夏休みの終わりがすぐ目前まで迫ってくると、私達はシリウスがとっても寂しがっていることに気が付きました。

シリウスは塞ぎ込みがちになったり、話しかけ辛いくらいに不機嫌な時もありました。

夏休みが終わってしまうと、ハリーや私達も学校に戻ってしまい、この屋敷の中も随分静かになり、屋敷しもべ妖精であるクリーチャーと一緒に過ごす時間の方が多くなってしまうのです。

みんなでお掃除をしているとはいえ、この家はまだまだお掃除しなくてはいけない箇所が山ほどあるぐらいに荒廃していますし、シリウスはそんな屋敷から一歩も出ることが許されていないのです。

私も騎士団のことについて、実際に行動が出来るわけではありませんから、もどかしい思いはわかりますが…。

そんな状況の中、もう数日で夏休みが終わるという頃、ホグワーツから進学に必要な教科書の案内が届きました。

リーマスさんに「今回は遅かったと思いません?」と聞くと、今回の闇の魔術に対する防衛術(DADA)の新しい教師が中々見つからなかったと教えてもらいました。
厨房でソファに座るシリウスの隣に座って、私は手紙を広げます。

ホグワーツからの手紙にはミランダ・ゴズホーク著『基本呪文集・5学年生用』と、ウィルバート・スリンクハード著『防衛術の理論』とありました。

「では、DADAの先生が見つかったんですね……」
「どうしたの? リクちゃん」

表情を歪めていた私にキッチンの方で珈琲を入れていたリーマスさんが声をかけました。
私は頬を膨らましつつ、隣のシリウスの肩に頭を置きました。

「次に来る先生…あんまり好きな方じゃないんです」
「リクがそう言うのは珍しいな。誰だ?」
「ドローレス・アンブリッジ」

私の答えにリーマスさんの表情に苦笑が混じりました。

ドローレス・アンブリッジは魔法省の方です。
狼人間やそういった人間の方への差別が酷く、リーマスさんも彼女の制定した法で職を追われてしまったこともあるのです。

頬を膨らませたままの私。シリウスはリーマスさんと同じく苦笑を浮かべながら私の頬をつついていました。

「悪口はいけませんが、あまり良い方だとは思えないんですもん」
「何かあったらすぐにフクロウ便を飛ばしてね、リクちゃん」

にっこりと笑顔を向けるリーマスさんに私も微笑みを向けます。シリウスは何故か少々引きつった顔をしていました。

その時、ぱたぱたと降りてきたモリーさんが嬉しそうに頬を赤らめていました。
私はモリーさんに声をかけます。

「どうしました? モリーさん?」
「あぁ、リク! ロンとハーマイオニーが監督生バッジを貰ったのよ!」

5年生になると下級生をまとめる存在として学年の各寮から2人、監督生が選ばれるのです。
それにロンとハーマイオニーが選ばれたのです!

「わぁ凄いです! 2人が監督生なら下級生ちゃんも安心ですね!」
「本当に素晴らしいことだね。
 でも残念。リクちゃんじゃなかったんだー」

クスクスと笑いながらそう言うリーマスさんに私も頬を赤らめます。
ほら、私はそういうのに向かないんですよー。

モリーさんはここ最近で1番機嫌が良さそうに微笑んでいました。

「今日の夕食はご馳走にしないと!」
「みんなでお祝いですね。私もお手伝いします」
「えぇ、お願いね。
 さてお買い物してこないと。ついでにリクの分の教科書類も一緒に買ってくるわ。今のうちに荷物の準備をしておきましょうね」
「ありがとうございます!」
「すまないね、モリー」

そう言ってモリーさんは嬉しそうにダイアゴン横丁に向かっていきました。

気になって私はシリウスに顔を向けました。

「そういえばシリウスは学生の時、監督生だったんですか? 頭良かったんですよね?」
「俺が? 俺を監督生にするわけはない。ジェームズと一緒に罰則ばかり受けていたからな。
 俺の学年で貰っていたのはリーマスだ」

シリウスの言葉に私はリーマスさんに尊敬の視線を送ります。
自分の両頬に手を当てて、熱くなった頬を冷ましました。

「リーマスさんが監督生さんだなんて格好いいですね!」
「ダンブルドアは私がシリウスとジェームズを大人しくさせられるかもしれないと考えたんだろうね。
 言うまでもなく失敗したけれど」

笑いながら珈琲を含むリーマスさん。やっぱり監督生のリーマスさんは格好いいと思います。
熱い視線をリーマスさんに向けていると、隣のシリウスがあまり面白くなさそうに私の頬を数回つつきました。


†††


その日の夕食は立食パーティのような形式でみんなでロンとハーマイオニーにお祝いの言葉をかけていました。
久しぶりにムーディ先生やシャックルボルトさんの姿も見えていて、パーティは賑やかに始まっていました。

