会議中、厨房でスネイプ先生の報告を聞いていると、フェインが私の肩を滑り降りていきました。

首を傾げていると、フェインは扉の隙間を抜けていきました。追いかけようとしましたが、この会議を聞かないわけにもいきません。

私は苦笑を零したあと、またスネイプ先生へと視線を向けました。
あとでフェインにどうかしたのか聞かないといけませんね。

会議が終わり、私はスネイプ先生に駆け寄りました。
これから先生はまたヴォルデモートさんのところに戻らなくてはいけないのです。

玄関に向かうスネイプ先生のあとを軽く走って追いかけました。黒い背中に声をかけます。

「先生、夕食を食べていきませんか? 美味しいですよ」
「すぐに出る」

先生は毎回そう言います。忙しいのはわかりますが、ゆっくりしていってもいいとは思うんですけど…。
スネイプ先生とシリウスが同じテーブルにいるのは想像できないですけれど。

少しだけ肩を落としてから、私はスネイプ先生を見送りました。

騎士団のメンバーが玄関を出て行ったあと、トンクスさんとリーマスさん、モリーさんが扉に魔法の閂をかけました。
リーマスさんの手をとって握りながら、私はトンクスさんをちらりと見ます。

将来、リーマスさんとトンクスさんは……。

やっぱり嫉妬にも似た感情を抱いてしまいます。

ほら、リーマスさんは今、私のお父さんですし。トンクスさんは私の将来の…お母さん? 複雑です。
じーっとトンクスさんを見ると、気がついたトンクスさんが私に困ったような苦笑を零しました。

私の視界がリーマスさんの手で遮られました。見上げると、微笑むリーマスさんと視線が合います。

「睨まないの」
「睨んでないですよー」
「ごめんね、トンクス。人見知りする子じゃないんだけど」
「人見知りでもないですよーっ」
「本当、仲いいわよね、あなた達」

私とリーマスさんのやりとりにトンクスさんが小さく笑います。

その時、私達が振り返ると、階段下に、フェインを肩に乗せたハリーの姿が見えました。そうです。もう屋敷にハリーは着いていたのです。

はっと口を開いたハリー。彼が私に何か言おうとした瞬間に、後ろでトンクスさんが傘立てにつまずき、転んでしまいました。モリーさんが呆れたように声を上げます。

「トンクス!」
「ごめん! この傘立てのせいよ。つまずいたのはこれで2回目――」

耳をつんざく恐ろしい叫び声がホールに響き渡りました。

ホールの正面にあるビロードのカーテンが左右に開いていました。
そこには黒い帽子を被った、シリウスのお母様の肖像画がありました。

拷問を受けているかのような絶叫に耳を塞ぎます。
リーマスさんとモリーさんが飛び出し、カーテンを閉めようとしますが、カーテンは中々閉まりません。

「穢らわしい! クズども!! 塵芥の輩! ここから立ち去れ!! わが祖先の館をよくも汚してくれたな――」
「黙れ、この鬼婆、黙るんだ!」

突然、シリウスが飛び出してきました。
カーテンを強く掴み、再びリーマスさんと一緒にカーテンを閉めました。

叫び声が消え、ホールに再び沈黙が戻ります。唖然とするハリーにシリウスが微笑みかけていました。

「やあ、ハリー。わが親愛なる母上にあったようだね」

ハリーと話すシリウスを見て、私はハリーとは視線を合わせぬまま厨房に入っていきます。
シリウスはハリーにこの屋敷の軽い説明をしているようでした。

私は隣に並んだリーマスさんを見上げて、会議中ではお話できなかったのでニッコリと微笑みます。

「そういえば、予定よりお帰りが早かったですね」
「うん。予定だったグリーンランド上空は経由してこなかったんだ」
「本当はそうする気だったのよ。凍え死んじゃうかと思ったわ」

