12月の中旬になった頃でした。
『リク、クリスマスの予定は?』
いつものようにベッドに寝転がりながらリドルくんとお話をしていると、突然、その文字が日記の表面に映し出しました。
私は首を傾げながらも返事を書き込みます。フェインはベッドの隅で丸くなって眠っていました。
「うーんと、私は今年、リーマスさんの元に戻りますよ? ハリー達も隠れ穴に行くそうですし、学校に残らないつもりです」
『騎士団に?』
「そうですけれど…。
あ、変なことしちゃ駄目ですよ? リドルくん」
『しないさ』と日記に書かれた文字をじいと見つめながら、私は「どうしましたか?」と続きを書き込みました。
すると返ってきたのはリドルくんにしては可愛い返事でした。
『だって君はあの義父親と同じ部屋で寝ていたじゃないか。そうすると、クリスマス中、僕とは話してくれないんだろう?』
日記を抱えながらにこにこと微笑んでいると、リドルくんが不満さを私に伝えるようにページを真っ黒く染めてしまいました。
クスクス笑いながら、羽ペンで数回、ぽたぽたとページにインクを落とすと、ページはまた真っ白く元通りになりました。
『何が面白いんだ』
「だってリドルくん、可愛かったんですもん」
『はぁ。僕だってこの日記に篭っていなきゃいけなくて退屈してるんだ。
唯一の楽しみがリクと話すことだけだなんて、最悪だね』
訂正です。可愛くはありませんでした。
「リク、起きてる?」
その時、ベッドの紗幕越しにハーマイオニーの声が聞こえました。
ビクッと肩を震わせた私が慌てて日記を閉じて枕の下に隠します。
「私、もう少ししたら出かけるわね。時間はかかるけど…就寝前には戻ってくるから」
「は、はい。わかりました」
ハーマイオニーはそう私に言ったあと、足音が遠ざかっていきました。きっと『ダンブルドア軍団』の会合に行くのでしょうね。
ドキドキとしながらゆっくりと日記を開きます。「突然閉じてごめんなさい」と書き込むと、リドルくんは不機嫌そうにお返事を映し出してくれました。
『君って本当に失礼だよね、リク』
私はもう1度謝罪を書き込んでから、フェインをちらりと見ました。彼はまだ寝たままでした。
「…私も、スネイプ先生の所に行ってきますね。休暇中の翻訳薬を頂いてきます。
フェインは置いていきますので、彼が起きたら、地下牢教室にいると伝えておいてください」
『ん。わかったよ』
日記にそう書き込んでから、眠っているフェインを軽く撫でてから、私は地下牢教室に向かっていきました。
12月に入ってから、ホグワーツ内はより一層ひんやりとしています。そして、その中でも地下牢教室は特に寒い場所でした。
私はローブをちゃんと着込んで、地下牢教室に入ります。中では暖炉が燃え上がっていました。
「スネイプ先生、いらっしゃいますか? 休暇中の薬をお願いしたいんですが…」
教卓に近づいて行ってもスネイプ先生の姿は見えませんでした。
首を傾げながらも、次に奥の薬草棚の方へ行くと、そこにスネイプ先生はいました。
私が向かっても、先生は私に気が付いていないようでしたので、私は控えめに声をかけました。
「あの、スネイプ先生?」
先生の手には何かの魔法薬の瓶が握られていました。ラベルを見るとそこには「真実薬」の文字が。
私の視線に気がつくと、先生はその瓶をおもむろに取り出し、その瓶を私の手に押し付けました。
「持っていたまえ」
「え?」
「君が保管していたまえ」
スネイプ先生は苦々しい表情を浮かべていました。呟かれた言葉を私が拾っていました。
「この薬の調合の手間とリスクを考えれば、容易に多用されるのは好まない」
声は少し怒っているようでした。私は少し状況を察した気がしました。
「誰かが『真実薬』を欲しがっているんですか?」
「………これは楽な薬だ。自分で考えることを放棄し、他人の口を割らせる」
「それは、アンブリッジ先生?」
私が問いましたが、スネイプ先生は静かに私を見下ろしているだけでした。
そして先生はすぐに私に背を向け、代わりにいつもの金平糖型の翻訳薬を出してくれました。
そのまま何も言わずに教壇に座る先生の側に駆け寄って、私は困惑の表情を向けました。
「でも、私が持っていてもいいんですか? ほら、私が使うかもしれないでしょう?」
「Ms.は自分で考えることを放棄するおつもりですかな?」
先生は、いつもと変わらない無表情だったハズなのに、私には微笑んでいるよう思えました。
「いいえ。
では、これは私がお預かりいたしますね」
私は満面の笑顔でそう言ったあと、いつものように大鍋へと手を伸ばしたのでした。
†††
その日の夜。私はルーモス(光よ)で生み出した杖明かりで、ずっと騎士団の過去の事件録を見返していました。
何度見ても過去の事件が変わることはありません。ですが、そこから何か掴めないかと、時間がある時には過去の資料を見返していました。
亡くなってしてしまった人達の名前を指でなぞり、私は何か戒めのようなものを感じていました。
セドリック先輩のあとを、誰も追うことがないように。
ベッドで横になりながら資料を眺めていると、私のすぐ横が重さで少し沈みました。
視線を横に上げると、実体化したリドルくんがベッドの縁に座っていました。
実体化している彼にもう驚きはしませんでしたが、ベッドの紗幕がちゃんと引かれていることを確認しました。
「どうしました? リドルくん」
「根詰めすぎは良くないよ」
リドルくんはそう言うと私の手を握ると、反対の手で羊皮紙を纏めてしまいました。私は頬を膨らませます。
「でも、もう少しですから…」
「駄目」
微笑んだままのリドルくんは、杖明かりを零している私の杖を取ると、纏めていた資料を『エバネスコ(消えよ)』で消失させてしまいました。
何だか雰囲気の違うリドルくんに、私は表情を変えます。どうしたんでしょう。
リドルくんは微笑みを浮かべたまま、私の髪を撫でてくれます。そして彼は私を見下ろしていました。
「……確かに君は未来を知っていて、君がしなくてはいけないこともあるだろう。
でも君は1人しかいないんだ。限界はある」
「…今日のリドルくん、なんだか優しいですね」
私の身体を心配してくれているのでしょうか。
軽く首を傾げると、リドルくんは少し驚いた顔をしていました。
少し黙り込んだ彼は、私の隣に寝転んで、杖明かりすら消してしまいました。
真っ暗になり、リドルくんの表情が見えづらくなります。
ですが、この距離では困ったような表情をしているリドルくんのその顔が、私には見えていました。
「…そりゃ、優しい真似くらいならいつだってできるさ。みんな、誰もが僕の優等生ぶりに溺れたんだから」
「さすが闇の帝王になっちゃう人ですね」
私はふふと笑います。リドルくんが不思議そうな顔をしました。
でも、私はリドルくんはとても優しい人だと思います。今もこうやって私を気遣ってくれているのですから。
横になったリドルくんを、私は抱き枕のようにぎゅうと抱きしめます。彼は鬱陶しそうにしていましたが、私の好きにさせてくれていました。
「ぎゅー、リドルくんぎゅー」
「暑いよ、リク」
そうは言いつつも、リドルくんはぽんぽんと優しく私の背中を叩いてくれます。
リドルくんの胸元に顔を埋めて、表情を緩めます。リーマスさんとは違ったその体温に、私は安心をしていました。
「ふふ、今日は優しいリドルくんに騙されちゃうことにしますー」
「酷いな、騙すだなんて」
リドルくんは確かに笑みを零していました。