一週間経つと、ハリーも退院をして一緒に授業を受けていました。
次のDADAの授業はリーマスさんでしたので、みんな一息ついていました。
そして口々にスネイプ先生への不満を投げかけます。
「代理なのに宿題も出したんですよ!」
「え。そうだったんですか? ハーマイオニー。私それ知りません」
「リクは飛び出していったからね」
「リクちゃん。私、それ聞いてないよ? この前の授業はサボったのかい?」
前を向くと先生ではなく、父親な顔をしたリーマスさんがいました。
そういえばリーマスさんは何も聞いてはこなかったので、私も何も言っていないような。
にっこり笑うリーマスさんがなんだか怖くて私はハーマイオニーに身を寄せました。
「リーマス先生、そのお話は後で!」
「リクは居残り」
「は、はーい…」
クスクスと笑うクラスを見渡したリーマスさんが、さて。とにっこり笑いました。
「私からスネイプ先生にお話しておくから。レポートは書かなくてよろしい」
「そんな。私もう書いちゃったのに!」
流石ですハーマイオニー。と感嘆の拍手を送りながら、誰にも気づかれないように俯きました。
ということはもしかしたらもう、ハーマイオニーはリーマスさんの正体に気がついているのかもしれないのです。
少しの不安を感じながらも、久しぶりのリーマスさんの授業はやっぱりとても面白いものでした。
ピンキーパンクと呼ばれる妖精の授業を受けてから、私は授業後もこの教室に残っていました。
隣にはハリーもいました。リーマスさんが引き止めたのです。
私はピンキーパンクの入った箱をしまうお手伝いをしながら、ハリーとリーマスさんの会話を聞いていました。
「試合のことは聞いたよ。箒は残念だったね。修理することはできないのかい?」
「いいえ。あの木が粉々にしてしまったので」
暴れ柳のことです。リーマスさんが短く溜め息をつきました。
「あの暴れ柳は私がホグワーツに入学した日に植えられたんだ。箒などひとたまりもないだろうね」
「先生は吸魂鬼のこともお聞きになりましたか?」
「あぁ。聞いたよ。あんなにダンブルドアが怒ったのは誰も見たことがないと思うね。
吸魂鬼たちは日増しに落ち着かなくなっていたんだ。
多分ハリーは吸魂鬼が原因で落ちたんだね」
「はい」
ハリーが少し悩んだあと、リーマスさんをもう1度見つめました。
「あいつらが、吸魂鬼がそばによるとヴォルデモードが僕の母さんを殺した時の声が聞こえるんです」
それを聞いてリーマスさんが深く黙り込みました。
ハリーのお母さんは、リリーさんはリーマスさんの友人でもあったのですから。
それを知らないハリーが悔しそうにこぼしました。
「吸魂鬼を倒す方法はないんですか?
ルーピン先生やリクはホグワーツ特急の中であいつらを追い払いました!」
「それは、防衛の方法がないわけではない」
「どんな防衛方法ですか? 教えてくださいませんか?」
言いよどむリーマスさんにハリーがお願いしました。
思いつめるハリーの表情を見て、リーマスさんが迷った様子で言いました。
「そうか、なんとかやってみよう。だが、来学期まで待たなきゃならないよ。
休暇前にやることがあってね。
リクも覚えたてだけど、十分に使えている。リクから予習してもらえるかい?」
「はい。
お願いできる? リク」
「もちろん。喜んで。
私でできることならお手伝いしますよ」
振り返ったハリーに私はにっこりと笑いかけました。
片付けが終わったリーマスさんが次に私を呼びました。
「それで。授業をサボっていたんだって?」
「す、スネイプ先生が意地悪したからですっ。ね。ハリー」
リーマスさんの笑顔がなんとなく怖くて、私はハリーの背に隠れながら言い訳をしました。
ハリーも苦笑をしながら私をかばうようなことを言ってくれました。
「スネイプがリクを泣かせたんですよ」
「泣かされたわけじゃないですけど…」
そのあと、リーマスさんに泣いていたところを見ていただけに私は恥ずかしくなってそっぽを向きました。
リーマスさんはにっこり笑ってから、私とハリーにいつもくれるチョコレートを差し出してくれました。
首をかしげながら私達は首をかしげます。リーマスさんは全く怒ってはいないようでした。
「リーマスさん、怒っては…?」
「怒ってなんかいないよ。私も学生時代はサボってばっかりだったからね。
なんといっても周りの友人が不真面目なのばかりでね。
