家の大掃除が進む中、ハリーの裁判が近づいて来ていました。
掃除をしている間はほとんど戦いのように壮絶でしたので、裁判のことを考える余裕はハリーにも無いようでしたが、時々、少しの休憩時間にじっと空を眺めているハリーを見かけていました。
騎士団の仕事も忙しくなり、様々な人が顔を見せていました。
マクゴナガル先生もいましたが、長居をすることはありませんでした。
リーマスさんはダンブルドア校長先生からの指示で、度々、狼人間の方々に声をかけに行っています。
本当は行って欲しくないんですが、我が儘も言っていられません。
ハリーの裁判が近付くと同時に、夏休みも着々と終わりに向かっています。
ヴォルデモートさんは本当に何をする気なのでしょうかね。リーマスさんにあまり心配をかけたくないのですが…。
そしてついに明日が裁判の日となりました。夕食を食べ終わり、ハリー達が寝室に上がっていた頃、私はまだ残っていました。
「リクちゃん、もう寝たほうがいいんじゃない?」
数日前に任務から帰ってきたリーマスさんが、眠たさにこくんこくんと首をかしげている私に声をかけます。私達はソファに2人座っていました。
私は目元を擦りながら、ふるふると左右に首をふるいます。
「もう少し起きていますよ。今日はこれからトンクスさんの帰りを待たないといけないですよね?」
「あぁ。でも遅くなりそうだ。と連絡は入っているから。リクちゃんは寝ていて。私達もここで仮眠を取るのだから」
リーマスさんは私の頭を優しく撫でます。頭撫でられるのは気持ちがいいです。もっと眠くなります。
私はころんとリーマスさんのお膝に横になりました。リーマスさんの苦笑。
「ほら、寝室に上がって」
「私、ここがいいですー」
「こらー、…もう仕方ないなぁ」
「リーマス。仕方ないという顔していないぞ」
満面な笑みを浮かべているリーマスさんに、やっとシリウスからのツッコミが飛んできました。
ちなみに厨房にはまだシリウスもモリーさんもアーサーさんも残っています。
私達親子がソファでイチャイチャとしているのを呆れた表情で見ていました。
「君達を見ていたら胸焼けしそうな瞬間があるよ」
「ふふ。私のリーマスさんですからね」
目を閉じながらもアーサーさんの言葉に誇らしげに答えていました。
リーマスさんの甘い匂いを覚えながら、いつの間にか意識は深く深く落ちていきました。
†††
気がつくと既にトンクスさんが帰ってきていました。私は目を擦りながら上半身を起こします。
トンクスさんも同じように眠たそうに欠伸を零していました。
時計を見ると、既に早朝の5時に差し掛かっています。わ、私思いっきり眠っていましたね。仮眠の勢いではありません。
膝をお借りしていたリーマスさんにぺこりと頭を下げます。きっと疲れたでしょうから。
「トンクスさん、残業だったんですね。お疲れ様です」
「うん、ゴメンネリク。待っててくれたんだ」
「思いっきり寝ちゃってましたけど……」
反省しつつ、頭を下げていると、リーマスさんは微笑みながら頭を撫でてくれました。
トンクスさんの欠伸混じりの報告を聞いていると、厨房の扉の前にハリーが立っていました。
随分と早起きです。きっと目が覚めてしまったのでしょう。裁判は今日なのですから。
モリーさんはハリーに微笑みを向けると、朝食に何を食べるのかを聞いていました。
変わらず不安顔のハリー。モリーさんが一生懸命ハリーの髪をといていました。安心させるようにアーサーさんがハリーに話しかけました。
「すぐ終わるよ。数時間後には無罪放免だ。
尋問はアメリア・ボーンズの部屋だ。魔法執行部の部長で君の尋問を担当する人だ」
「アメリア・ボーンズは大丈夫よ。公平な魔女だから」
トンクスさんがそう言いました。ハリーは無言のまま、時々頷くだけでした。
「カッとなるなよ。礼儀正しくして事実だけを言うんだ」
シリウスが突然言いました。シリウスがそういうのは少し面白いような気がしました。
次にハリーに声をかけるのはリーマスさんです。
「法律は君に有利だ。未成年魔法使いでも命を脅かされる状況では魔法を使うことが許される」
私はただ微笑みながらハリーを見ていました。アーサーさんが新聞を畳んで立ち上がります。
「そろそろ出かけよう。少し早いが、魔法省に行っていたほうがいいだろう」
「オーケー」
ハリーも立ち上がりました。みんなでハリーを励ます声をかけます。
「頑張ってくださいね」
玄関を抜けていくハリーを見送ります。ハリーは私を一瞬見たあと、困惑を見せ、何も言わずに玄関を出ていきました。
未来がどうなるか知っている私も、やっぱり心配なものは心配でした。
†††
昼前に戻ってきたハリーとアーサーさん。
ロンやハーマイオニー。私達が不安そうに2人の顔を交互に見ていると、ハリーがニッコリと笑いかけました。無罪だったのです!
ロンが跳ね上がりながら空中にパンチを打ちました。
「思ったとおりだ! 君はいつだってちゃんと乗り切るんだ!」
「無罪で当然なのよ」
フレッド先輩に、ジョージ先輩、ジニーちゃんが踊りながら「ホーメン、ホーメン、ホッホッホー……」と歌っています。
それを見ながらアーサーさんが怒りながらも笑顔を浮かべていました。
アーサーさんはハリーの裁判の付き添いの際に、ドラコくんのお父さんが魔法省にいて、しかもファッジ魔法大臣と話している瞬間を見たと言いました。
マルフォイさんが『死喰い人』であることは確定しています。その死喰い人の方が魔法省大臣と話していたとなると。話の内容により少々厄介なことになります。
「ホーメン、ホーメン、ホッホッホー……」
「いい加減にしなさい、フレッド、ジョージ、ジニー!
さぁ、ハリー座って。朝はほとんど食べていないのだから」
モリーさんがフレッド先輩達を叱りつつ、ハリーを椅子に座らせます。
そしてお昼の用意を進めていました。
裁判は急に予定していた場所から大法廷に変えられ、予定していたアメリア・ボーンズではなく、ファッジ魔法大臣が直々に裁判官になっていたらしいのです。
ですが、ハリー側の証人はダンブルドア校長先生でした。
流石にダンブルドア校長先生が味方についたら、絶対にハリーを有罪には出来ないはずです。
また楽しそうに「ホーメン、ホーメン、ホッホッホー……」と歌った3人にモリーさんが大きな怒鳴り声を上げました。
そして、やがて夜になり、私がホールに降りていくと、フェインが肩を滑り降りて先に階段の手摺を滑り降りていきました。
首をかしげつつ、フェインを追いかけて玄関まで行くと、しゃがみこんでフェインを手に乗せるスネイプ先生の姿がありました。
フェインはスネイプ先生の肩に身体を落ち着かせています。
私は先生の下まで駆け寄り、微笑みかけました。
「こんばんわ、スネイプ先生。夕食はもう終わってしまいましたよ?」
「そうではない。厨房にルーピンはいるか」
「? はい。いますよ」
真剣な表情なスネイプ先生に首をかしげつつ、厨房の扉を開けました。
中にはリーマスさんやシリウス、ハリー達の姿もありました。
みんなはスネイプ先生を見て、学生達は顔をしかめ、大人達は不思議そうに私と先生を交互に見ました。
「何かあったかい? セブルス」
「正確にはMs.ルーピンに用がある」
「私でしたか」
そう言われた瞬間少し、予想がつきましたが、その思いはシリウスが立ち上がったことでかき消されそうになってしまいました。