生の背中を見送って。私は医務室に戻るため踵を返します。
医務室に戻るとハリーはすでに薬で眠らされていました。
こちらを見るハーマイオニーとロンから、私は視線をそらしました。
ハーマイオニーが口を開いた瞬間、フェインが短く鳴いて彼女を遮りました。
ぺこりと頭を軽く下げてから、私は自分が寝ていたベッドに近付き、カーテンを締め切りました。
腕に絡み付くフェインを強く抱きしめて、私はベッドに倒れ込みました。
変わらず冴え渡る意識。その日、私が眠ることはありませんでした。