夕食の時間となりました。

ハリーやロン、ハーマイオニーとは違う教科を選択していたので、私は少し遅れてから大広間に向かっていました。

走って階段を駆け下りると、突然バーン!! という大きな音が聞こえてきて思わず飛び上がりました。

肩に乗ったフェインと顔を見合わせます。

「何かあったのでしょうか…?」
「シュー」

小さく呟くと、フェインは私の肩を滑り降り、先に騒ぎの中心へと向かっていきました。

危険かどうか先に見に行ってくれたのでしょうが、城内をヘビが単独で這っていたら、それはそれで大変な問題になります。慌てて私も追いかけました。

今では2回目の大きな音が聞こえてきます。

大広間に繋がる玄関ホールへと飛び出すと、フェインの頭を越え、私の胸元に何か真っ白いイタチ? が飛んできました。

ぎゅうと受け取って何事かと視線を上げると、先にはムーディ先生の姿が。
私は何かの本能的にそのイタチを、ムーディ先生から遠ざけるように抱え込みました。

「ムーディ先生、動物は虐待しちゃいけないんですよ!?」
「虐待などではない、教育だ」
「ムーディ先生!! ムーディ、それは生徒なのですか?」

その時現れたマクゴナガル先生が叫びながら杖を取り出しました。
再び、大きな音が鳴り、今までイタチがいた場所になんとドラコくんが姿を現しました。

ドラコくんを抱きしめているような形になった私はびっくりしてぴょんと彼から離れました。

そういえば映画でもそんなシーンがありましたね!!
すっかり忘れていた私はショックを抱きながら、ムーディ先生がドラコくんを引っ張っていくのを見送りました。

ふと我に返ると足元にいるフェインが不安そうに私を見上げていました。近くにはハリー達の姿もありました。

「リク、大丈夫?」
「しょ、ショックがありすぎてまだショート中です……ドラコくんがイタチ…?」

呆然と呟く声にロンがぷ。と零すように笑いました。

いえいえ、笑い事ではありませんってば。


†††


私が眠って、次に目を開けた瞬間、目の前にヴォルデモートさんがいて、少なからず驚きました。

「貴様、この前は逃げたな」
「不可抗力ですよー」

ヴォルデモートさんが動けずにいるのをいいことに、私は彼が座っているソファのすぐ横に座りました。

衰弱した赤ちゃんの姿をしているヴォルデモートさんは不機嫌も不機嫌。
私が生身なら殺気だけで、瞬殺されてしまいそうです。

「ヴォルデモートさん、体の調子はどうですか? 大丈夫ですか?」
「気安く名を呼ぶな」
「でも、目の前にいて『例のあの人』とは呼べませんよ。
 私、魔法族の生まれではないので、名前が怖いとは思いませんし…」

首を傾げながらクスクスと笑うと、背中側からバッと大きなヘビが飛び込んで私の身体を透かして現れました。

「び、びっくりしました。えっと、ナギニちゃん? 身体越しの登場はやめてくださいよ…びっくりしちゃいます」

私はそのヘビ――ナギニに話しかけます。
能天気な私を、座ったヴォルデモートさんが見下ろしていました。

「お前が知っていることを全て話せ」

命令系なところは本当、リドルくんそっくりです。いえ、同一人物なんですけど…。

私はわかりやすくぷいと顔を背けて、ナギニの姿を追いかけていました。
どこかナギニも楽しそうにしている気はします。

殺気を飛ばしてくるヴォルデモートさんをチラと振り返って、そのソファの前にペタンと座ったまま微笑みました。

「もう1度しか言わない。お前の知っていることを話すんだ」
「じゃあ私も1つだけお願いがあるんです」

微笑みながら私は人差し指を頬に当てて首を傾げました。

「ヴォルデモートさん、私とお友達になってください」

呆気に取られるヴォルデモートさんと、私の後ろでヘビながらに笑うナギニがいました。

だって、リドルくんとはお友達になれたのですから。
未来の彼とだってお友達になれるはずですよね。

何も言ってはくれないヴォルデモートさんに少し寂しくも思いながら私は立ち上がって、グッと伸びをしました。
ヴォルデモートさんにふふと笑いかけます。

「明日、出来たらまた来ますね。良いお返事を期待しています」

マグル嫌いの彼がマグル生まれの私と友達になれたのなら、未来は何か良い方に変わっていけるのでしょうか。


†††


学校での日々は特に何かあるわけでもなく、ついに私がなんとなく苦手としているムーディ先生のDADA(闇の魔術の防衛術)初授業の日がきてしまいました。

私はずっと首を横に振っていたのですが、ハリー達に連れられ、教卓の真正面、最前列に座っていました。

私達は教科書を取り出して先生を待っていました。

フェインはというと今日は隠れたりはせずに、机の上で鼻息を荒く警戒しています。

やがて少しずつコツコツという音が付いてくるのが聞こえました。思わず私の肩が震えます。

最初の出会いでフェインを掴み上げられ、2回目もフェインを鷲掴みにされ、3回目にいたってはイタチドラコくんを投げつけられるという…。
あ、思い出したくなくなってきました。

