「私個人としては」

リーマスさんがアーサーさんと同じくゆっくりと話しだしました。

「ハリーは事実を知っていたほうが良いと思うね。何もかもというわけじゃないけど、私達から全体的な状況は話したほうがいいと思う」

大きく深く息を吸ったモリーさんはテーブルを見回しましたが、何かが変わることはありませんでした。

「そう……そう、どうやら私は却下されるようね。
 だけどこれだけは言わせていただくわ。
 ダンブルドアがハリーに多くを知って欲しくないとおっしゃるのはダンブルドアなりの理由があるはず。
 ハリーにとって何が1番いいかを考えているものとして――」
「ハリーは貴女の息子じゃない」
「息子も同然です! ほかに誰がいるって言うの?」
「俺だっている!」

モリーさんは厳しい口調でシリウスにそう言いました。私はシリウスの表情に怒気が混ざるのを感じていました。
ですが、モリーさんはそのまま言葉を続けてしましました。

「そうね、ただし、貴方がアズカバンに閉じ込められていた間はこの子の面倒を見るのが少し難しかったんじゃありません?」

シリウスがさっと立ち上がりました。

触れていたシリウスの肩から手が離れ、今度は腕を引くように掴みました。
リーマスさんはシリウスをちらと見たあと、モリーさんに厳しい口調で言いました。

「モリー、このテーブルについているものでハリーのことを気遣っているのは君だけじゃない」
「シリウス。座ってください。それと、モリーさんも引いてください。
 …………ハリーはどうしたいですか?」

私の視線はハリーに向いていました。ハリーは私に困惑顔を向けますが、真っ直ぐに私を見ていました。

「僕、知りたい。何が起こっているのか、知りたいんだ」

私はにっこりとハリーに笑いかけました。モリーさんの声はかすれていました。

「わかったわ…。ジニー、ロン、ハーマイオニー。フレッド、ジョージ。みんな厨房から出なさい。すぐに!」

再びどよめきが上がりました。

「僕達、成人だ!」
「ハリーがよくてどうして僕はダメなんだ? それにリクもいるんだ!」
「ママ、あたしも聞きたい!」
「駄目!! 絶対に許しません――」
「モリー、フレッドとジョージを止めることはできないよ。それにロンとハーマイオニーはハリーから話を聞いてしまうだろう」

それから。ジニーちゃんは大人しく引かれてはいきませんでした。モリーさんに引かれていく中、ずっと声を上げていました。
そして再びシリウスのお母さんを起こしてしまい、リーマスさんが肖像画に向かって走っていきました。

「シリウス、大丈夫ですよ」

モリーさんもリーマスさんもいないその数分、私はシリウスの手に触れていました。

「シリウスは今でも十分に力になってますからね」
「………リクにそう言われている時点でやっぱり情けないけどな」

少しだけ苦笑を零したシリウスが私の頭をがしがしと撫でてくれました。
そしてリーマスさんが戻ってきたとき、話は始まりました。

「ヴォルデモートはどこにいるの? あいつは何をしているの?」

ハリーは真っ先にそれを聞きました。

ヴォルデモートさんの名前が出たあたりでみんながぎくりと身震いをしていました。
マグルさんの家にいる間、ハリーはずっとニュースを見ていたのですが、それらしいニュースがなかったといいます。

今はまだ、不審な事故がないからです。
ヴォルデモートさんはまだ、自分に注意を向けることをよしとしていないのです。

仲間を、死喰い人達を集めるまではまだ。

ですが、ヴォルデモートさんのその計画をハリーは生きて戻ってくるということでしくじらせたのです。
ヴォルデモートさんが1番苦手とするダンブルドア校長先生に情報が真っ先に伝わったのですから。

そしてダンブルドア校長先生は1週間ほどで当時の不死鳥の騎士団員を集めることができたのです。

「それで騎士団は何をしているの?」
「ヴォルデモートが計画を実行できないように、出来る限りのことをしている」
「あいつの計画がどうしてわかるの?」
「ダンブルドアは観察力が鋭い。しかもそれは結果的に正しいことが多い。それに」

話していたシリウスの視線が私に移りました。言葉を繋ぐように私が答えます。

「そのことには私も協力しています」
「……リクはまだヴォルデモートに夢の中で会っているの?」
「…いいえ。あれは私の身の危険が多いので本当は使ってはいけない力だったんです」

目を少し伏せながらリーマスさんを見ます。私をいっぱい心配してくれているリーマスさんをこれ以上困らせるわけにもいきませんからね。

「ヴォルデモートさんの考えが全てわかる。とまでは言いません。ですが、少しだけわかるんです」

今、ヴォルデモートさんがどうしようと考えているのか。彼だったらどうするのか。
未来を知っている私はそれを使いながら、ヴォルデモートさんの行動を予想していたのです。

「ヴォルデモートさんは昔の仲間や闇の生き物達を集めようとしているはずです。今、私達はそれを阻止しようとしています」
「どうやって?」
「なるべく多くの魔法使いや魔女に『例のあの人』が戻ってきたと信じさせ、警戒させることだ。
 でも魔法省の態度のせいで、なかなか厄介なことになっている」

ビルさんがそう言いました。

魔法大臣のファッジさんはヴォルデモートさんが復活したということを信じきれないのです。
頭から否定し、そんなことを言うダンブルドアが、魔法大臣の座を狙っていると信じ込もうとしていたのです。

「でもみんなが知らせているのでしょう?」

ハリーが目の前にいるメンバーを見回しました。シリウスにリーマスさん、トンクスさんにマンダンガスさん、アーサーさんにビルさん。そして私を。
そして全員がにっこりと微笑みます。困惑顔を浮かべるハリーに私が話しだしました。

「私はただの学生ですし、シリウスは未だ、世間から見てアズカバンを脱獄した犯罪者。
 リーマスさんが狼人間であることは、私は不満なんですけど…障害がありまして。
 それに、トンクスさんもアーサーさんも魔法省にいる以上、そんなお話は出来ません。
 今は魔法省内にどなたかいることが、とっても大事ですから」
「それでもなんとか何人かを説得できた。闇払いであるトンクスもその1人だ」

リーマスさんが私の言葉を繋ぎました。

そんな中でもダンブルドア校長先生はヴォルデモートさんが復活したという演説をし、魔法使いの最高裁の主席からも下ろされてしまいました。
魔法省はダンブルドア校長先生の信用をなくそうとしているのです。

もしこのままダンブルドア校長先生が魔法省に楯突き続けていたら、もしかしたらアズカバンに幽閉されてしまうかもしれません。
そうなってしまえばヴォルデモートさんが1番に恐る人がいなくなってしまうのです。

ヴォルデモートさんは魔法使いを騙し、呪いをかけ、恐喝して従わせます。隠密工作は慣れたもの、らしいです。
魔法省が信用してくれない限り、ヴォルデモートさんが復活したということは誰にも、わからないのです。

「やつの関心は配下を集めることだけじゃない。他にも求めているものがある」
「何を?」
「武器のようなものというか。前回の時には持っていなかったものだ」
「それ、どんな種類の武器なの? 『アバタ ケダブラ』の呪文よりも悪いの――?」
「もうたくさん!」

いつの間にかモリーさんが戻ってきていました。


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