そこで頬を膨らましたトンクスさんがテーブルの上の蝋燭を倒してしまいました。テーブルの上の羊皮紙が燃え上がっていきます。

「あ、しまった――ごめん」
「任せて」

モリーさんが呆れ顔で言いつつ、杖を振るって羊皮紙を元に戻しました。
その羊皮紙には死喰い人が隠れているとされている建物の見取り図が書かれていました。

モリーさんはハリーの視線に気づき、片付けていたビルさんの、既にいっぱいの腕に押し込みました。

「こういうものは会議が終わったらすぐに片付けなければいけません」

ビルさんは苦笑をこぼしつつ、魔法で羊皮紙を消します。
モリーさんが料理の支度を始め、私達がそれを手伝う中、シリウスがテーブルに伏せていたマンダンガスさんを紹介していました。

マンダンガスさんは以前、ハリーの護衛任務をすっぽかしていたことを謝っていました。
その時運悪くハリーの前に吸魂鬼が現れたので、騎士団員は大変パニックになったのでしたけど。

「さぁ、食べましょう」

やがて料理の準備が出来てみんなで料理を食べ始めました。
フェインがテーブルの上で蜷局を巻いて美味しそうな料理の匂いにゆらゆらと身体を揺らしていました。

「そういえばビルさん。小鬼の話はどうなりました?」

シチューに手を伸ばしながら私はビルさんを見ました。リーマスさんも私の隣で軽く頷きました。
ビルさんは表情を険しくしつつ、パンをちぎっていました。

「連中はまだ何にも漏らしていないよ。
 『例のあの人』が戻ってきたことを連中が信じているのかすら、僕には判断ができないんだ」
「まぁ…小鬼さんからしたら、どちらにもつかずに終わりたいのでしょうが」
「連中が『例のあの人』の側につくことはないと思うね」

アーサーさんが頭を振りながらそう言いました。

「前回は小鬼達も被害を被ったんだ。ノッティンカムの近くで『あの人』に殺された小鬼の話をしていなかったね」
「被害があったということだけでいいよ、アーサー。リクちゃんは怖がりだから」

前回の戦争の話は何も知らない私。情報の少なすぎる私でしたが、リーマスさんは悲惨な過去をあまり語りたがりませんでした。私を守ってくれているのはわかるんですけどね。
むぅと表情を変えていると、リーマスさんがにっこりと笑いながら、慰めるように私の頭を撫でてくれました。

「見返りが何かによってでしょう。
 金じゃなくて、我々魔法使いが何世紀も拒んできた自由を彼らに提供すれば、彼らも気が動くでしょう」
「……んと、ラグノックさんのことは?」
「まだ魔法使いへの反感が相当酷いみたいだ。この前のバグマンの件もある。それに――」

私達が小鬼の話を続けていると、フレッド先輩、ジョージ先輩、ロン、そしてマンダンガスさんが椅子の上で大爆笑が私達を遮りました。

どうやら盗品のヒキガエルの話をしていたようでした。
大笑いしているマンダンガスさん達に苦笑を向けます。リーマスさんを見ると、リーマスさんも同じく苦笑を零していました。

モリーさんがしびれを切らしたようでさっと立ち上がりました。

「マンダンガス、貴方の商売の話はもうこれ以上は聞きたくありません。結構!」
「ごめんよぉ、モリー」

笑ってこぼれそうになっている涙を拭きながら、マンダンガスさんがそう言います。
一旦立ち去ったモリーさんがデザートに大きなルバーブ・クランブルを持ってきてくださりました。甘いものが大好きな私の表情が輝きます。

「モリーさん! 私、ヨーグルト持ってきますね! あぁ、でもカスタードクリームもありましたよね。どっちで食べましょー」
「甘いものが出てくると、リーマスの娘だなぁと思うのだが」
「シリウスにはあげないよ」
「わぁかってるって」

振り返るとリーマスさんの表情は真剣だったので、私とシリウスは顔を見合わせてくすくすと笑っていました。


prev  next

- 131 / 281 -
back