薄暗い、草が不揃いに生えきった墓場。奥には教会の黒い輪郭と、そして古い館の姿。

私は痛みを堪え、スッと立ち上がりました。
暗がりで声がした方を見ると、フードで顔を隠した小柄の人影がローブに包まれた『何か』を抱えていました。

痛みに片足を引きずりながら影に近付くと、私は嫌悪感に顔を歪めました。

「…ピーター・ペティグリュー…!!」

小柄な人影はリーマスさんを裏切ったピーター・ペティグリューだったのです!
私は近付いて来るピーター・ペティグリューに嫌悪感を剥き出しにしながら、抱き抱えられている『彼』に視線を移しました。

手を伸ばし、ピーター・ペティグリューから『彼』を受け取ると私は両手で抱きしめました。
肩がじわっと痛みましたが、私は小さく微笑みました。

「初めまして。ヴォルデモートさん」

縮こまった赤ちゃんのような。重度の火傷をおった赤むけのどす黒い肌を私は撫でます。

ヴォルデモート卿が私の腕の中にいました。

「あぁ、初めてだな、リク…」
「ヴォルデモートさんのおかげでここまで来れました。
 ……ですが、お礼を言うのは控えさせて貰います。
 私は、ハリーの味方ですから」

私がヴォルデモートさんを抱えている間、ピーター・ペティグリューが1つの墓石の前で、巨大な石鍋を動かしていました。
ヴォルデモートさんは低く、くつくつと笑いました。

「ハリー・ポッターの味方か。
 ではこれからどうするつもりだ? ハリー・ポッターはやがて現れるぞ」
「え。ですが私が優勝杯を」

振り返ると優勝杯はどこにもありません。

私の顔が初めて青ざめました。ヴォルデモートさんがまた笑いました。

「貴様、途中で優勝杯を手放したな?」
「え…でも…あ…」

優勝杯―――移動キーで動いている最中、じわっと広がった頭痛に私は手を、離してしまったのです。

タイミングを計ったかのように、私が現れた場所とほぼ同じ場所に2つの人影が。
杖を出すピーター・ペティグリューが見え、私はつんざくような悲鳴をあげました。

「ハリー! 来てはいけません!! やめて――!!」

駆ける緑の閃光。

呆然とするハリーの隣、ディゴリー先輩が倒れていくのが、随分とゆっくりと見えました。
ハリーの足元に大の字に倒れるディゴリー先輩。

セドリック・ディゴリーは死んでいました。

墓場に私の悲鳴が響きます。頭が真っ白になり変えられなかった未来に絶望する私と私のつんざく悲鳴に顔をしかめるヴォルデモートさんがピーター・ペティグリューに何かを言いピーター・ペティグリューがガタガタと震えながら頭を下げましたハリーがピーター・ペティグリューに引きずられて墓石に縛り付けられました――。

「ナギニ、リクを押さえていろ。リクだけは殺すな。リクだけは傷付けるな」

いつの間にか腰が抜けた私は地面に座り込んでいました。ナギニが私の腰に巻き付き、私を立ち上がれなくします。
頭を私の膝に乗せたナギニは舌をちらつかせました。

呆然とした私の腕からピーター・ペティグリューがヴォルデモートさんを受け取ります。
ハッとハリーを見ると、口に何かを詰められたハリーが墓石に縛り付けられたまま、額を強く押さえていました。

石鍋にはすでに液体がボコボコと沸騰していました。
ピーター・ペティグリューがヴォルデモートさんを掲げ、石鍋の中へと入れます。

私の視線は既に石鍋から離す事が出来なくなっていました。
続けてピーター・ペティグリューの震えた声が響きます。

「父親の骨、知らぬ間に与えられん。父親は息子を蘇らせん!」

ハリーの足元が割れ、細かい塵のような骨が鍋に降り注ぎました。

「しもべの肉――、よ、喜んで差し出されん。――しもべは――ご主人様を――蘇らせん」

啜り泣くピーター・ペティグリューが銀色に光る短剣を取り出して、鍋の上に右手を出しました。
私の息が止まります。視線が外せません。
ピーター・ペティグリューの絶叫と共に右手がたたき落とされ、石鍋の中へと入って行きました。

恐怖に私の目から涙が溢れます。ポタポタと零れた涙がナギニに降り注ぎます。

「敵の血――力ずくで奪われん…。――汝は――敵を蘇らせん」
「! ピーター・ペティグリュー!!」

私が叫びました。立ち上がろうとするとナギニが私の身体を強く押さえました。

暴れるハリーに銀色の短剣を走らせたピーター・ペティグリューが、傷口から滴る血を硝子瓶に移し、それから石鍋の中に注ぎます。
注いだあと、ピーター・ペティグリューは落とされた手首を押さえながら、地面に転がり啜り泣いていました。

そして石鍋はグツグツと煮え立ち、四方八方に閃光を放ちます。
が、閃光や火花が突然止み、蒸気が溢れ出て辺りを包みました。

石鍋の中に、ゆっくりと立ち上がる姿が見えました。

「ローブを着せろ」

声が聞こえます。ピーター・ペティグリューが慌ててローブを被せると、人影は石鍋を跨ぎ、ハリーに近づきます。

彼は自分の身体を調べるように撫で、勝ち誇ったように怪しく笑いました。

ヴォルデモート卿は復活したのです。


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