ハリーのもとに吸魂鬼が襲撃してから、4日経った日でした。やっと、ハリーの元に行く計画が練り上がったのです。

ムーディ先生指揮の計画でしたので、随分と慎重なものになっています。ハリーがこちらに来る間に襲われてしまっても困りますものね。
出発は朝食をとってからを予定していました。

リーマスさんと一緒に厨房に入ると、既にモリーさんが朝食の用意を始めていました。

私もお手伝いをしようと慌てて駆け寄ります。肩に乗っていたフェインがするりと落ち、机の上に乗っていました。

「モリーさん、おはようございます。
 私もお手伝いしますね」
「おはよう、リク。
 じゃあ、そこの野菜刻んでくれる?」
「はい」

人参と包丁を手にとります。厨房にはまばらに人が集まり始めていました。

ウィーズリーの方々はとっても優しいです。複雑な立場にいる私を、ハーマイオニーと同じように可愛がってくれていました。
流石に『ヴォルデモートさん』と、彼を敬称付きで呼んでいるときはいい顔はしませんけれど。

その時、ハーマイオニーがオレンジ色の猫であるクルックシャンクスを抱えて入ってきました。私の姿を見て小さく微笑みます。

去年の最後からハーマイオニーとロンとの会話はあまりありません。ハーマイオニーは私との距離を図るように微笑んでいました。

「私も手伝います」
「じゃあ、ハーマイオニーは食器を出して。
 リクもハーマイオニーも助かるわ」
「いいでしょ」
「誇らしげなリーマスさんが素敵です」

たっぷり親子でいちゃいちゃしながら(周りは既に苦笑を零していました)、朝食の準備がすすみました。
厨房が賑やかになっていきます。シリウスが降りてきた辺りで朝食の準備が整いました。

欠伸を零したシリウスに寝癖がついていたので、私は苦笑を零して彼の真っ黒い髪に触れました。

「寝癖みっけです」
「あー、いいのいいの」
「なんか…リクちゃんとシリウスが仲良すぎて、シリウスに殺気沸く瞬間ってあるよね」
「真顔で言わないでくれ、ムーニー」

にっこりと笑顔を見せたリーマスさんにシリウスの表情が青くなります。私はクスクスと苦笑を零しました。

そしてみんなが席に着き、私がいつものように両手を合わせました。リーマスさんも手を合わせます。

「いただきまーす」
「ずっと思ってたけど、リクとリーマスのそれってなぁに?」

私の隣に座ったジョージ先輩がパンに手を伸ばしながら言いました。同じく私もパンに手を伸ばしながら答えます。

「日本の習慣なんですよー。ご飯を食べる前に「いただきます」で、食べ終わったら「ご馳走さま」って言うんです。
 食材に感謝の気持ちを込めるんです」
「私はリクちゃんの見よう見真似だけどね」
「日本かぁ、私も行ってみたい!」

ジニーちゃんが目を輝かせながらいいます。私は思い出すように話し出しました。

「日本は良いところですよ。気候も安定していてのんびりしてますし、親切な人が多いんです。
 食べ物も、こちらと比べると幾分薄味ですが、とっても美味しいですよ」

カロリー控えめです。と言うと、女性陣の輝いた瞳を受けました。

話していくうちに、ふんわりと懐かしい日本を思い出します。
何を話したらいいんでしょう。んーと悩むように頬に指を当てて考えるとパッと夏のお祭りが思いつきました。

「夏にあるお祭りは楽しかったです。
 結構いろんなところで開催されて、女の子は浴衣を着て、みんなで花火を見たりするんです」
「ユカタ?」

マグル大好きなアーサーさんが楽しげに食いつきます。浴衣の説明って難しいです…。首を傾げつつ、曖昧に説明をはじめます。

「伝統服である和服の一種でして…、着物という種類よりは簡単に着られるようになっているんです。
 男の方用もあるんですが、女の子の方が可愛い柄が多いんですよー」

蝶々とか紫陽花や牡丹、金魚や兎の模様。賑やかで華やかで、でも日本らしくおしとやかで。
 
「ですが、1人で着るのは慣れていないと大変で、私はいつもママに着付けてもらってて――」

空気がガラリと変わったのが感じ取られました。
私は首を傾げて自分の言葉を、内心で反復します。隣で静かに食事をするリーマスさんを見て、私は真っ赤になって俯きました。

私、さっき「ママ」って…! 今はリーマスさんが私のお父さんなのに!

「リク、日本食ってこっちでも作れるのか?
 食べてみたいんだが」

真っ赤になった私を見てシリウスが少し急いでそう言いました。はっと顔を上げて、はにかみます。

「材料さえあれば大丈夫だと思います。ロンドンまで行けば材料も揃うはずですし」
「じゃあ、今度日本食を作ってみようよ」

にっこりと笑ったリーマスさんがそう言いました。私に微笑みつつ、手を伸ばして頭を撫でてくれました。

置いて来てしまったママとパパ。1年生の時に『みぞの鏡』で見た2人。
私が今『みぞの鏡』を覗いたら、一体何が見えるのでしょうか。

朝食中はみんなぎこちなく話しながら、私とリーマスさんをチラリと見ているようでした。

そう言えば血の繋がりはないと言うことはみんな知っていますが、どうして私がリーマスさんの娘になったかという経緯を知っているのは、この中ではシリウスだけでしたね。

少し気まずい空気を残しつつも、私はもふもふとパンをくわえていました。

リーマスさんと一緒に日本旅行に行ける時が、そんな平和な日々が、いつか来るのでしょうか。

そんなことを考えながら。


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