暫く時間も立ち、みんながゆったりとしてきたあたり、私がリーマスさんにワインをついでいる最中。

「ハリー、君には驚いたよ。ここに着いた時、君は真っ先にヴォルデモートのことを聞くかと思っていた」

シリウスが突然そう言いました。

部屋に吸魂鬼が現れたと勘違いする勢いで、空気が凍りつきました。
ワインがつがれたゴブレットをゆっくりと置くリーマスさん。私はシリウスの表情をじっと見つめていました。

「聞いたよ!」

ハリーは憤慨していました。

「ロンとハーマイオニーに聞いた。でも、2人は騎士団に入れてもらないから、だから――」
「2人の言うとおりよ。貴方達はまだ若すぎるもの」
「でもリクは騎士団員なんでしょ?」

モリーさんの言葉に反論するハリー。誰か彼かの視線が一瞬私に向けられて、無言に変わっていきました。
私がシリウスから視線を外し、今度はハリーを見ます。久しぶりにハリーを真正面から見たような気がしました。

ですが、私が何かを言う前に、シリウスが私達の間を遮るように言葉を発しました。

「騎士団に入っていなければ質問してはいけないといつから決まったんだ? ハリーも知る権利がある」
「ちょっと待った!」

ジョージ先輩が大声を上げて、さらにシリウスを遮りました。私の膝に乗るフェインが気だるそうに周囲を見回していました。

「なんでハリーだけが質問に答えて貰えるんだ!? 僕たちだってみんなから聞き出そうとしたのに誰も何一つ教えてくれなかったじゃないか!」
「『貴方はまだ若すぎます。貴方は騎士団に入っていません』 ハリーはまだ成人もしていないんだぜ?」

フレッド先輩もモリーさんの声真似をしつつ、反論しました。シリウスが静かに答えます。

「それは君達のご両親が決めたことだ。ハリーは」
「ハリーにとって何がいいのかを決めるのは貴方ではないわ!
 ダンブルドアがおっしゃったことをお忘れじゃないでしょうね?」
「どのお言葉でしょうね?」
「ハリーが知る必要があること以外は話していけない、とおっしゃった言葉です」

シリウスもモリーさんもじっと見つめたまま、お互いに牽制し合っているようでした。
リーマスさんはシリウスを見たまま、私はハリーを見たままでした。

「俺はハリーが知る必要があること以外に、この子に話すつもりはないよ。
 しかしハリーがヴォルデモートの復活を目撃したものである以上、話してやらなければならないこともある」
「この子は不死鳥の騎士団のメンバーではありません! この子はまだ15歳です! それに――」
「リクだって15歳だ。
 それにハリーは騎士団の大多数のメンバーに匹敵するほどのことをやり遂げてきた」
「誰もこの子がやったことを否定しやしません! でもこの子はまだ」
「ハリーは子供じゃない!」
「大人でもありませんわ! シリウス、この子はジェームズじゃないのよ!」

2人の言い合いはいつの間にか白熱していました。

「お言葉だがモリー、俺はこの子が誰なのかはっきりわかっているつもりだ」
「私にはそう思えないわ。時々、貴方がハリーのことを話すとき、まるで親友が戻ってきたような口ぶりだわ」
「そのどこが悪いの?」

ハリーがそう言いました。モリーさんがハリーをバッと勢いよく見ました。

「ハリー、貴方はお父さんと違うからですよ。どんなにお父さんにそっくりでも!
 貴方はまだ学生です。貴方に責任を持つ大人がそれを忘れてはいけないわ」
「俺が無責任な名付け親だという意味ですかね?」
「貴方は向こう見ずな行動をとることもあるという意味ですよ。
 だからこそダンブルドアは貴方に家の中にいるように何度もおっしゃるのです!」
「ダンブルドアが私に指図することは、この際別にしておいてもらおうか!」

大声を出すシリウスに私は思わず駆け寄りました。私は苛々とモリーさんを見つめているシリウスの肩に触れていました。
モリーさんは歯がゆそうにアーサーさんに振り返りました。

「アーサー! なにか言ってくださいな!」

呼ばれたアーサーさんはすぐには答えませんでした。メガネを外してローブでふき、メガネを戻してからゆっくりと話しだしました。

「モリー、ダンブルドアは立場が変化したことをご存知だ。今ハリーは本部にいるわけだし、ある程度は情報を与えるべきだと認めていらっしゃる」
「でも、それとハリーが何でも好きなように質問をするように促すのは別ですわ」


prev  next

- 132 / 281 -
back