私は夢を見ていました。

今日はいつもとは少しだけ雰囲気の異なった夢を、見ていました。

「ふふ、あ、待って、待ってください」

目の前にいたフェインより1まわりほど大きなヘビは私の姿が見えているみたいでした。

いつもの綺麗な風景ではなく、今日は廃墟のようですがお城みたいな家の中でした。
私を見ながら進むそのヘビを四つ這いで追いかけていました。

捕まえようとしても、私の身体は透けて通り抜けてしまうのですが、ぺたぺたとその姿を追いかけます。

私のフェインがもちろん1番可愛いヘビですが、この子も負けず劣らずの美人さんです。

ヘビはするりと扉の隙間をくぐって、暖炉の前で蜷局を巻きました。シャァシャアと何度か声を上げています。

ヘビのすぐ横まで行き、笑いながらそこに座ります。その子の頭を撫でようと手を伸ばした時でした。

「貴様、何処から入った?」

突然聞こえた声に身体が震えます。

部屋の中には誰もいないと思っていたのに後ろから声をかけられたのです。

振り返るとそこには大きめのソファ。
誰もいないと一瞬思いましたが、そこにうずくまるように、皮膚が焼け爛れた切れ目の赤ちゃん? がいました。

(あ、やばいです)

直感的にそう思いましたが、その鋭い視線で見つめられて、私の身体は固まってしまいました。
しいていうなら、ヘビに睨まれたカエル状態。

「何処から来たんだと聞いている」
「わ、私、えっと、お邪魔してます」

ホグワーツから! と言える訳もなくぺこりと頭を下げました。

目の前のお方からの舌打ち。続いて聞こえるシューシューという声。ハリーと同じパーセルマウスです!

すると私の横にいたヘビがその長い尻尾を振り回して、その尻尾が何度か私の身体を通り抜けていきました。
痛くは無いのですが、お腹を通り抜けていく尻尾に違和感。

「や、いやですよ。ヘビちゃん、ストップ、ストップしてください」
「ゴーストか」
「えと、生きてはいますよ。夢を見ている間だけ魂が出ちゃうみたいで…?」

動きを止めたヘビが不思議そうに(怪訝そうに?)私を見ていたので、頭を撫でるように手を乗せました。
目の前の彼も怪訝そうに私を見ています。

「なんだ。『剥がれかけ』のマグルか。その割にはやけに落ち着いている…。
 俺様の姿をどうとも思わないのか」

映画で1度見ましたとは言えずに私は曖昧に微笑み、頷きました。

確かに喋る赤ちゃんも、その焼け爛れた皮膚も切れ目も、怖いと思わせるには十分な要素です。
少なくとも見た目はムーディ先生よりも怖いです。

ですが、この威圧的な感じや見下した話し方は、誰かに似ていて何だか懐かしかったのです。

もういなくなってしまった私の友人に似ていて。

黒い日記の友人に似ていて。

私は思わず、そのソファに近付き、彼へとゆっくりと手を伸ばしていました。

「あの…、大丈夫ですか? 痛くないですか?」
「マグルが俺様に触れるな」
「残念ながら触れられはしませんよー。
 あとマグルって呼ばないで下さい…」
「……………ホグワーツの生徒か?」

え、えー? な、なんでわかったんですかっ。

表情には困惑を出さないように、私は首を傾げました。

「な、なんでですか?」
「『マグル』の言葉に疑問の声を上げない。ということは魔法族だ。
 さらにお前の見た目はどう見積もっても10代で、ホグワーツの生徒かどうか鎌をかけた。
 そしてお前の表情はわかりやすい」

鼻で笑う彼。私は頬を膨らませてそっぽを向きました。続けて彼はいくつかの言葉を出してきました。

「ハッフルパフか?」
「スリザリンです」
「違うのか。スリザリンではない…。ではグリフィンドール寮生だな。」
「話聞いてます? レイブンクローなんですよ、私」
「馬鹿面が何を。
 で、何年だ。1年生か?」
「失礼な。4年生ですよ!」
「グリフィンドール、4年生。ハリー・ポッターと同じだな」

なにこの人怖いです! ハリーまで探り当てられてしまいました。
8割方私が悪いので彼の視線を逃れて背を向けました。

揺れるヘビの尻尾を追いかけ遊びながら彼の言葉をごまかしました。ごまかせてはいませんけれど。

「名は?」
「キャサリンです」
「ナギニ、食え」
「シャー」
「チッ…剥がれかけとは厄介な。透けてるのか。
 答えろ日本人。せめて日本名を」
「じゃあ花子です」
「じゃあとかいうな、じゃあとか」

あははは。笑いはじめた私に彼は不機嫌そうな表情。
凄くないですか私。天下の闇の帝王との会話が楽しいと思えるだなんて!

