そのままリドルくんを抱きしめて眠っていましたから、その暖かい体温が急になくなって、私は一気に目が覚めてしまいました。
「リドルくん?」
側にある日記を開くと走り書きのような文字が浮かび上がります。
『人が来る』
その走り書きが消えていったあと、誰かが寝室に上がってくる控えめな音がして、マクゴナガル先生の声が聞こえました。
「Ms.ルーピン。起きてください」
「? マクゴナガル先生…? どうしましたか?」
マクゴナガル先生の声はいつもの凛とした声でしたが、私がベッドの紗幕をあけると、先生は真剣な顔をして私を見ていました。
「校長先生が貴女も来るようおっしゃっています。神秘部の見張り番だったアーサー・ウィーズリーが襲われました」
「アーサーさんが!?」
驚きで声をあげてしまった私を、マクゴナガル先生は視線で制します。私は慌てて口を塞ぎました。
「ここでは話せません。校長室へ」
「………すぐ行きます」
私が立ち上がると、何処からともなくフェインが姿を現しました。フェインは私の肩にのぼると、尻尾をだらんと降ろしました。
「ジニー・ウィーズリーを起こしてきます」と声をかけて寝室から出ていくマクゴナガル先生。
私はちらりと黒い日記を見ます。日記には文字が浮かび上がっていました。
『過去を知っても、未来は変わらないじゃないか』
私は何か言葉を返すことなく、日記をぱたんと閉じ、いつも持ち歩いている鞄の中に詰め込みました。
†††
軽くローブを羽織り、鞄を手にしていました。私の隣には表情を暗くするジニーちゃんや、ジョージ先輩、フレッド先輩が一緒に廊下を歩いていました。
その先頭にはマクゴナガル先生がいます。ジニーちゃん達は何が起こったのがよくわかっていないようで、不安そうに私を見つめ、答えを探していました。
ダンブルドア校長先生のお部屋に着くと、そこには既にハリーとロンがいます。ジニーちゃんはハリーに問いかけました。
「ハリー…いったいどうしたの…?」
「お父上は『不死鳥の騎士団』の任務中に怪我をなさったのじゃ。じゃが、もう『聖マンゴ魔法疾患傷害病院』に運ばれておる。
君たちをシリウスのところへ送ることにした。病院へはそのほうが「隠れ穴」よりずっと便利じゃからの」
ハリーが答えるよりも早く、ダンブルドア校長先生がそう言いました。校長先生はそのきらきらとした目で私を見ていました。
「リクも一緒について言ってくれるかの。向こうにはシリウスが待っている」
「はい。もちろんです」
私は短く返事をして、鞄の中からフェインを取り出しました。彼はじとと、私を見たあと、滑るように机の上で蜷局を巻きました。
「フェイン。校長先生のお手伝いをしていてください」
「シャ」
「移動キーに乗るのじゃ」
ダンブルドア校長先生の真剣な声が聞こえて、私は撫でていたフェインの身体を離しました。
困惑するウィーズリー兄妹と、ハリーと一緒に、私は古びたヤカンに触れます。3つ数えるうちに身体はヤカンに持って行かれ、移動が開始しました。
ぐるぐると回るような感覚をうけ、足元の感覚がなくなります。
次にちゃんと地に足をつけた瞬間に、私は既に杖を抜き取っていました。
ふらふらとバランスを崩しかけますが、私は飛ばされてきた面々がこの場にいることを確認しました。
ここはグリモールド・プレイス12番地の地下にある、薄暗い厨房でした。私は声をあげます。
「シリウス、到着しました!」
声を上げた数秒後、ばたばたと階段を駆け下りる音が聞こえ、すぐに扉が開かれました。
心配そうな顔をシリウスが倒れたジニーちゃんを助け起こしながら困惑の表情を浮かべました。
「どうしたんだ? フィニアス・ナイジェラスは、アーサーが酷い怪我をしたと言っていたが…」
「ハリーに聞いて」
「そうだ、俺もそれが聞きたい」
フレッド先輩とジョージ先輩の声が重なりました。口を開こうとするハリーでしたが、私はシリウスの腕に少し触れ、声を出しました。
「先に厨房に戻りましょう。ハリーも、その間に少し落ち着いてください…。酷い顔をしていますよ…」
状況を知らされていないジニーちゃん達もそうでしたが、当のハリーも相当に疲れきって、怯え切った表情を浮かべていました。
全員が口を結んだ中、それぞれがゆっくりと厨房に向かいました。
厨房で、ハリー達がソファなどに腰を落ち着かせたあと、ハリーが苦しそうに、静かに語り始めました。
「僕は見たんだ。一種の…幻を…」
長い廊下を、蛇が進み、そして、扉の前で眠っていたアーサーさんをその鋭い牙で刺した時の様子を。
私は息を殺します。ハリーの語る大きなその蛇はきっとナギニでしょう。ヴォルデモートさんはやっぱり、神秘部にある「あれ」を欲しているのです。
ジニーちゃん達はハリーが話し終わったあとも、ハリーを見つめていました。フレッド先輩がシリウスを見ました。
「ママは来てる?」
「たぶんまだ、何が起こったかさえ知らないだろう。
アンブリッジの邪魔が入る前に君達を逃がすことが重要だったんだ。今頃はダンブルドアがモリーに知らせる手配をしているだろう」
「聖マンゴに行かなきゃ」
立ち上がったジニーちゃんを、今度は私が引き止めました。