女の人の、ベラトリックス・レストレンジの声が聞こえました。

「いいや、冗談じゃない。なんでヴォルデモートがこれを欲しがるんだ?」
「……不敵にもあの方のお名前を口にするか?」
「あぁ、僕は平気で言える。ヴォル――」
「黙れ!!」

空間に甲高い声が響きました。赤い光線が真っ直ぐに飛んできました。

「『ステューピファイ(麻痺せよ)』!」
「『プロテゴ(護れ)』!」

赤い光線が、私の生み出した盾の呪文で弾けます。マルフォイさんの抑えられた怒声が響きました。

「やめろ! ベラトリックス。
 …彼女はあの方の『お気に入り』だぞ」
「お気に入り? こんな小娘が?」

囁くような会話を死食い人の面々がしています。黒い影の何人かは、夏休みの終わりに開かれたパーティには出席していなかった人物なのでしょう。
私はハリーに一瞬目配せをしてから、ネクタイを解き、胸の上にある『黒い印』を死食い人の方々に見せました。

そこには変わらず、蛇の印が刻まれていました。

「なんでお前がそれを――」
「今だ!!」

ざわめきが死食い人の中に波のように走った一瞬、ハリーが叫びました。

「『レダクト(粉々)』!」

7本の呪文が一斉に棚に向かって放たれ、何百というガラス玉が割れて、真珠色の姿が空中に立ち上りました。
ガラスの中から出てきたその白い人影は何かを語り、そして霞となって消えていきます。

「逃げろ!」

ハリーの声が霞の中から聞こえます。私は走りながらも振り返り、後ろの人影達に向かって『スコージファイ(清めよ)!』と呪文を放ちます。
当たった何人かの人が、呻き声を上げているようでしたが、すぐに復活してしまうでしょう。この呪文では威力が足りないのです。

もっと、殺傷力のある技ではないと。

ハリーの背中を見失わないように駆け抜け、何か扉をくぐると、ハーマイオニーが『コロポータス(扉よくっつけ)』と扉を密着させました。
振り返って人数を確認しようとした私に絶望。ロンやジニーちゃん、ルーナちゃんがいないのです。

「きっと道を間違えたんだわ!」
「開いて!」
「駄目です! 今開けば、すぐに死食い人に見つかってしまいます!
 私が探してきますから、ハリー達はこのまま逃げてください」

私はスッと扉を通り抜けます。少し駆けていくとすぐに現れた死食い人に私は真っ直ぐに杖を構えました。

ヴォルデモートさんに教えていただいた、強力な攻撃魔法を杖に乗せて。

「『インセンディオ(燃えよ)』!」

杖から生み出された業火に、死食い人が飛び退きます。ですが、どうやら服に引火してしまったみたいで、炎が燃え盛り始めていました。
人を傷つけてしまったことに顔をしかめて、その場から駆け出す私。後ろからは、火傷を負って尚も私を追いかけてくる死食い人。

それに恐怖を抱きつつも、近くの扉をすうとくぐり抜けました。声が聞こえます。

「その女は放っておけ! 傷つけでもしたら、闇の帝王が黙っていないぞ!」
「あの女、俺を燃やしやがった! 丸焦げにしねぇと気がすまねぇ!」
「放っておけ!!」

私は一瞬身を隠してから、また駆け出します。

何枚かの扉をくぐると、真っ暗な部屋の中に沢山の惑星が浮かんでいる空間に出てきました。
床も天井も何もかもが真っ黒なそこは、自分が今どこにいるのか見失ってしまいそうな空間でした。

そこにいたジニーちゃん達に、杖を振り上げた死食い人4人。
私はその4人に向かって再び『インセンディオ(燃えよ)!』と呪文を唱えます。

號と燃え上がった死食い人に、恐怖を感じながらも私はジニーちゃん達を案内するかのように駆け出します。近くの扉を私は指さしました。

「こっちです!」

扉をあけ、雪崩込む3人。ちょうどそこにハリー達の姿があり、私はひとまず息をつきました。

「ロン! ジニー、みんな大丈、」
「ハリー」

ロンは力なく笑うと、ふらふらとハリーのローブをつかみつつ、がっくりと膝をついてしまいました。駆け寄る私がロンを見ると、口の端からタールのように黒い液体をこぼしています。
ジニーちゃんに振り返ると、彼女も辛そうな表情を零したあと、壁にもたれかかって踵を抑えていました。唯一無傷だったルーナちゃんが言葉を零しました。

「踵が折れたんだと思うよ。ポキッと言う音が聞こえたもン。
 ロンはどんな呪文でやられたのかわかんない……。だけど、ロンがちょっとおかしくなったんだ」

見ると、全員が全員、既に満身創痍でした。ハーマイオニーはネビルくんに支えられたまま身動き一つしていませんし、そのネビルくんもぼたぼたと鼻血をこぼしています。
ジニーちゃんは踵を骨折し、ロンは混乱しています。不安げに『予言』を握りしめているハリーと、ルーナちゃんが佇んでいました。


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