差し迫った試験の重要性を強調するかのように、談話室には魔法界の職業を紹介する小冊子などが積み重ねられ、そして掲示板には『進路指導』と書かれた紙が張り出されました。
個人別に時間を取られているその進路指導、私はハリーのすぐあと、月曜日の3時過ぎを予定されていました。

パンフレットを一通り見てからも、私は表情を暗くします。深い溜め息。
沢山の職業を見てみましたが、どれも強く関心をそそられるものがなく、そして、スネイプ先生の授業を受けるたびに、私も魔法薬学を教えたいという気持ちの方が強くなっていました。

ですが、私のそんな悩み事なんて放っておいて、月曜日の3時にはすぐに訪れてしまいました。
マクゴナガル先生の教室の前に立ち、控えめにノックをすると中からマクゴナガル先生のキビキビとした声が帰ってきました。

中に入ると、マクゴナガル先生はギッと鋭い視線で部屋の隅を睨んでいました。見るとそこにはアンブリッジ先生の姿。
驚く私。それによく見ると、マクゴナガル先生とアンブリッジ先生はつい数分前まで言い争いをしていたようにも思いました。

…私の前の生徒がハリーでしたものね。何もなければいいんですけれども…。

そんなことを思っていると、マクゴナガル先生は冷静に私に声をかけました。

「お掛けなさい。Ms.ルーピン」

私は指示通り、マクゴナガル先生と机を挟んで椅子に座ります。マクゴナガル先生は机に広がっている参考書を見せながら、さっそく私との進路指導を始めました。

「さて、Ms.ルーピン。貴女はここ数日で届いたパンフレットを見ましたか?」
「はい。パラパラとでしたが…」
「よろしい。その中で、ホグワーツ卒業後、就職したいと思えるものはありましたか?」
「………いいえ」

私は静かに答えました。マクゴナガル先生はひとつ頷くと、改めて私に質問しました。

「では、貴女は卒業後、何をしたいか、考えがありますか?」
「……………私、ホグワーツの教師になりたいんです」

そう答えると、マクゴナガル先生は少し驚いた表情をして、そしてすぐにいつもの真剣な顔つきに戻りました。
部屋の隅にいたアンブリッジ先生が、静かに私の背中を睨んでいるのにはもう気がついていました。

「ホグワーツの教師に。ちなみに、科目まで決まっていますか?」
「あの、その…『魔法薬学』に興味があって……」

その時、アンブリッジ先生が小さく咳を零しました。マクゴナガル先生はその咳が聞こえなかったかのように、黒い冊子を開いて情報を取り出していました。

「確かに貴女は「魔法薬学」の成績に不安はありません。
 スネイプ先生は『O・W・L(フクロウ)』で「О・優」を取ったものしか教えませんが、今の所は心配ありませんでしょう。
 ですが、貴女がホグワーツの教師を、私と一緒の職場で働くというのであれば、全体的な学力上昇を望みます」

私はその言葉を不安げに聞きながら、マクゴナガル先生に質問しました。

「教師になるための採用試験とかはあるのでしょうか?」
「……はっきり言ってホグワーツに採用試験はありません。ホグワーツでは教師を専任するために必要なのは、」

マクゴナガル先生は1度言葉を区切ります。そして、苦々しい顔をしながら続きを零しました。

「必要なのは、校長の指名だけです。
 私も指名を受け、今の職に就きました。
 闇の魔術に対する防衛術のように積極的に募集をかけることもありますが、基本は校長先生の指名を重要視しています」

そう苦々しく言うマクゴナガル先生。私の後ろで現・校長先生のアンブリッジ先生が座っていました。

今のままでいってしまうと、アンブリッジ先生の許可を頂かないと私は教師にはなれないのです。

そのアンブリッジ先生の声が私の背中に降りかかりました。

「ひとついいかしら?」

マクゴナガル先生は何も言いませんでしたが、アンブリッジ先生は言葉を零しました。
私はアンブリッジ先生の方には向かず、マクゴナガル先生を見つめていました。

「校長が指名したあと、次に出る教育令では魔法省の確認をしなくてはいけない制度になったのをご存知でしょう?
 魔法省では危険な可能性がある人物に、採用許可はおろしませんわ」
「この子のどこが危険だと?」
「寮監の貴女がMs.ルーピンの家族環境を知らないわけではないと思いますけれども」
「この子の父親が狼人間だということは、今、一切関係ありません!」

マクゴナガル先生の声が張られました。私は静かに前だけを見ています。両手を揃えて膝に置いたままの私は、2人の教師の会話を聞いていました。

「関係ありますわ。いつ狼人間になるかわからない人物は十分危険な可能性と言えますわ」
「Ms.ルーピンは狼人間にはなりません。この子の父親はしっかりしています!」
「半獣の行動はわからないでしょう?」
「ふふ」

思わず笑みを零した私に2人の教師が振り返りました。
私はにっこりと微笑んでマクゴナガル先生を見ました。笑みを浮かべたまま、私は言葉を続けました。

「先生。もし、マクゴナガル先生が教師を選ぶ権限があったら、私を教師に任命しようと思いますか?」
「………えぇ。すぐに、ひとクラスは任せられないとしても、数年後には貴女は立派な教師となるでしょう」

そう言ってくださったマクゴナガル先生に、私は嬉しさに頬を緩めます。にっこりと微笑んで、席を立ちました。

「マクゴナガル先生がそう思ってくださるのなら、頑張ろうと思います。次の『O・W・L(フクロウ)』では好成績を残そうと思います」
「私は貴女を教師に任命はしないわ! ここには既にスネイプ先生という有能は教師がいます!」
「アンブリッジ先生、ご存知ですか?」

私はやっとアンブリッジ先生の姿を見て、にっこりと笑みを返しました。

「『闇の魔術に対する防衛術』に任命なさった教師は1年と持たないんですよ? 先生もお気をつけてくださいますよう」

唖然と口を開くアンブリッジ先生。
そしてもう1度マクゴナガル先生を見たとき、マクゴナガル先生は満足そうに微笑んでいるようでした。合わせたようにマクゴナガル先生が話し出します。

「これで進路相談は終わりです。『O・W・L』の結果を楽しみにしています」
「はい。頑張りますね。ありがとうございました、マクゴナガル先生」

笑顔を浮かべた私は、呆然としたようすのアンブリッジ先生の横を通って、その教室を出て行きます。

教室の外で待機していたフェインを肩に乗せ、私は鼻歌交じりに廊下を歩いて行きました。
教師になるということをスネイプ先生以外の誰かに言えて、私はとっても満足だったのです。

肩に乗ったフェインに私は話しかけます。

「フェイン、私、将来、先生になるかもですよー?
 スネイプ先生と一緒に魔法薬学を教えるんです。きっと難しいでしょうけれど、難しい以上に楽しいし、達成感がありますよ、きっと!」

階段を下りて、2階に降り立ち、くるりと1回転します。

スカートの裾がひらひらと、はためきました。


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