この広い部屋にはヴォルデモートさんとリドルくん以外に、他の死食い人の姿は見えませんでした。
スネイプ先生の姿も見えず、少し不安にもなりましたが、ヴォルデモートさんが何かをいうことはありませんでしたので、私も黙っていました。

そして、朝食を食べ終え、優雅に紅茶を飲んでいた私達でしたが、私はふと、ヴォルデモートさんが不機嫌そうな表情をしたのに気がつきました。

じとー。と私を睨むその視線に少し居心地が悪くなります。
リドルくんを1度見ると、何か意味深な表情をされましたが、そんなんじゃあわからないですよ!

「あの…ヴォルデモートさん、なんだか不機嫌ですね。私なにかしました…?」

思い切ってヴォルデモートさんに聞いてみると、ヴォルデモートさんはムスとした顔のまま静かに言葉を零しました。

「……いや。『リクが』何かをしたわけではない…。
リク。あの狸爺に何かされただろう」
「えっと…ダンブルドア校長先生の事ですか? なにか特別なことはありませんよ?」

どうしてダンブルドア校長先生が出てきたのでしょう。

首を傾げながらどうしましたか?と聞くと、ヴォルデモートさんは再び不機嫌そうな表情を見せました。

「俺様の掛けた呪文に小細工がされている…。
来い。リク」

ヴォルデモートさんの白い手が私を呼びます。
私は立ち上がって、彼の側に近寄ります。すると、ヴォルデモートさんは私の手を引き寄せて、私を膝に乗せました。

困惑する私をよそに、白い手が私の胸元の印を軽く撫でました。

すると印が一瞬赤くなったかと思うと、すぐに緑になり、最後にはまた元の黒い蛇の印へと戻ってきました。

手が離されると、ヴォルデモートさんの掌の上に真っ赤な塊が乗っていました。
それを覗きこむ私でしたが、ヴォルデモートさんはその塊を、私の目の前で忌々しそうに握りつぶしてしまいました。

パキンと砕かれ、粉々になる塊。沢山の欠片達はやがて霧になって消えてしまいました。

「2度とこんな真似はさせるな」
「えっと…今の、なんです? こ、心当たりが無いのですが……」
「ここに来る前にあの爺と何か接触がなかったか?」

私はヴォルデモートさんの膝の上に乗ったまま首を傾げます。ふと、ここへ来る直前にこの印の部分が一瞬熱くなったことを思い出しました。

「うーん…。あ、来る前に軽く肩に手を置かれたぐらいですけど…?」
「きっとそれだね」

不思議そうにしていた私でしたが、リドルくんはそう断言します。
微笑みを浮かべているリドルくんとは反対に、ヴォルデモートさんからは殺気が滲みでていました。

「……忌々しい」

リドルくんはニヤニヤとヴォルテモートさんを見ていました。

「随分な独占欲じゃあないか」
「黙れ。
それに、この呪文は俺様以外に干渉される訳にはいかない」
「…ま。それには、僕も同意だ。
気をつけなよ。リク」
「? 最終的に私が悪いことになってません? そして話が見えませんし…」
「あぁ。全面的に君が悪い。だけど、君が気にする話でもないよ」

ニッコリと微笑むリドルくんとは対称的に、むーと頬を膨らます私。

ヴォルデモートさんは私の髪を一束取って撫でました。
少し恥ずかしくなった私は彼から少し離れようとしますが、膝から逃れることができませんでした。
彼は何事もなかったかのように紅茶を飲んでいます。

リドルくんは思い出したように、私の手元にあった黒い日記をもう1度手に取りました。大きな穴はいつの間にか塞がれていました。

「あぁ、そうだ。ハリー・ポッターとかに僕の本体を見せないでよ。僕がまだ存在しているのだとバレても困るし、面倒だ」
「……ではブックカバーとか買ったほうがいいでしょうか。お花柄とか?」
「やめてよ」
「可愛いですよー?」

ニコニコと笑う私にリドルくんは苦い表情。
私は日記を手に取り、数ページめくってみました。そこは変わらず白紙のページが続いています。

「なんだか懐かしいです。この日記を初めて見たのが2年生の時で、私、今年で5年生になるんですよー」
「へぇ。今のこの僕の姿と同い年か」
「………そう考えるとリドルくんって背が高いですね…」
「君が小さいんだ」
「むー、酷いですよ! 日本人の一般的なサイズですー」

今、私達は5年生。ハリーが卒業するのは7年生の時です。

着実に、終わりに向かっているこの物語に、私の表情が厳しくなります。

私が知っている物語ではリドルくんが復活することはありませんでした。
このことが未来を変えるために何か影響すればいいんですけれど……。

そこで、ヴォルデモートさんが蛇語でリドルくんに話しかけました。首をかしげる私の横、2人は蛇語でなにか会話をしています。
少ししてお話が終わると、ヴォルデモートさんがやっと私を膝から降ろしてくれました。
立ち上がったヴォルデモートさんとリドルくんを見上げると、ヴォルデモートさんが杖を振り、私の目の前に分厚い本を呼び寄せました。

「リクはここにいろ。すぐ戻る」
「? はい。わかりました」

きっとこの本は暇つぶしの本なんでしょうね。
扉から出ていってしまった2人を見送りながら、本の表紙を見ます。これはどうやら魔法界の童話集のようでした。

ヴォルデモートさん、私のことを子供扱いしていますね。そうなんですね! ムスと頬を膨らましながらも私は本を開きます。

そして『毛だらけ心臓の魔法戦士』を読んで号泣してしまった私は、戻ってきたリドルくん達にとっても驚かれてしまったんですけれど。


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