そうして作業をしていくと、すぐに時間は流れていきました。
午前中の授業はありませんし、私はスネイプ先生と殆ど会話もなく、魔法薬の加工を続けていました。
もう少しで昼食の時間になるという時、突然、地下牢教室が揺れるほどの勢いで爆発音が響き渡りました。
咄嗟に立ち上がり、私の頭の上に手を伸ばしていたスネイプ先生が、杖を抜いて怪訝そうな顔をします。
変わらず、上の方から爆発音が響いてきます。フェインがするすると扉の方へと向かっていきました。
立ち上がり、フェインを追いかけようとする私を、スネイプ先生が制します。
「Ms.はここにいたまえ。様子を見てくる」
「でも」
「ここに、いろ」
そう指示をするスネイプ先生が階段を上がって行きます。すると、地下牢教室の扉を開いた瞬間に、間からバチバチと何色にも輝く花火が入ってきました。
目を丸くする私がその花火を視線で追います。スネイプ先生は地下牢教室の入口付近で上の様子を伺っているようでした。
「誰かが巨大な魔法仕掛け花火を爆発させたな」
私はてててとスネイプ先生の側まで駆け寄り、扉の隙間からそれを見つめます。
きらきらと派手に輝いているそれらを見て、私は表情を輝かせました。
「わぁー。綺麗ですね!」
「火傷をしたくないのなら、上には行かないことですな」
「でも午後の授業はどうします?」
期待するように先生を見上げる私。
口元に片手を追いやって、思案顔のスネイプ先生は、やがて空中に羊皮紙を生み出し、それに何かを書き込むと、足元にいたフェインに持たせました。
「これを大広間の掲示板の近くにいる人間に渡してきたまえ。
……午後にあった魔法薬学の休講の知らせが書いてある。この調子ならば午後に予定していた他の授業もあるまい」
ぱぁっと表情を輝かせて、両手を打ち鳴らす私。スネイプ先生は無表情のまま言葉を続けました。
「それと、次回までの宿題についてだ。マンドレイクの効果と、そのマンドレイク使う魔法薬をまとめたレポートを1m」
宿題との言葉にに再び表情を曇らす私。
そうですよね。スネイプ先生が普通に休講にするわけがありませんでした。休講になっただけでもびっくりですのに。
また教室に迷い込んできた小さな花火に、スネイプ先生は地下牢教室の扉をバタンと閉めてしまいます。
フェインはシューと一声鳴いてから、壁を伝って排気口からパイプの中に入っていきました。
フェインなら、火傷をすることもなく大広間までたどり着けるでしょう。
私は迷い込んできた2つの花火を視線で追いかけます。
青や赤や緑や黄色や、さまざまな色に変化する花火を見ながら、私はその輝きに表情を緩めていました。
「綺麗ですねぇ」
「せっかく作った魔法薬に引火されても困る。
Ms.課題だ。この花火を消してみたまえ」
鬱陶しそうに光を見たスネイプ先生がそう言いました。表情を険しくさせつつも、杖を抜き取る私。
杖を振るって、魔法薬を瓶詰めしていく先生が、いくつかのヒントを零していきました。
「この手の花火に『失神呪文』は危険だ。爆発の可能性がある。
『消失呪文』で消えるようにはなっていないだろう。最悪、消失させようとすると増えるやもしれん」
「『失神呪文』も『消失呪文』も駄目で………『スコージファイ(清めよ)』でどうにかなると思います?」
そう首を傾げながら先生に問うと、一瞬手を止めたスネイプ先生が呆れたような視線を向けました。
「それしか呪文のレパートリーはないのかね?」
「これが1番得意なんですもーん」
私が悩んでいる間にも花火は駆け回っています。ずっと見ていたい気もしますが、スネイプ先生が困っているみたいですしね。私はよし。と杖を構え直しました。
「『フィニート・インカンターテム(呪文よ、終われ)』!」
これでどうにかならなかったら次の手です! と、思っていた私でしたが、ビュンビュンと飛び回っていた花火は、ただの花火となり、ぽたりと机の上に落ちてきて、最後まで燃え上がると、そのまま燃え尽きてしまいました。私は表情を緩めます。
「で、できましたー!」
私はくるりと振り返ってスネイプ先生に満面の笑みを向けます。駆け寄った私はスネイプ先生を見上げました。
「ちゃんと上手く出来ました! 加点とかありませんか?」
「調子に乗るな。魔法薬とは関係ないことで加点は出来ませんな」
喜ぶ私の頭の上にコツンと瓶が乗せられ、私は慌ててその瓶を両手で受け取りました。落としたらまた減点されてしまいます!
その瓶を抱え直して、薬品棚に戻してくると、スネイプ先生が生徒用の机の上にサンドイッチを用意していました。
「昼食だ。どうせ大広間には行けまい」
スネイプ先生は何故か少々言葉を強くしてそう言いました。私は笑みを浮かべてお礼を言います。
席についてから、そういえば以前にもスネイプ先生はこうやってサンドイッチを用意していたことを思い出しました。
「スネイプ先生って、サンドイッチ好きなんですか? 以前もご用意していましたよね」
「………」
「私もサンドイッチ好きです。
ホグワーツのお料理はどれも美味しいのですが、日本人の私はやっぱり味が濃くて」
沈黙してしまったスネイプ先生に、私は首を傾げながら、にっこりと笑ってハムを挟んでいるサンドイッチに手を伸ばしました。