そして、いつもの不気味な姿が現れます。彼はフェインをちらりと見ると、すぐに机に向かい腰を下ろしました。

「そんな物、しまってしまえ」

生徒が首を傾げます。ムーディ先生が唸りました。

「教科書だ。そんな物は必要ない」

ハリーの隣にいたロンが顔を輝かせました。

教科書なしの授業は去年のリーマスさんのボガード以来です。
その前はロックハート先生のピクシー妖精でしたから、楽しくなるかどうかはまだわかりませんけど…。

ムーディ先生は出席簿を取り出して、生徒名を呼びはじめました。順番に呼ばれる名前に順番に上がる声。

右目の義眼がぐるぐると忙しなく動き回っていました。

「あー、リク・ルーピン」
「はい」
「……こいつは?」

流れていくかと思ったのですが、ムーディ先生は義眼でフェインを見つめます。

フェインは身体を持ち上げ、ムーディ先生を睨みつけていました。本当に敵愾心バリバリですね、フェイン。

「シュー!」
「ムリフェインです。フェインと呼んでます」
「毒はないんだな?」
「はい。――――多分」

そういえばフェインの種類を調べたことをありませんでした。毒ヘビではないでしょうけれど…。

ムーディ先生は杖を取り上げ、いきなりフェインに向けました。
はっとフェインに手を向けましたが、既に遅くフェインの身体がムーディ先生の方へ吸い寄せられていきました。

「きゃー!?」
「シャー!?」
「今日の授業の協力をしてもらおうか」
「酷いことしないでくださいね!?」

油断しました。2度あることは3度あるのです。
フェインを誘拐? されて私は肩をがっくりと落としました。

「よし、それでは」

ムーディ先生は出席簿を閉じて、フェインを机の上に乗せます。
もう最高潮に不機嫌なフェインは蜷局を巻いて机の影に隠れてしまいました。

「このクラスについてはルーピン先生から手紙をもらっている」

あ、そういえばリーマスさんがお手紙を書いていたような。
校長先生宛だと思っていたのですが、ムーディ先生宛でしたか。

手紙の内容は去年扱った闇の生物のことで、私達はがやがやと同意しました。

「しかし、お前たちは遅れている…。非常に遅れている。
 呪いの扱い方についてだ。
 そこで、儂の役目は、魔法使い同士が互いにどこまで呪いあえるのか、お前達を最低限まで引き上げることにある。
 わしの持ち時間は1年だ」
「え? ずっといるんじゃないの?」

ロンが思わず口走りました。義眼がぐるりと回ってロンを見据えます。

「お前はアーサー・ウィーズリーの息子だな、え?
 お前の父親のお陰で数日前、窮地を脱した…あぁ、1年だけだ。
 ダンブルドアの為に特別に1年な。その後はまた静かな隠遁生活に戻る。
 ではすぐ取りかかる。まずは呪いだ」

フェインがぶるっと震えました。
お願いですからフェインに呪いをかけて試す。だなんてことはしませんよね…?

私の心配は伝わらないまま、軽い説明をしたムーディ先生が生徒を見回しながら質問しました。

「さて……魔法法律により、最も厳しく罰せられる呪文が何か、知っている者はいるか?」

その言葉に顔を見合わせながら何人かが手を挙げました。
近くを見ると、いつものハーマイオニーとそしてロンも手を挙げていました。

ムーディ先生はロンをさします。

「パパが1つ話してくれたんですけど……たしか『服従の呪文』とか何とか?」
「あぁ、その通りだ。
 一時期、魔法省をてこずらせたことがある」

先生はそう言って、机からガラス瓶を取り出しました。

その中には黒いクモが3匹。這い回っていました。
ロンがぎくりと身をひきます。…確かクモが嫌いなんでしたっけ。

視線が先生の手と取り出したクモに集中します。

「インペリオ(服従せよ)!」

クモはムーディ先生の手から離れ、後ろ脚で立ち上がり、タップダンスのような動きをしはじめました。

隣のハリー、ハーマイオニー、クモが苦手なロンも笑みを浮かべていました。
クラス中が笑う中、私は息を潜め、そのクモの行方を見つめます。

机の上でタップダンスを踊るクモは、興味津々で出てきたフェインの前で踊ります。

「面白いと思うのか?」

ムーディ先生は低く唸りました。
フェインはチラチラと私の方を見ながら、踊るクモを囲むように長い身体を這わせていました。


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