その日、全てが終わり、ふと日記を開くと、すぐに文字が返ってきて、私の気が少し落ち着きました。

〈お疲れ様〉
〈リドルくんから労いの言葉を頂けるとは思いませんでした〉
〈僕だって、心配したりはするさ。きっと、たぶんね。
 で、いろいろ大丈夫だったの?〉

う。なんでしょう。意外と優しいリドルくんの言葉に何だか泣きそうです。
ジニーちゃんが騙されてしまった気も良くわかります。

〈君、実はすっごい失礼な事考えているだろ〉
〈なんでわかったんですか〉
〈そこは否定するところだろう。何だか、僕への扱い方が酷くないか?〉

そうでしょうか。
強いて言うならロープでぐるぐる巻きにされたことは少し根に持っていますが。

そうは思いながらも、ドラコくんと喧嘩をしてしまった事を書きました。

すると、意外も意外に、リドルくんは私を庇うような台詞を言って(書いて?)くれました。

〈純血かどうかなんて、どうでもいいだろう〉
〈リドルくんがそう言ってくれるなんて意外です〉
〈だって、僕が将来、純血のみの世界にするからな〉
〈リドルくん最低です〉

やっぱりそうですか! 根からの闇の帝王なんですか! 私は頬を膨らませて些か乱暴に書き込みます。

〈どうして純血かどうかが大事なんですか? 家系とか、関係ないですよ〉
〈大ありさ。僕らにとってはね。
 血が大事だし、それに誇りやプライドを持っている〉
〈でも、リドルくんだってハーフです〉

そう書きこむと、リドルくんからの返事が返ってこなくなりました。
た、タブーだったでしょうか。

〈君ってさ〉
〈は、はい〉
〈本当に空気とか読めない子だよね。いや、いいんだけどさ〉
〈……なんだか、ごめんなさい〉

素直に謝ると、またリドルくんからのお返事が止まりました。あぁ、この無言は怖いですよぉ。

〈やっぱり、リクは面白いよ。さすが、僕の玩具〉
〈玩具じゃありませんけどね〉
〈本当に、君は僕への扱い方が酷いよ〉

書きこんだ日記帳からクスクスと笑い声が聞こえてくるような気がしました。


†††


こんな遅い時間に地下牢教室に来るのは初めてでした。
ヘビのフェインを連れた私は少しドキドキしながら、扉を開きます。

「こんばんは、スネイプ先生」
「荷物は届いている。方法は黒板に」

いつものスネイプ先生です。

何故かほっとした私は短く返事をしてから席につきます。

目の前にはネズミやらヘビやらドラゴンやらの、少し気味の悪いものが沢山ありました。
私は苦い顔をスネイプ先生に向けます。先生は私と視線があったあと、無表情に言い返しました。

「罰則ですからな」
「……う…。まだ何も言ってませんもん」
「では始めたまえ。
 ………杖の使用は許可する」

顔をしかめていると、先生がそう言ってくれました。私は少し笑って杖を取り出します。
これで直接触れなくてもすみます。

と、思って作業をしていると、目を離した隙にフェインの口が大きく膨らんでいるのを見つけました。
フェインの頭を指先で軽く突きます。

「あ、フェイン。
 ネズミ、食べちゃ駄目ですよ」
「シューっ」
「ないても駄目です。ほら、フェインも手伝って下さい」

私はフェインにネズミを持たせて、やり方を教えます。
フェインは暫く私の作業を見つめたあと、私と同じ作業を、ヘビの身体で器用に始めました。

「うん。いい子。いい子ですね」
「言葉を理解しているのか」

私がフェインを褒めていると、スネイプ先生が興味深そうにフェインを見つめていました。
ニコリと私はスネイプ先生に向きます。

「ヘビはとっても頭がいいんですよー」
「そんな話は聞いたことないが」
「私の実体験ですよ。昔、買っていたヘビも私のお話を何でも聞いてくれていたんです。
 ハリーのパーセルマウスが羨ましいくらいです」

フェインの頭を撫でながら私が微笑むと、スネイプ先生は私の前の席に座って、一緒に材料の解体を始めました。
長い指が杖を振るいます。また、何故か胸が高鳴りました。

「先生、指長いですね」

思った事がそのまま口から出ました。

恥ずかしさに、む。と顔をしかめているとスネイプ先生は掌を開いたり閉じたりしていました。
そのまま、閉じて作った拳で私の頭を軽く叩きました。痛い。

「? っ?」
「余計な事を言っていないで、作業したまえ」
「……はーい」
「シャ」

やることは以外と多く、就寝時間ギリギリまで地下牢教室にいました。

不思議と退屈ではありませんでした。


†††


ポリジュース薬の失敗で猫になってしまったハーマイオニーの、その顔の毛がなくなった頃。
そろそろ、日記を持っているのが辛くなってきていました。

お話ではハリーが持つ筈の日記は未だに私が持っています。
鞄の中で日記に触れる度にじわじわと痛む頭に、私よりもハリー達の方が心配そうにしていました。

「リク、やっぱり調子悪いんじゃあ…」
「大丈夫ですよ。少し…貧血気味なだけですよー」

ニコリと笑い、日記の入った鞄をぎゅうと抱きしめました。
フェインが私の肩に上り、頬に擦り寄ります。

私は授業の合間、ハリーとロンが見えなくなった所で日記を開きました。
すぐにリドルくんの文字が浮かび上がります。

〈リク、僕。ハリーと話してみたいんだけど? リクも辛いんでしょ―――〉
「ちょっと待って下さい。
 ………悪いことはさせませんよ」

私がこのまま日記を持っていれば。
ハリーはリドルくんに記憶を見せられたりしないはずです。
きっと、未来が変えられる。はずです。

頭が酷く痛み、私は廊下の隅でしゃがみ込みました。
我慢。我慢。このぐらいなら、我慢できます。

日記を抱えた私をフェインが見つめていました。


†††


今日も夕食を食べたあと、スネイプ先生の地下牢教室に行っていました。
珍しくフェインがついて来なかったので、久しぶりに先生と2人きりでした。
嬉しい訳ではまったくありませんけどもっ。

私は談話室に戻り、リドルくんにそれを報告しようと思いました。が。

「…あれ」

日記がありません。鞄の中にも私のベッドの場所にも、日記がありません。
慌てて私はあの黒い日記を探しはじめました。

下手にハリーに見つかってしまったら大変です!
鞄をガサガサと探していると、ベッドの上でどくろを巻いていたフェインを見つけました。

「フェイン、日記知りません?」

フェインは閉じていた目をまた閉じると、そのまま身体を落ち着かせました。
私がもう1度聞こうとすると、退院してきたハーマイオニーの呼ぶ声が聞こえてきました。

私はフェインの身体をを持ち上げ、肩におきます。
寝室から談話室に降りていくと、ハリーの手には黒い日記が握られていました。

そんな、どうして…?

「ハリー、それ、何ですか?」
「これ? フェインが何処からか持ってきたんだ。
 T・M・リドルって、誰だろう…?」

私はキッとフェインを見ました。フェインがハリーに日記を渡したんですか!?

フェインは眠たげな瞳をまっすぐに私に向けたまま、甘えるように私に擦り寄ってきました。
………そういえば、頭の痛みはもうありません。
もしかしたら。

「……助けてくれたんですか? フェイン」
「シュ」

短くないたフェインが私の頬を舐めました。
くすぐったさに笑いながら、仕方ないなぁとフェインの顔を両手で包み込んで、キスしました。

でも、私は、できれば。

リドルくんも死なせたくないんです。


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