階段の手摺を掴んで、再度下から聞こえた爆音に目を向けます。

「ロングボトムくん?」

慌ただしい声の方を、目を凝らして見つめると、カロー兄妹から必死に逃げるロングボトムくんの姿を見つけました。

顔をしかめながら彼らを見ていると、あろうことか緑色の死の閃光がロングボトムくんに向かって飛んで行きました。私は思わず息をのみます。
それを間一髪で避けるロングボトムくん。アミカスさんの怒りの声が廊下に響き渡りました。

どういうことでしょう。今までも行き過ぎた体罰は確かにありました。それでも生徒を殺そうとすることなど、ありませんでした。
状況が変わったとでもいうのでしょうか。私は拳を痛いくらいに握り締めて、騒ぎの方へと向かい出します。
リドルくんが慌てて私を引きとめようとしました。流石のリドルくんも緑の閃光が飛び交う中に私を行かせたくはないのでしょう。

「ちょっと、リク!」
「危険は承知です」

止めようとするリドルくんの手を振りほどいて私は駆け出していました。
そして廊下から飛び出してきたロングボトムくんの服を思い切り掴み、彼を無理矢理引き止めました。

「わぁ!?」

驚きの悲鳴を上げるロングボトムくん。私は彼の顔を覗き込んで、カロー兄妹が追いつく前にと、口早に言葉を投げかけました。

「『必要の部屋』へ向かってください。きっとホグワーツはロングボトムくんを助けてくださるはずです」

ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられるのですから。
私は彼に口早にそう伝えたあと廊下に向かって杖を振るい、大きな壁の幻覚を生み出しました。
長く持つものではありませんが、一瞬だけでも追っ手を振り切れればいいのです。私の後ろではロングボトムくんが困惑の声を投げかけていました。

「リク、ッ? どうして――」
「急いで」

私は短くそう答えて、まっすぐ前を見ます。私からは遠くの廊下が歪んで見える程度ですが、反対側から見ればここはただの壁に見えるでしょう。
ロングボトムくんが駆けていく気配を背後で感じていると、真正面からカロー兄妹達が走ってきました。
大丈夫。大丈夫。彼らから見ればここはただの壁に見えるはずなのですから。

「どこ行きやがったあの糞餓鬼!!」

案の定、アミカスさんは再び怒声を上げてきょろきょろと左右を見渡していました。杖を握る手にも思わず力が篭もります。彼らが早くこの場から去ってくれることだけを願って、杖を掲げ続けます。
すると、カロー兄妹のさらに後ろからゆっくりと歩み寄るリドルくんの姿が見えました。一瞬リドルくんと視線があったような気がします。リドルくんはこの壁の幻影を見抜いているのでしょうか。

「騒がしいな」

リドルくんは少しだけ不満げにそう呟きました。バッと振り返ったカロー兄妹が2人とも一斉にリドルくんに気が付いて、そして頭を下げます。
アレクトさんが深々と頭を下げたまま、恐る恐るといった風にリドルくんへ質問します。

「すみません、我が君…。ここら辺でロングボトムの餓鬼を見かけませんでしたか」
「見ていない。……なんだ、お前達、僕に人探しをしろと?」

言葉ともにリドルくんの目が爛々と赤く輝きます。アレクトさんは急いで首を左右に振って、殺気すら飛ばしているリドルくんへと媚びるような笑みを向けました。兄のアミカスさんが再び頭を下げて、妹のアレクトさんの腕を引っ張っていきます。
リドルくんはつまらなそうに立ち去っていくカロー兄妹の背中を見つめていました。


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