ロンはお祝いに新しい箒を買って貰ったようで、トンクスさんに嬉しそうに箒のことについてお話をしていました。
ハーマイオニーも両親に監督生になったということを報告したようです。

くるくるといろんなテーブルを回りながら、私は人に踏まれないように部屋の隅にいたフェインを肩に乗せました。

厨房の入り口辺りに背を預けると厨房の人達の様子がよくわかりました。

ハーマイオニーはリーマスさんにしもべ妖精の権利に付いて話しています。
ロンはトンクスさんに箒の性能を熱く語っています。
ビルさんの長い髪はモリーさんには気になるようで、短い髪にしない?と一生懸命に髪型論争を繰り広げています。
反対の隅の方ではマンダンガスさんとフレッド先輩とジョージ先輩がこそこそと話をしています。
悪戯専門店のことでしょうが。なにやら危ない取引のような気がします…。モリーさんは全く気がついていないようでしたけれど。
ムーディ先生は何やら写真をハリーに見せているようでした。

話こんでいたモリーさんは寝る前に、この前客間で見つけたまね妖怪を退治してくると厨房を抜けていきました。

「シャアー」

フェインの声。隣に視線を移すと、シリウスが私と同じように壁に背中を預けていました。彼の片手にはフライドチキン。

シリウスはチキンにかぶりつきながら私に微笑みを向けていました。

「リク、何にやにやしてるんだ?」
「にやにやしてます?」
「あぁ。凄く」

にっこりと笑顔を浮かべてみんなを見ていた私は、なんだか嬉しくなってぎゅうとフェインを抱きしめました。
みんながいて、おめでとうと言い合っていて、なぜだか凄く凄く幸せだったのでした。

こんな日がずっと続きますようにと願いながら。ずっと続くようにしなくてはと決心しながら。

微笑んでいる私を見て、シリウスも笑みを浮かべています。

ですが、突然何かに反応するように表情を変えました。

「何か音しなかったか?」
「え?」
「……今、モリーが上がっていったよな。見てくる」
「待ってください。私も行きます」

厨房を抜けるシリウスに私も付いていきます。
階段を上っている途中で後ろからリーマスさんとムーディ先生がさらに追いかけて来ました。

「どうかした? 2人とも」
「何か物音がした、気がした」
「モリーとそれにハリーも客間におる」

ムーディ先生が魔法の目をきょろきょろと動かしながらそう言いました。
眉間に一瞬皺を寄せたリーマスさんが急いで客間に向かいます。

客間に近付くと、この場の全員が違和感に気がつきました。焦ったようなハリーの声が聞こえてきます。

「どうした?」

リーマスさんが客間に駆け上がりました。すぐ隣にシリウスと私がいます。

中には泣きながら震えるモリーさんがいました。
そしてそのすぐ横に立っているハリーと、そのすぐ前に血塗れで横たわっている、ハリーの姿?

ハリーが2人?

すぐに理解したリーマスさんは杖を構え、力強く「リディクラス(馬鹿馬鹿しい)!」と唱えました。

死体だった方のハリーがパッと消えて、次に現れたのは両目を閉じ、口の端から血を流し横たわる、私の姿でした。

息を殺す私。
リーマスさんの杖が握られていない方が私の手を探っているようでした。
すぐにリーマスさんを安心させるようにその手を掴むと、再び振るった杖でその死体は霞となって消えてしまいました。

嗚咽を上げて両手で顔を覆い泣き出すモリーさんに、リーマスさんが近付いて、頭を撫でるようにして慰めていました。

「モリー、ただのまね妖怪だよ。ただのくだらないまね妖怪だ」
「私、い、いつも、みんなが、死ぬのが、死んでしまうのが夢に見るの、…!」

私はじいと泣いているモリーさんを見つめていました。

「家族の、半分が騎士団にいるのよ…全員が無事だったら、き、奇跡だわ…アーサーも、私も殺されたら…?」
「モリー、もうやめなさい。前のときとは違うんだ。
 ヴォルデモートが何をしようとしているのか知っている――」

リーマスさんの言葉は、突然翻訳薬の効果が切れてしまったかのように私の中で理解が追いついていませんでした。

ジェームズさんやリリーさんだって、自分が死んでしまう数ヶ月前まで、1日前でさえ予想すらしていなかったのでしょうから。

部屋に入ってきた時と変わらない位置で、ハリーも呆然と立っているのが見えていました。

先日、ヴォルデモートさんに触れられた感覚は覚えています。
その優しいと思えた手は、マルフォイさんに磔の呪いをかけていました。
でも、ヴォルデモートさんは会いたいと願ったリドルくんを、再び私に会わせてくれました。

ヴォルデモートさんは、優しい? それは、私にだけ?

モリーさんの今、1番恐ろしいものが、ハリー達の死で。
そして大好きなリーマスさんの1番恐ろしいものが、私の死?

困惑する私の中、先程まで感じていた幸せな感覚はもう残っていませんでした。


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