誰もいない地下牢教室の、スネイプ先生の席。今、私はフェインと2人きりでした。
ハリー達とは、行動を別にするようになったのです。
ハリーは私を信用してはくれませんでしたし(当然なんでしょうね)、ロンとハーマイオニーはハリーの話を聞いて私との距離を掴みそこねていました。
「……フェイン…」
フェインは私の側にいてくれます。指に絡まるフェインに微笑みを向けて、スネイプ先生の机に伏せました。
「………なんで私なんでしょうね」
呟くのはそんな愚痴。
私以外にも、もっともっと上手く行動出来る人は沢山いたのに、どうして私だけがこの世界へとやってきたのでしょうか。
そしたら、ディゴリー先輩も、救えたのでしょうか。
「シュー…」
心配そうなフェインの声。頬を擦り寄せるフェインを撫でてから、私はガバッと立ち上がりました。
驚いたフェインが威嚇の声を上げながら転がりますが、私は謝罪の言葉を零して先生の机の上を整理しはじめました。
何かを、今は何かをしておかないと。
余計なことばかりが頭を掠めます。
「とにかく、今は夏休みになるまで待たなくてはいけません。
リーマスさんとシリウスに会って『不死鳥の騎士団』に繋げなくてはいけません」
やるべきことを復唱しながら、まとまったレポートを手にとります。
「ヴォルデモートさんはまだ動きません。
死喰い人の方々がちらほら動きだします。
ですが、新聞にのるようなことはなかった筈です。
大きな事件は暫く起こりません。
そのうちにダンブルドア校長先生達が力をつけないと。昔の力を取り戻していただかないと」
何故か机の上に出たままの薬草を薬草棚に戻します。
再び机に戻って私は十八番の「スコージファイ(清めよ)」を唱えました。
机の上が綺麗になります。
最初から殆ど整頓されていたのもあり、すぐに綺麗になりました。
フェインに手を伸ばし肩に乗せます。じぃとフェインを見つめてから呟きます。
「……ヘビの牙の砕いたものストックありましたっけ」
「キシャー!!」
「フェインの牙を砕いたりはしませんよ!
確かに、フェインを見て思い出しましたけど」
「シャアシャアッ」
薬草棚に戻って背伸びをします。私の髪を引っ張るフェインに苦笑を零しつつ、瓶に手を伸ばしました。
「んー、まだ大丈夫ですね。他の薬のストックは…」
スネイプ先生から教えてもらった手伝いを反復していきます。
その途中で私の頬を緩ませました。
「……やっぱり、私、将来魔法薬学の先生になりたいです。
フェインはどう思います?」
フェインはゆっくりと頭を上下に降りました。頷いてくれたのです。
温かくなるものを感じながら、私はフェインを撫でます。
ですが、次に私の表情が少し変わりました。
「…私に将来なんて…あるのかわかりませんけれど」
ハリーがどうなるのか、ヴォルデモートさんがどうなるのかはわかりませんが『最終巻』が終わってしまったあと、私がどうなるのかわかりません。
この世界にいられるのでしょうか。それとも…?
「これから起きること、フェインには全てお話しますね。
ハリーやヴォルデモートさんに言っちゃ駄目ですよ?」
フェインは再び頷きました。本当に賢くてお利口さんのフェインです。
「フェインはフェインのしたいように動いてください。
私も、私のしたいように動きます」
ディゴリー先輩のことを忘れたりなんかしません。
ヴォルデモートさんが復活したことによって死んでしまった人の責任は、私にもあります。
これから、死んでしまうかも知れない人は、私が何としてでも助けます。
私は最初はこの世界にはいなかったのですから、例え途中で私が――。
「守ります。全部、全部」
フェインに聞かせるように、私は思い出せる全ての記憶を語り出しました。
彼と秘密の共有をするように。私は胸のつかえが少し取れた気がしました。
†††
「今年も、終わりがやってきた」
ダンブルドア校長先生の静かな声。
賑やかな筈の夏休み前、最後の夕食は、黒い垂れ幕で、セドリック・ディゴリーの喪に服していました。
私の両隣は空席です。私を守護するみたいにフェインが堂々とテーブルの上に乗っていました。
視線を動かすと悲しみに沈むハッフルパフ寮。
本物のムーディ先生が教職員テーブルにいましたが、彼の警戒心は私の場所からでも十分にわかりました。
カルカロフ校長先生の姿はありません。
どうなったのかも、わかりません。
スネイプ先生は帰ってきていました。
いつもの不機嫌そうな表情です。
私の視線がハリーで止まりました。
ハリーは真っ直ぐに、ダンブルドア校長先生を見つめていました。
真っ直ぐに、力強く。
私も倣ってダンブルドア校長先生を見つめます。
「今夜は皆にいろいろと話したいことがある。
しかし、まずはじめに、1人の立派な生徒を失ったことを悼もう。
本来ならここに座って皆と一緒にこの宴を楽しんでいる筈じゃった」
ですが私達はディゴリー先輩を、失ってしまった。
「さぁ、みんな起立して、杯を上げよう。セドリック・ディゴリーのために」
全員がその言葉に従いました。
私もゴブレットを持ち上げ、静かに名前を呟きました。
決して忘れてはならない名前を。
「セドリック・ディゴリー」
声は1つの大きな低い響きとなりました。