「落ち着いたかね」
「………面目ないです…」
私はスネイプ先生の地下牢教室の中で、先生の出してくださった紅茶を両手で包んで飲んでいました。
今、フェインはいません。落ち込んでいる私を気遣ってくださったのか、スネイプ先生が手紙をフェインに持たせて、マクゴナガル先生への報告を代わりに済ませてくれているのです。
暖かいカモミールティーを飲みながら、私はぐすんと鼻をすすりました。
泣くつもりなんて全くなかったんですけれど。泣いてしまいました。
スネイプ先生が呆れた様子で紅茶に手を伸ばしていました。
「そんな調子で試験はどうする」
「試験は試験でちゃんと頑張りますー。魔法薬学は今のところ心配いらずです!」
「変身術は」
「………宿題をしないと。です」
わかりやすく肩を落とした私に、スネイプ先生は意地悪そうな笑みを一瞬浮かべた気がしました。
私はうーと唸ってから、足をばたばたと振りました。
「スネイプ先生の学生時代の『O・W・L(フクロウ)』の成績表とか残ってませんか?」
「何に使う」
「現在の魔法薬学の先生が、学生時代、どれくらいの成績だったのか気になります。参考までに」
じーっと見上げていましたが、スネイプ先生はじとと私を見ているだけでした。
「教師になるならば成績も必要だが、落ち着きと冷静さを持つことだな」
アンブリッジ先生とお話をしていた時のことを持ってくるスネイプ先生は、やっぱり意地悪な方です。
「……子供扱いしてません?」
「何を言う。子供が。
怒りに任せて杖を振るうことなどないよう」
「だって、あの時はすっごく腹が立ったんですもーん」
頬を膨らます私。リーマスさんを悪くいう方はどうあっても好きにはなれませんもん。
そう言いながらまた一口紅茶を飲んだところで、目の前でガチャンと陶器の割れる音が響きました。
見ると、スネイプ先生が静かに、耐えるように、強く左腕を押さえつけていました。
慌てて駆け寄って、私は歯を食いしばったスネイプ先生の横でおろおろと困惑し続けました。
強く抑えられた左腕に、重ねるように私の手を置きます。ひたすらに待っていると、やがて、静かにスネイプ先生が私の手を振りほどきました。
「あの…、先生…?」
「闇の帝王から収集がかかった。それだけだ」
スネイプ先生の左腕の辺りには闇の印が刻まれています。先生はそれを何度か摩ると、床に広がった紅茶カップを『レパロ(直れ)』で修復していました。
私は直っていった紅茶カップを見つめながら、表情を険しくさせます。
「行くんですか? ヴォルデモートさんの所に」
そう言葉を投げかけると、立ち上がったスネイプ先生は私を見下ろしたあと、口を開きました。
「我輩は闇の帝王のもとに行く必要はない」
「でも、どちらに?」
立ち上がったままローブを手にするスネイプ先生に、私は首を傾げます。
「……校長の所に。片付けたら出て行きたまえ」
そのまま地下牢教室から出て行ってしまうスネイプ先生。私の手元には冷えかけた紅茶が残っていました。
それを一気に飲み干して『スコージファイ(清めよ)』の呪文をかけて。私も地下牢教室から出ました。
アズカバンから、10人の死食い人が集団脱獄したというニュースが発表されたのは、その2日後でした。