「ハリーくんは箒に乗るのは、得意なんですか?」
「僕も今日初めてなんだ…。どうしよう」
「どうしましよう?」

木曜日になりました。今日はスリザリンと合同で、初めての飛行訓練があるのです。

「ロンくんは――? やっぱいいですよ」
「あ、酷い!」
「なんだかロンくんは得意そうなんですもん」

聞くとロンくんは少し得意げな顔をしたので、私はすぐにハーマイオニーちゃんに切り替えました。
ですがハーマイオニーちゃんは真剣にクィディッチの本を読んでいて、お話かけづらかったので私の視線はまたハリーくんへ。

「不安です…」
「大丈夫だよ、リクは魔法族の人と暮らしてたんでしょ?」
「はい。でも箒は得意ではない人なのです」

ハリーくんはきっと大丈夫。大得意ですよ! 私見ましたもん! というのは口に出さないでおきます。

朝ご飯を食べていると沢山のふくろうが飛んできました。私の所にもふくろうが飛んできます。
いつものリーマスさんからのお手紙を受け取っているとロングボトムくんの所にも荷物が振ってきました。

ロングボトムくんは何か丸いものをもっています。

「ロングボトムくん、それなんですか?」
「これ 思い出し玉だよ!
 こういうふうに、ギュッて握るんだよ。もし赤くなったら………あれ…」

ロングボトムくんが強く握ると、思い出し玉の煙が突然真っ赤になりはじめました。凄い。
なんでしょう? 彼は愕然とした様子でしたが。

「………何か忘れてるって事なんだけど…」
「あ、ドラコくん」

その時、ドラコくんがグリフィンドールの私達のそばを通り掛かり、ロングボトムくんの思い出し玉を手にとりました。
ハリーくんとロンくんが怒りの表情で勢いよく立ち上がります。私がまた声を上げました。

「あ、マクゴナガル先生」
「どうしたんですか?」

その時丁度、マクゴナガル先生が現れました。

「マルフォイが僕の思い出し玉を取ったんです」
「…見てただけですよ」

ドラコくんはすぐに思い出し玉をテーブルに戻して去ってしまいました。


†††


「なにをボヤボヤしてるんですか! みんな箒の側に立って。さぁ早く!」

フーチ先生は日本でいう熱血先生なのだと一瞬で理解しました。
私達は何十本の箒の横にそれぞれ立ち、不安そうに箒を見下ろしていました。

「右手を箒の上につきだして、そして『上がれ!』と言う」

競技場に上がれの声が広がります。
ハリーくんの箒が1度で手に吸い込むのを見えました。さすがです。

「上がれ。上がれ、上がれ!………上がって下さいっ」

私は4回目で成功しました。慣れない命令系より、敬語の方がしっくりきます。
フーチ先生の次の指示が聞こえてきました。

「さあ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴ってください。箒をしっかり押さえて。
 2メートルほど浮上して、それから少し前屈みになってすぐに降りること。
 いいですか。いきますよ。1、2の…――――こら、戻ってきなさい!」

ロングボトムくんがいきなりびゅー! っと空を飛んでいってしまいました。
彼が真っ青な顔で上がっていて、箒が手から離れて、真っ逆さまに落ちて。

ガーン!! ドサッ、ポキっという嫌な音が響きました。
私はぎゅうと目をつぶります。

フーチ先生が駆け寄ってロングボトムくんに話し掛けるのを私達は黙って見ていました。

「私がこの子を医務室に連れていきますから、その間、誰も動いてはいけません。箒もそのままにして置いておくように。
 さぁ、行きましょう」

ロングボトムくんが手首を押さえながら競技場を、先生に抱き抱えられるようにして歩いていきます。
この前も魔法薬がかかったばかりですし、災難ばかりですね。

「……大丈夫でしょうか」

呟くと急にドラコくん達が笑っているのが聞こえました。
それからスリザリンとグリフィンドールで言い争いが始まります。

私はその真ん中あたりでおろおろとドラコくんとハリーくんを交互に見つめていました。
どっちにもつけずにいた私はおろおろ。うろうろ。

いつの間にかドラコくんがロングボトムくんの思い出し玉を持っていました。ハリーが手を伸ばします。

「マルフォイ、こっちへ渡してもらおう」
「それじゃ、ロングボトムがあとで取りに来られる所に置いておくよ」
「こっちに渡せったら!」

ハリーくんが強めの口調でいうとドラコくんが箒で飛び上がります。
誘われるようにハリーくんも飛び上がって行きました。

「わぁー、2人とも上手じゃないですかー」
「何言ってるのよ、リク! 先生に見付かったらどうなるか…」
「大丈夫ですよ」

むしろこのハリーくんの箒捌き?を見てもらわなくては!

「ハリー・ポッター…!」

マクゴナガル先生です! ハーマイオニーちゃんが口を覆って、ハリーくんと先生を見ていました。

先生が大股に城に向かい、ハリーくんがとぼとぼとそれに付いていきます。

ドラコくんが空から戻ってきたので、私は彼に駆け寄りました。
グリフィンドール生が来た事で、周りのスリザリン生が驚いていました。

「ドラコくん、怪我はありませんか?」
「もちろんだ。ハッ、ポッターは終わったな。最速での退学だろう…」

せせら笑うドラコくんに私はニコニコと笑顔をむけました。

「ハリーくんのお父様はきっと鼻高々でしょうけど」

私の言葉に不思議そうにするドラコくんに、これからのことを知っている私は慰めるようにドラコくんの肩に触れたのです。


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