困惑した瞳でヴォルデモートさんを見つめていると「黙って見ていろ」と小さく囁きました。
「俺様は復活した」
ヴォルデモートさんの声はそれすらが魔法のようでした。
死喰い人さん達がヴォルデモートさんの声に怯えるように、はたまた酔いしれるように。
足元には大蛇のナギニ。ヴォルデモートさんはやっぱり悪役なんですねぇ。とぼんやり考えていました。
「ここに集まった人数は当時に比べるとまだ足りない…。
何故か。それは俺様に最後まで真の忠誠を誓っていた者達は未だアズカバンにいるからだ」
言外にここにいる方々が真に忠誠を誓っていないというかのようです。
死喰い人さん達に戦慄が一瞬走りますが、ヴォルデモートさんの表情からはそれ以上何も読み取れませんでした。
「ホグワーツのタヌキ爺は、既に俺様の復活を知っている。かつての騎士団も蘇っているだろう。
だが、何も心配はいらない。ここに俺様がいるからだ」
ヴォルデモートさんは深く、怪しげに妖艶に微笑みました。
掲げた空のワイングラスはいつの間にか真っ赤なワインが満たされていました。
目の前の人々が一斉にそれを煽りました。私はそれを静かに見つめているだけでした。
それぞれがお酒を煽ったあと、複数箇所にあった丸いテーブルに沢山の、さまざまな料理が盛られていました。
死喰い人の人達もヴォルデモートさんから視線が外れるようになり、いつの間にか静かに立食パーティが始まっていました。
パーティといえども、わぁー!と盛り上がっているのではなく、静かに囁くような会話があちらこちらで交わされているような、そんな静かなパーティでした。
「リクも何か適当に食べていろ。俺様の目のつくところでな」
「はーい」
私は返事をして、椅子からゆっくり立ち上がります。丸いテーブルにあったデザートを持って戻ると、ヴォルデモートさんはゆっくりとワインを飲んでいるだけでした。
はっと思い出した私はヴォルデモートさんを見ます。
「そうでした。今回はご招待ありがとうございました。ヴォルデモートさん」
「構わない。俺様もリクを死喰い人に見せておく必要があった」
「そうなんですか?」
フルーツタルトを口に入れながら私は首を傾げます。
死喰い人を見回したヴォルデモートさんが最後に私に視線を移しました。
「お前の存在を死喰い人達に教えておかねばならない。
どうせお前は騎士団にいるのだろう。間違って手を出されても困る。
これで、ここにいるものでリクに何かしようという奴はいない」
「……はい。わかりました」
流石にヴォルデモートさんの隣にいる人間は誰も手出しは出来ないということでしょうね。
私の身の安全は守られたようですが、まだまだ安心は出来ません。
シリウスの言う通り、ヴォルデモートさんはリーマスさんを殺してしまうのかも知れないのですから。
そのことを改めて確認しつつ、久しぶりに会うヴォルデモートさんが幾分元気そうなので少し安心しました。
これで戦争とかしないでくれたら1番いいんですけれど。
「やっぱりヴォルデモートさんもダンブルドア校長先生と一緒に世界平和を目指せばいいんですよー。2人が揃えば最強です」
「……忘れたか、リク。今の貴様は生身だからな」
「あ。磔の呪文は勘弁ですからね」
ニコニコと笑いながら、料理を置いた私は両腕でばってんを作り、ヴォルデモートさんに抗議。
夢で会っていた時とは違って、ヴォルデモートさんは私に触れられますし、呪文もかけられるのでした。
あまり失言を繰り返すと約束云々の前に呪文が飛んできそうです。
ふと、死喰い人の方々を見るとざわめきだっている気がしないでもありません。
流石にヴォルデモートさんに不遜な態度をとりすぎでしょうか。治す気もあまりありませんけど。
そんな中でフェインは沢山ある料理には目もくれず、じーっとヴォルデモートさんを睨んでいました。私以上に警戒心ばりばりです。
大丈夫と伝えるようにフェインを指で撫でていると、足元にいたナギニが私の膝に頭を置きました。ふふ。可愛いです。
ナギニを撫でようと手を伸ばすと、今度はフェインからの嫉妬の声。
そのままじっと睨み合うフェインとナギニの蛇達に、私は苦笑を零してヴォルデモートさんを見ました。
「どうしましょう?」
「放っておけ」
「ヴォルデモートさんみたいに蛇語を使ってみたいです…。ハリーもパーセルマウスですし」
「ハリー・ポッター。か」
ハリーの名前に反応したヴォルデモートさんはワインを煽って空にしていました。
再び注ごうとしたワインを、私が先に手を伸ばして受け取りました。
ヴォルデモートさんが持つグラスにワインを注ぎながら、私は微笑みを浮かべます。
「今日、裁判とか色々あったんですよー」
「…無罪放免になったらしいじゃないか。……忌ま忌ましい」
「またハリーとホグワーツに通えるので私は嬉しいですよ?
ハリーも毎年大変ですねぇ」
「リクもな」
「大体はヴォルデモートさんのせいですけどねぇ」
私の膝の上で威嚇で試合をはじめたフェインとナギニを置いといて、私はまたケーキに手を伸ばします。うん。美味しいです。