次に目を開けた時には、私は、バックビークの手当をしているシリウスのすぐ後ろに立っていました。

見慣れたその黒い姿に私はまたぼたぼたと涙が止まらなくなります。
私の気配に気がついたシリウスがバッと後ろを振り返り、驚きに目を丸くさせました。

「リク!? どうして…。その姿で……?」

私の身体はゴーストのように物や人を半透明になってすり抜けるようになっていました。

私は、『夢』を使ってしまったのです。

駆け寄ったシリウスが、涙を零す私の頬に手をかざします。シリウスは不安そうな表情を浮かべていました。

「どうした? リク? 何があった? 誰に、何をされたんだ…?」
「シリウス、」

私は嗚咽を抑えながら扉へと向かい、困惑しているシリウスがついてきていることを確認しながら、グリモールド・プレイス12番地の厨房へと入りました。

その中にはムーディ先生、トンクスさん、シャックルボルトさん、そしてリーマスさんが何か青い炎の前で険しい表情を浮かべていました。
入ってきたシリウスに、中にいたリーマスさん達が振り返ります。振り返って、シリウスの側にいる私の姿に全員が驚きました。

「リクちゃん!? どうしてここに」
『Ms.?』

青い炎から聞こえてきたのはスネイプ先生の声でした。

『大人しくしていろと……』

苦々しい声が青い炎から聞こえます。先生の言いつけをまたも守らなかった私は表情を暗くしますが、それどころではありません。

私は険しい表情をしているリーマスさんに駆け寄ります。
リーマスさんは私の頬に触れようとして、その傷だらけの手が私の身体を通り過ぎるのを切なそうに見ていました。

「リクちゃん。たった今、スネイプ先生から事情を聞いた。これから私達は魔法省に行く。リクちゃんは早く自分の身体に戻るんだ」
「……私も、お手伝いします」
「駄目よ、リク!」

青い髪をしたトンクスさんが不安そうに私のことを見ていました。

「その症状を間近で見たのは初めてだけど…、長く身体を離れない方がいいのは確かよ」
「……去年、私がヴォルデモートさんと『夢』であっていたとき、ヴォルデモートさんは2時間の制限をつけていました」

思い出すように語る私。ムーディ先生の魔法の目がぐるぐると警戒するように回っていました。
私はリーマスさんを真っ直ぐに見上げ、そして答えました。

「2時間は大丈夫なんです。きっと。
 私も、ハリーを助けます」

そして、シリウスを。

『……なんにせよ、時間はないですぞ』

漂っていた青い炎からスネイプ先生の声が聞こえました。
リーマスさんはもう1度私の頬に触れようとしましたが、それは叶わず、泣き出しそうに顔を歪めたリーマスさんは、ゆっくりと杖を抜き取りました。

「セブルスの言うとおりだ。行こう」
「俺も行く」

立ち上がったシリウス。騎士団員の誰もが静止の視線を向けましたが、私はシリウスの前に立ちました。

「…止めても、シリウスは行ってしまいますもんね」
「………おう」

私は微かな微笑みを浮かべます。シリウスは、絶対に守ってみせます。
カッカッと大きな杖をつくムーディ先生が扉の方へ向かいます。シャックルボルトさんと、トンクスさんがムーディ先生に続きましたが、リーマスさんは未だ不安げに私を見ていました。
その私は漂っている青い炎に視線を向けます。

「先生は?」
『…ポッター達は森へ向かっていった。一通り森を回る。……我輩が魔法省に行くことはできない』
「ヴォルデモートさんも、いるかもしれませんものね」

スネイプ先生の2重スパイという役割ができなくなってしまっては今後に支障をきたしますから。

私はその青い炎から視線を外し、隣に立っているリーマスさんを見つめます。
シリウスはリーマスさんを待っているかのように、扉の側で立っていました。

リーマスさんは何も言いません。私はじぃっとリーマスさんを見つめたあと、小さくぺこりと頭を下げました。

「先に行っていますね。リーマスさん」
「……気を、つけて」

今日がまるで満月の日のように、苦しそうなリーマスさんを置いて、私の意識がまた遠のくのを感じていました。


†††


視界に入ってきたのはずっとずっと高い棚に並ぶ、沢山のガラス玉でした。暗い部屋にガラス玉ばかりが集まるその部屋は、きっと神秘部の中なのでしょう。

そして私の数十メートル先には人影がいくつかありました。そこに駆け寄ると、真正面に黒い人影が現れ、人影の1つが話しだしました。

「よくやった。ポッター。さぁ、こっちを向きたまえ。
 そして、それを私に渡すのだ」
「渡してはいけません、ハリー」

私は何人かの身体を通り過ぎ、ハリーと黒い人影、マルフォイさんの間に滑り込みました。
驚くハリーは、1つのガラス玉を握っています。ヴォルデモートさんが求めている『予言』でしょう。

ハリーの後ろにはロン、ハーマイオニー。そしてジニーちゃん、ロングボトムくん、ルーナちゃんの姿がありました。

「リク、どうして…、シリウスはどこに」

呆然とそう言うハリーに、左側の黒い影から女の人の声が聞こえました。ぞっとするような残忍そうな声でした。

「ちぃっちゃな赤ちゃんが怖いよーって起っきして、夢が本物だって思いまちた」
「ハリー。今は逃げることを考えてください。全員、無事にここから脱出することを」

私は既に杖を構えています。ハリーが合わせるように杖を持つと、他の5人分の杖が持ち上がりました。
マルフォイさんの声が暗い空間に静かに響きました。

「予言を渡せ。そうすれば誰も傷つかぬ」

私達はゆっくりと詰め寄ってくる死食い人の面々に杖を向けます。私はハリーの真正面に立ったまま、マルフォイさんを睨みつけていました。
ハリーが私達にだけ聞こえるように声を低くしながら、ささやきかけました。

「棚を壊すんだ…。僕が『今だ』って言ったらだよ」

ハリーの声が伝令されていきます。私とハリーで死食い人達の意識を逸らすことに集中していました。

「これは何なんだ?」
「冗談だろう? ハリー・ポッター」


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