次の日。私はドラコくんがいる医務室に向かっていました。幸い、怪我は的確な処理がされていて、ドラコくんは今日の夕方くらいには退院出来ると聞いていました。

「ドラコくん…?」

控えめに声をかけると、ドラコくんはベッドの上で身を起こしていました。幾分顔色がいい彼に、私はほっと安堵の溜め息をつきます。

「来てくれたのか。もう退院するのに」
「それでも、夕方まではまだ時間がありますよ。
 体調はいかがです?」
「大丈夫。見た目よりかは酷くない」

ドラコくんはそう言って私を安心させるために微笑みを浮かべました。私ははにかみ返しながら、ベッドの近くに椅子を引っ張ってそこに座りました。
彼は、お見舞いの品でしょう、ベッドサイドに置いてあった高級そうな焼き菓子を私の手に押し付けます。私はお礼を言いながらそれを受け取り、何の気なしに言葉をかけました。

「ハリーは今学期中一杯、スネイプ先生に罰則を与えられていましたよ」
「あぁ、噂は聞いている。次のクィディッチに出られないらしいじゃないか」
「え? そうなんです? …あ、次の土曜でしたっけ。決勝戦」

はたと私はそれを思い出します。スネイプ先生もなんという時間帯を罰則時間に指定したんでしょう。
むーと頬を膨らませていると、ドラコくんが静かに私を見つめているのを感じていました。私はきょとんと首を傾げてドラコくんを見つめ返しました。

「どうしたんです? ドラコくん」
「なんでもない。リクは…、夜中にベッドを抜け出したりしないだろう?」
「し、しませんよ」

私の頭の中にはこの前リドルくんと天文台の上まで登った記憶が浮かんでいました。ですが、普段はきちんといい子にしてますもんね。

私が一瞬戸惑いつつもそう答えると、ドラコくんは1人で何か納得したかのように小さく頷きました。私は首を傾げます。

「急にどうしたんです?」
「いいや。リクはきちんと校則を守れよ」
「ドラコくんもですよ。悪いことはするものではありません」

ぷくと頬を膨らませてドラコくんを見つめると、彼は浅い微笑みを浮かべました。

「もちろん」

校長先生の殺害を命じられているドラコくんは気丈に微笑んでいました。私は表情を暗くさせて、掛布の上に置かれている彼の手に自分の手を重ねました。

「………無茶をしないでくださいね。ドラコくん」

私の必死のお願いに、ドラコくんは何も返事はせずにただ小さく頷くだけでした。


†††


「今年は4位が確定しちゃいましたね」

私はDADAの教室で、教材が並んでいる本棚を片付けながら誰に視線を合わせることなくそう言葉をかけました。
後ろから強く感じるようになった視線に、少しの恐怖を感じながらも、両手に抱えた本をABC順に本棚に戻していきます。

今日。グリフィンドール対レイブンクローのクィディッチの今年度最後の試合があったのです。

罰則を受けていたハリーが出られずに、グリフィンドールの面々は優勝が遠ざかってしまったかと悲嘆していましたが、代わりにシーカーになったジニーちゃんの活躍のおかげでグリフィンドールは見事に優勝。再び優勝杯を手にする事ができたのです。
結果、レイブンクローが2位、ハッフルパフが3位、スリザリンが4位となったのです。

談話室内で行われた優勝記念のパーティ内で何故かジニーちゃんとハリーがお付き合いを始めることとなって、喧騒の片隅にいた私は彼女達の熱いキスに顔を真っ赤にさせたのでした。

私はその時の事を思い出しつつ、ちらりと後ろを見ます。後ろの教卓に座っているスネイプ先生は私の事を不満げにじーっと見つめていました。
その視線に怯えつつも私は本を全てしまいきってから、私を睨んでいるスネイプ先生に口を開きました。

「スネイプ先生って意外とクィディッチ観戦していますよね」
「寮の点数に大きく関わってくるからな」
「問題はそこでしたか。今年も寮の点数でもグリフィンドールが優勝しますからねー」

ふふと笑ってそう言うと、スネイプ先生は呆れたような表情を浮かべて、私に走り書きのメモを差し出しました。駆け寄って受け取ります。
そこには数種類の薬草の名前が書かれていました。私は首を傾げます。

「この薬草を…、地下の研究室から持ってくるんですか?」
「珍しく察しが宜しいことで」
「珍しくって言わないでくださいよー」

むすと頬を膨らませて泣き出しそうな顔を見せると、スネイプ先生は少しだけ驚いた表情をしたかのように思えました。

私はすぐににへらと笑うと、渡されたメモを見ながらぺこりと一礼して、DADAの教室を抜けます。
この教室から地下まで行くには結構な距離があります。ふぅと息をついて私は軽快に階段を下り始めました。


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