意識が遠くなりかけます。痛い痛い。身体中が痺れています。冷たい寒い痛い。
(リク)
その時、近くで、本当に近くで小さく私を呼ぶ声がしました。
「…? リー、マスさん…?」
「リクちゃん?」
こんなにも側にいるリーマスさんよりもまだ近くから声がします。私は表情を歪めました。私を呼んでいるのは誰でしょう?
意識が遠のきます。リーマスさんの不安げな表情がどんどん見えなくなります。
私は、また、何も出来ずに…。
そう思いながら、私の身体はリーマスさんの身体をすり抜け、意識は消滅しました。
†††
次に気がつくと、私はホグワーツに戻ってきていました。
ホグワーツの廊下は静けさが広がっています。そして変わらず私を呼ぶ声がします。
その場所へ近づくと、廊下でしゃがみこんでいるドラコくんの姿がありました。ドラコくんが何度も私の名前を呼んでいました。
「リク! リク!」
「ドラコくん?」
声に振り返ったドラコくんが目を丸くさせます。ドラコくんはよく見知った姿を抱えていました。
え。あれ?どうして。
「私が、寝て…?」
蒼白の表情で口の端から血を流す私の身体を、ドラコくんがしっかりと抱えていました。
見下ろす私の身体は半透明の銀色の身体をしていました。
「リク!? なんで…!?
スネイプ先生! リクを助けてください!」
ドラコくんの声に気がついたのか、スネイプ先生が廊下の端から駆けてきました。
2人の私の姿を見ると、スネイプ先生は表情を歪めるとただ一言だけ呟きました。
「……『剥がれた』のか」
肉体と、魂が。
半透明の私は呆然と自分の身体のすぐ側に膝をつくと、不安げにスネイプ先生を見上げていました。
「…私…死んでしまった、んですか…?」
「……説教や減点はあとだ。
肉体と魂がここにあるのならまだどうにか出来る筈だ。
ドラコ。手伝え」
「は、はい…」
私はただ呆然とスネイプ先生とドラコくんが作業をするのを見ているだけでした。
あんなに痛かったはずの痛みはもうありません。ただ、身体は氷を飲み込んでしまったかのように冷え切っていました。
私は、ゴーストになってしまったんでしょうか……?
………でも、それでも、いいのかもしれません。
シリウスは、もう。
スネイプ先生は『私』の身体をドラコくんから受け取り、私の鞄から『透明な水のような薬』を探り当てました。
先生の表情がまた一瞬歪みます。ですが、やがて静かに先生は『私』の口を開かせました。そして流し込まれるその液体。
絶叫。
零れたのは隣に佇んでいた私の口からでした。驚き飛び上がるドラコくんのすぐ横、私は抑えきれない傷みや苦しみに耐えられず悲鳴を悲鳴が痛みを痛くて助けて嫌だもうやめて助けて!!!
(…………け…)
苦しみで私の口から溢れる悲鳴の間、また声が聞こえ出していました。
(…き…開け…)
声は私の胸元に入れられた刺青から滲み出ているような気がしました。
(…記を開け…)
この声は……ヴォルデモートさん?
(日記を開け)
痛みが一瞬でなくなりました。スネイプ先生が私の口から薬を離したのです。
短い呼吸を繰り返した私は、震える手で『私』の身体に触れ、ローブのポケットから真っ黒い日記、リドルくんを引っ張り出しました。
困惑するスネイプ先生にそれを手渡した私は、ふらふらと歪む意識の中、その黒い日記を適当に開きました。
日記のページに広がる黒と、その中に浮かぶ白文字。
『リクの馬鹿』
「リドルく、ん…」
呟く私の口。日記から淡く黒い光が溢れ出します。黒い光は私と私の身体を包み、一瞬緑色に燃え上がったかと思うと、冷たかった私の身体を徐々に温めていきました。
表情に驚きを増すドラコくんと、険しい顔をしているスネイプ先生。
そしてやがて、真っ白いページに戻った日記に、いつも通りの黒い文字が記されました。
『おやすみ。リク』
また意識が飛び去ります。