「リクに何の用だ?」
「我輩はMs.ルーピンに話があるだけだ」
「シリウス、喧嘩しないんですよーっ」
スネイプ先生に威嚇するシリウスの腕を掴みます。スネイプ先生も忌々しそうにシリウスを睨んでいますし、もう、どうして仲良くできないんでしょうね!
真剣な表情のスネイプ先生に、リーマスさんの表情も険しくなります。
「んー…。私だけじゃ駄目かな? セブルス」
「え。リーマスさんも、喧嘩しちゃダメですからね!」
私はリーマスさんを軽く抑えつつ、スネイプ先生に振り返ります。
「えっとすみません、スネイプ先生…。どうかしましたか?」
「………手紙だ」
「お手紙。どなたからです?」
「トム・リドルからじゃよ」
気がつけばいつの間にか厨房にダンブルドア校長先生が入ってきていました。
リーマスさんやみんなの表情が固まります。
話を聞いていたハリーも驚いた表情でスネイプ先生が取り出した手紙を凝視していました。
トム・リドル。それはヴォルデモートさんの以前の名前、本名でした。
私はスネイプ先生が差し出す黒い手紙を受け取り、ひっくり返します。
そこには確かに白い文字で「Lord Voldemort」、ヴォルデモート卿と書かれ、そして封蝋には闇の印が描かれていました。
『夏休みの終わりに楽しみにしていろ』とは、きっとこのことなのでしょうね。
「では、開けてみますね」
私が封蝋に手をかけると、リーマスさんの手が私の腕を強く掴み止めました。
リーマスさんの頬は青白く、怯えているようにも見えました。
「待ってリクちゃん。絶対に開けちゃ駄目だ。
何の呪いがかけられているのかわからないだろう」
私の腕を掴むリーマスさんの手は微かに震えています。私は安心させるようににっこりと微笑んで、リーマスさんの手に自分の手を軽く置きました。
「大丈夫ですよ、リーマスさん。
ヴォルデモートさんは私には酷いことしません」
あの墓場の前で、この胸の印と共に誓ってくれたヴォルデモートさんの言葉を思い出します。私はそれを信じきっていました。
リーマスさんの表情は変わらず青白く、心配そうな表情のままです。
ふと、ハリー達を見ると、彼らの表情も心配そうなものでした。
私は小さく微笑みを浮かべながら、静かにソファに座りました。リーマスさんも私の隣に座ります。
再び手紙の封蝋に手をかけます。
周りの人の全ての視線が私の手元に向けられていました。
黒い封筒を開くと、中には真っ黒いメッセージカードが1枚と、真っ赤な花びらが数枚入っていました。
「なんて書いてあるの?」
「…パーティーの、お誘いです」
まさか本当にパーティを開かれるとは。しかも、もしかしてこれはホームパーティでしょうか。
文面はヴォルデモートさんらしく簡潔で、パーティを開くことと、私の名前と日時しか書かれていません。
カードを引っくり返すと、走り書きで「宿泊の準備をするように」と書かれていて、私は思わず、クスと笑ってしまいました。
「明日の夜10時から。お泊りの用意もするようにと。
あの、行ってもいいですか?」
「何言ってるんだリク! 行かせられる訳ないだろう!」
シリウスがリーマスさんよりも早く声を荒上げました。
ヴォルデモートさんが開催するパーティ。もちろん他に出席するのは『死喰い人』の方々であるということは予測できました。
でも。と私は苦笑を零しながらもシリウスを見上げます。
「ですが、せっかくお誘いを受けたのに出席しないのも失礼ですから。
いいですよね、ダンブルドア校長先生」
私はじっと黙り込んでいたダンブルドア校長先生を見ました。
校長先生の瞳は私を静かに見つめ、そしてゆっくり口を開きました。
「………リクにはそのパーティーに誰がいたのか、出来るだけ多くの死喰い人を見てきて欲しいのじゃ。
加えてトムがこれから何をしようとしているのかも」
「…はい。わかりました」
それはスパイ行為。ヴォルデモートさんもそれくらい予想はしているでしょうけれど。
スネイプ先生の肩に乗ったままのフェインに、私は微笑みを向けました。
「フェインは一緒に行ってくれますよね?」
「シュ」
はっきりとした鳴き声に微笑むと、私の身体をぎゅうとリーマスさんが包み込みました。
私は驚きつつも、顔の見えないリーマスさんの背中に静かに手を置きました。
「リー…マスさん…?」
「リクちゃんはわかってないよ」
声はしっかりと通っているのに、リーマスさんの肩は小刻みに震えているようでした。
「私がどれだけ怯えているのか、………わかってくれない」
ヴォルデモートさんは恐怖の対象。絶対的な悪。
リーマスさんの親友だったジェームズさんやリリーさん、他にも沢山の仲間達をヴォルデモートさんに殺されているのです。
それも、知っているのに。私は。
「大丈夫ですよ。リーマスさん。私はちゃんと帰ってきますから」
ぎゅうとリーマスさんを抱きしめ返しても、リーマスさんの震えが消えることはありませんでした。
私はリーマスさんを抱きしめたままスネイプ先生を見上げます。
「明日はお願いしますね。スネイプ先生」
「…………」
先生は無言でしたが、軽く頷いたように見えました。
微笑みながらリーマスさんが落ち着くまでずっと、私はリーマスさんを抱きしめていました。
いつもリーマスさんがそうしてくれるように、頭を撫でながら。
どうしても拭えない不安を少しでも無くせるように。