「冗談です、私、リクといいます。
 貴方とこの子は?」
「……お前になどは名乗らない」
「えー、狡いです。教えてくださいよ」

知ってますけどね。と、内心にっこりしながらソファのひじ掛け部分に頭を乗せました。
私が両手で抱えられそうなくらいの彼に視線を合わせます。

彼は嫌悪を込めた瞳で私を見下ろしていました。

「俺様を知っているな、お前」

あぁ、彼に隠し事は出来そうにありませんね。

「やっぱりヴォルデモートさんには敵いませんね、本当」

にっこり笑って私の意識は目を覚ましました。


†††


新学期が始まって、授業が始まりました。

昨日の夕食を一切食べなかったハーマイオニーは、朝食は一転してたくさん食べてくれました。
そのことに安心したのも束の間、休み時間など少しの時間を利用して図書室に篭るようになってしまいました。

また別の不安を抱きながらも、ハグリッドさんの久しぶりの授業に私達は頬を緩ませました。

この授業はいつもスリザリンとの合同授業でしたが、まだグリフィンドール生しかいません。
ハグリッドさんはスリザリン生を待つことを提案しましたが、その足元にある木箱を早く見せたくてうずうずしているようでした。

ローブの中に入っていたフェインが警戒するように声を上げているのは聞こえないふりですよ。

ハグリッドさんが楽しそうということはハリー達にとっては危険なことが多いので油断は禁物です。

「ハグリッドさん、この箱に入っているのは何ですか?」

気になった私は生徒全員の気持ちを代弁するように聞きました
ハグリッドさんはとっても楽しそうに微笑んでいます。

「こいつか? 『尻尾爆発スクリュート』だ!」
「え。爆発…?」
「ギャーッ!」

悲鳴が聞こえました。

振り返ると、ブラウンちゃんが悲鳴をあげて飛び退いていました。

「わぁ、可愛いですねぇ」
「そうだろう? リク」

箱の中には体長は大体15、6cmぐらいで殻を剥かれた海老みたいな形をしたものが入っていました。
胴体は青白くぬめぬめしていて、脚が色んな箇所から出ています。
頭らしい頭はなく、口の場所もわかりません。特徴的な匂いがしました。

時折、尻尾のような場所が花火のように爆発しています。

「うーん、この子達、顔はどこでしょう?」
「……シュウシャウ」
「リク、フェインが止めてるよ…。結構必死に止めてるよ」

伸ばそうとした手に絡み付くフェイン。彼の表情は真剣です。私は大人しく手を引きました。

「今孵ったばかしだ。
 お前達がこいつらを育てるプロジェクトをしようと思っちょる!」
「それで、何で我々がそれを育てなくてはならないのでしょうね」

ドラコくんの声が聞こえました。少し遅れていたスリザリン生が合流したのです。

「こいつらは何の役に立つんだ? 何の意味があるんだ?」
「マルフォイ、そいつは次の授業だ。今日はみんなで餌をやるだけだ」

ハグリッドさんはそうぶっきらぼうに答えました。スリザリン生はしかめた顔をしていましたが、渋々とさまざまな餌を取り始めました。

私は1人頬を緩めています。

「楽しそうですねぇ」
「リク、ちょっと静かにしてて」

両手を合わせてうきうきとしていると後ろからハーマイオニーに押さえられてしまいました。
私とハグリッドとは反対に生徒全員は嫌そうな顔を変えませんでした。

「面白そうだろ?」
「はい」

私しか答えませんでした。

作業用の手袋をつけて餌に手を伸ばします。放されたスクリュートはわらわらと私の回りに集まっていました。

「ジャーッ」
「……なんか僕、フェインが可哀相になってきた。こっちにおいて」

フェインがそそくさとハリーのローブへと入っていってしまいます。
そんなにスクリュートが怖かったでしょうか?

餌を小さくしてから渡すと、スクリュートはグーグーと鳴き声を上げながらも美味しそうに食べていました。
1匹に餌を上げて頭?を撫でていると、隣のロンの子が私の側に近寄ってきました。

ロンがぐっと親指を立てました。

「よし。そいつはリクに任せた!」
「ロン、ちゃんと育てないといけませんよ」
「いやぁ、リクの動物に好かれるフェロモンが役に立つとはー」

ロンを羨ましそうに見つめる目が数箇所から上がっていました。

「リクだったらドラゴンでも懐きそうだね」

からかうようなロンの声に私は「ドラゴン! 素敵ですね!」表情を輝かせましたが、フェインがハリーの元で悲鳴を上げているのに気が付き、少し黙りこみました。


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