ホグワーツに向かわなくてはならないその日の朝は、モリーさんの怒声とシリウスのお母さんの叫び声が屋敷中に響き渡っているようでした。
私は苦笑を零しながら玄関先で自分のトランクの上に腰掛けていました。肩にはいつものようにフェインがいます。
ムーディ先生がみんなのトランクとフクロウの籠を見ています。ホールにはトランクが散らばっていました。
私は生徒としての荷物のまとめや準備は整っていましたので、大人の騎士団員の方に混じってハリーの護衛の話をしていました。
「えっと、ハリーはモリーさんとポトモアさんと一緒に、あぁそう言えばポドモアさんの姿が見えませんね」
「そのせいで時間が遅れておるんだ。スタージスの奴…、この1週間ですっぽかすのは2度目だ。
…マンダンガス並みに信用できなくなっておる」
「でも、ここからキングス・クロスまでは、徒歩だと20〜30分かかります。もう出ないといけません。
ポトモアさんの代わりにトンクスさんにお願いしましょうよ」
むぅと唸るムーディさんに苦笑を零してからキョロキョロと周りを見回します。
急いで降りてきたハリーのすぐ隣に、いつの間にか大きな黒い犬が現れていました。シリウスです。
モリーさんの絶望的な声が聞こえますが、もう諦めたようでキッとした声をしつつもハリーと一緒に玄関を抜けました。
少し行った場所にトンクスさんが待っているハズです。
「じゃあ私がロンとハーマイオニーを連れて行くから」
「お願いします、アーサーさん。
では、リーマスさんが予定通りジニーちゃんとフレッド先輩とジョージ先輩の案内をお願いしますね」
「あれ? リクは?」
玄関で振り返るジョージ先輩。私は自分のトランクに1つ荷物を乗せて微笑みました。
「私はムーディ先生と一緒に荷物を持って行きますので大丈夫ですよ」
カートに残りのトランクを積んで、私とムーディ先生が最後に屋敷から出ました。
まだ叫び声を上げているシリウスのお母さんの声は玄関を出た瞬間に聞こえなくなりました。
「本当に時間が危ないです。急ぎましょう」
「む」
魔法の目をぐるぐると回すムーディ先生。最近慣れてきたとは思っていますが、流石に魔法の目を動かしている姿は怖いです。
最後尾で、尾行などに気をつけながら(と言っても私は尾行に気付くとは思えません。ムーディ先生に任せきりというやつです)、20数分かけキングス・クロス駅に到着しました。
9と3分の4番線のホームに入ると、心配そうな表情をしていたモリーさんが私達の到着にほっとしていました。
待っているリーマスさんに近付いて真正面から抱きつきます。クリスマスまでリーマスさんと会う機会がないだなんて。
「気をつけてね。リクちゃん。
危ないことはしないで。1人で抱え込まないで。苦しまないで」
「はい。リーマスさん」
私に擦り寄るように犬の姿となったシリウスがいました。私は少しかがんでぎゅうとシリウスを抱きしめます。
彼には耳に口を近付け、囁きかけました。
「…みんながいないと寂しいとは思いますが、無茶をしてはいけませんよ」
「……わう」
シリウスの表情は随分と不服そうでした。私はにっこりと笑ってもう1度ぎゅうと抱きしめました。
最初の警笛が鳴り響きました。私達は慌てて汽車に乗り込みます。
乗り込んですぐ振り返るとリーマスさんやトンクスさん、アーサーさんにモリーさん、ムーディ先生が見えました。
動き出した汽車。その汽車を追いかけるシリウスの姿。
きゅうと寂しくなりつつも私は流れていった見送りの人達を最後まで見つめていました。
ハーマイオニーとロンは監督生用のコンパートメントがあるらしく、すぐ離れてしまいました。
「行きましょ」
ジニーちゃんがそう言いました。ロンを見送っていたハリーはジニーちゃんの後ろをついていきました。私は、ハリーと反対の方向へと歩きだそうとします。
それに気付いたジニーちゃんが、私を引き止めるように声をかけました。
「リク、どこに行くの?」
「え、あ…」
私の視線の先にはハリーの姿がありました。ハリーは私の方を見てはいませんでした。
私は静かに小さく微笑みを浮かべて、左右に首を振りました。
「ジニーちゃん、また、グリフィンドール寮でお会いしましょうね」
そう言って、私はジニーちゃんの声を遮って反対方向に歩き出しました。
1人で歩いていると、鞄の中にいたフェインが私の肩に登ってきて、静かに声を零していました。
頬をすり寄せてきたフェインに微笑みを浮かべます。通路ですれ違う生徒達はフェインの姿を見て、短い悲鳴を上げて、私へと道を譲りました。
私は、フェインがいれば、いいのです。
悲劇のヒロイン気取りの、今の自分が酷く嫌いでした。