でもあんまり多かったら駄目だよ?」
「…はい! …でもどうして居残りだなんて?」
「リクちゃんを困らせて見たかったんだよ」
笑うリーマスさんに私も頬を緩ませて、次の授業のために。とハリーと一緒に教室を出ました。
何度か振り返りながらハリーが呟きます。
「……ルーピン先生って怒ったら怖そうだね」
「そうですか? …確かににこにこ笑いながら怒られるのも嫌ですけどね」
私が頬を抑えてにこにこしていると、ハリーは私に苦笑を返しました。
†††
12月に入り、クリスマス休暇にはハーマイオニーもロンも残ることに決まりました。
今年はリーマスさんもいるので、私もクリスマス休暇をホグワーツで過ごすことになっています。
そして今年最後のホグズミード行きが丁度、クリスマス休暇前に決まりました。
「クリスマス・ショッピングが全部あそこで済ませられるわ」
喜ぶハーマイオニーの横、ハリーはやっぱり寂しそうでした。
「リクは今回も残るの?」
「………ごめんなさい、ハリー。私、友人にお使いを頼まれていて…」
言葉を濁すと、ハリーは「気にしないで」と笑います。うぅ、罪悪感。
私はシリウスにお使いを頼まれていたのでした。
箒を無くしたハリーのために、シリウスが箒を贈りたい。と。
それで、身動きの聞かないシリウスの為に、私が買いに行くことなったのです。
誰にもバレないようにお買い物出来るでしょうか? いや、注文書をふくろう事務所に持っていくだけですけどね。
ロンとハーマイオニーと一緒にホグズミード行きの汽車に乗ったあと、ホグズミードでお別れしました。
少々迷いつつも、ふくろう事務所までたどり着くことができました。
注文書を受付に渡して、無事お使い完了です。
これで、クリスマスにはハリーの元に箒が届くでしょう。
ついでにリーマスさんやハリー達のプレゼントを選んで、購入。
荷物を抱えて、さらには寒さに凍えそうになったので、私は『三本の箒』を目指しました。
入るときに、丁度ハグリッドさんやマクゴナガル先生達とすれ違いました。
「リク!」
ロンの声です。振り返ると、ロンとハーマイオニーがバタービールを飲んでいました。
私も2人の元へ駆け寄ると、足元にハリーが隠れているのを発見しました。
「ハリー? 許可をいただけたんですか?
………ハリー?」
表情を凍らせたままのハリーを覗き込みます。暗い顔のままのハリーに私は、ロンとハーマイオニーを交互に見つめました。
「どうかしたんですか……?」
「…………シリウス・ブラックは僕の名付けの親だったんだ」
口を小さく開いたハーマイオニーより先に、ハリーが答えました。
私はじぃとハリーを見つめます。
ほとんど意識が無いようなハリーの手を私は握りました。
その手は強く、固く握り締められていました。
「シリウス・ブラックのせいで、僕の、父さんや母さんは死んだんだ」
呟いたハリーの言葉が痛く、痛々しくて、私も表情を曇らせました。
シリウスは、悪くないのに。
弁解もすることのできない私は図々しくも胸を痛ませていました。
†††
次の日。ホグワーツはクリスマス休暇に入りました。
まだ眠っていたハーマイオニーにベッドの横に置き手紙をしてから、私はシリウスの所へと向かっていました。
誰にも見つからないように廊下を進んで、誰にも見つからないように禁じられた森に入っていきます。
「シリウス。いますか?」
湖の近くに向かうと、フェインが私の足元に這い寄ってきました。
フェインを抱えキスをしてから、洞穴に入っていきます。中ではシリウスがまだ眠っていました。
が、私が行くと、ゆっくりと目を開けました。起こしてしまったようです。
食べ物の入った鞄を置いて、私は近くの石に腰掛けました。
「ごめんなさい。来るのが早かったですね」
「リクか。いや、大丈夫だ。
でもリクもいいのか? 休暇に入ったのでは? ゆっくり寝ていてもよかったのに」
「……。昨日、ハリーがシリウスが名付けの親だということを初めて知ったんです。
それと、世間のシリウス・ブラックの印象と。
あまり、シリウスの悪いことを聞きたくないので、みんなが起きる前にここに」
私の言葉に、何かを感じ取ったのか、シリウスは私の頭をがしがしと落ち着かせるように撫でてくれました。
「シリウスは何も、悪くないのに…」
「仕方がない。
……早く、ピーターを捕まえないと」
囁くシリウスに、私はこくんと頷くだけに留めました。