「待ってください、ジニーちゃん。…今すぐには、聖マンゴには行けません」
「俺達が行きたいなら行けるさ! 俺達の親父だ」
フレッド先輩は苦しそうな顔をしていました。今、アーサーさんがどんな状態でいるのか、全くわかっていないのです。
今すぐにでも病院に行きたい気持ちは痛いほどわかりました。思わず言葉を濁す私に、シリウスが続けました。
「アーサーが襲われたことを、病院から奥さんにも知らせていないのに、君達が知っているなんてどう説明するつもりだ?」
「そんなことどうだっていいだろ!」
「よくはない。何百キロも離れたところの出来事をハリーが見ているという事実に、注意を引きたくない!
そんな情報を魔法省がどう解釈するか、君達にはわかっているのか?」
フレッド先輩と、ジョージ先輩は、魔法省のことなどどうだっていいという顔をしていました。シリウスがもどかしそうに言葉を続けます。
「君達の父さんは、騎士団の任務中に負傷したんだ。それだけでも十分状況が怪しいのに、その上、子供達が事件直後にそれを知っていたとなれば、ますます怪しい。
君達が騎士団に重大な損害を与えることになるかもしれない」
「騎士団なんかクソ喰らえ!」
「俺達の親父が死にかけてるんだ!!」
「君達が事を台無しにしたら父さんが喜ぶと思うか!?」
今やシリウスもフレッド先輩達も大声になっていました。肩を震わす私が思わずシリウスに寄り添いますが、3人は既に激怒しあっていました。フレッド先輩が怒鳴ります。
「口で言うのは簡単さ! ここに閉じこもって! そっちの首は懸かってないじゃないか!」
一瞬、シリウスの血の気がさっと引きました。私がぎゅうと腕を掴むと、次に口を開いたシリウスは静かな口調で話しだしました。
「辛いのはわかる。
しかし、我々全員が、まだ知らないかように行動しなければならないんだ。
少なくとも、君達の母さんから連絡があるまでは。いいか?」
ジョージ先輩達が黙り込みました。シリウスが励ますように『アクシオ(呼び寄せ)』で、バタービールを人数分飛ばしてきました。全員がそれに手を伸ばしました。
それから。とてつもなく長い夜が続きました。誰も彼も動くことなく、ただ黙ってモリーさんからの連絡を待ち続けていました。
そして、明け方の5時過ぎになったころ、厨房の扉がバッと開いてモリーさんが入ってきました。
酷く青ざめてはいましたが、全員の視線がモリーさんに映ると、モリーさんは力なく微笑みました。
「大丈夫ですよ。
お父様は眠っています。あとでみんなで面会にいきましょう」
モリーさんがそう言うと、フレッド先輩が両手で顔を覆い、ジョージ先輩とジニーちゃんがモリーさんに抱きつきました。
ロンはへなへなと笑って、残っていたバタービールを一気に飲み干しました。私は小さく微笑んで、立ち上がりました。
「朝食にしましょう。シリウスもハリーも手伝ってくださいな」
竈の方に向かう私に、シリウスがついてきて、顔を見合わせて小さく微笑みました。ウィーズリー一家での幸せを邪魔してはいけないと思ったのです。
ハリーも、急いでこちらに向かってこようとしましたが、その前に、モリーさんがハリーを強く抱きしめて、アーサーさんを救ってくれたことに感謝の言葉を述べていました。
そしてモリーさんはシリウスに向き直って、アーサーさんが入院中、この屋敷にとどまらせて欲しいとそう言いました。
シリウスはにっこりと微笑んで「大勢の方が楽しい」と、そう答えました。
そうして全員が朝食を取ったあと、モリーさんが子供達をお昼までベッドで寝るように、促しました。
ぞろぞろと寝室に上がっていく中、ソファに座るシリウスの隣に一緒に座っていました。
「リクも眠らないと」
「はい…。でも、眠れる気もしなくて」
暖かいシリウスの傍の方が落ち着きます。シリウスは気を遣うように、私の肩をぽんぽんと数回叩きました。
「昼過ぎにはみんなと一緒にアーサーの面会に行けばいい。あとから、トンクスやアラスターが来る」
「リーマスさんは?」
私がそう問うと、シリウスはその大きな手で私の目元を覆いました。視界が真っ暗になります。
「……リーマスはまだ任務で帰って来てない。
だが、大丈夫。リーマスは無事だ」
シリウスは私の心配事を見抜いているかのようでした。そしてもう1度私に優しく言います。
「眠らないと」
†††
ソファの上でそのままぼんやりとしていると、トンクスさんとムーディ先生が厨房に入ってきました。
トンクスさんが、シリウスにもたれ掛かっている私の隣に腰を下ろして、金色だった髪を綺麗な銀色に変えて見せました。
「ダンブルドアから話の概要は聞いたんだけど、ハリーが現場を見ていたって本当なの?」
「あぁ、そうらしい。トンクス」
「でも、ハリーにあまりその時のお話をしないであげてくださいね。ショックを受けているようですし……」
私がそう言うと、トンクスさんは小さく微笑んでから、身を起こした私の頭を優しく撫でてくれました。
「そう言うリクもひっどい顔よー?」
「え。そんなことないです!」
「ちゃんと寝ないからだな」
「むー」
シリウスとトンクスさんに挟まれ、私は口を尖らせます。私の両サイドでクスクスと笑っているシリウスと、トンクスさんの腕をとってむすーっとしていると、寝室からフレッド先輩達が降りてきました。
みんなで聖マンゴ魔法疾患傷害病院に向かうために、マグルの服装に着替え、ロンドンに向かいました。
聖マンゴの入口は、赤レンガの、流行遅れの古いデパートの前でした。飾られたマネキンにトンクスさんが話しかけると、マネキンはゆっくりと頷きを返しました。
驚いているハリーと私の前で、トンクスさんがまっすぐにガラスを突き抜けていきました。その背に続くモリーさんとジニーちゃん。私は最後の最後にそのガラスをくぐりました。
中に入ると、いつの間にかマネキンの姿はありません。ただ、木の椅子が何列も何列も並び、その所々に人が座っていました。
モリーさんが受付に向かい、アーサーさんがどの病棟にいるのか聞きに行きました。
その間に、私はきょろきょろと周りを見渡します。きょろきょろとしていると、ムーディ先生に「大人しくしていろ」と低く唸るようにそう言われてしまいました。
やがてアーサーさんの病室の前に行くと、トンクスさんが明るい声で声をかけました。
「私達は外で待っているわ、モリー。
大勢でいっぺんにお見舞いしたら、アーサーにも良くないし、最初は家族だけにするべきだわ」
トンクスさんの提案に、ムーディ先生も低く唸りました。私もにっこりと微笑んで、ムーディ先生達と待機することを選びます。
モリーさんが微笑んで、ジニーちゃん達と、それと、お礼を言いたいから。とハリーを連れて行ったあと、私達3人が残されました。
近くの椅子に座って待っていると、やがてみんながぞろぞろと戻ってきました。